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ひと段落

慌てて落としそうに器を支える男を横目に、シェナはお腹を空かせた子ドラゴンのご飯を用意する事にする。


小皿を取り出し、その中にカバンの中の卵の殻を数個、細く砕き、森で狩った鳥系の魔獣の脂身が少ないささ身の部位を小さく細切りにして細かく砕いた卵の殻と混ぜる。

コレが、子ドラゴンのご飯だ。


ドラゴンは卵から孵ると母ドラゴンは先ず最初に子ドラゴンに孵った卵を口にさせる。

そうする事で、体の免疫力を高め、強い体を作る。

本当は一緒に小型の魔獣を生き餌にするにが一番だが、採りに行くのは面倒くさいので、コレで我慢してもらう。


「ほーら、チビちゃんご飯だよ」

「キュッ!キュッ!」

「ちょ、いや、何でそんなに落ち着けているんだ!?」

「ん?」

「キュ?」


シェナが膝に乗せた子ドラゴンにご飯を食べさせていると、男は焦った声を上げて、シェナに問いかける。


「君、『ゴブリン』に追われていて、何でそんなに落ち着いていられる?!」

「お兄さんこそ、落ち着きなよ」

「っ、だが!」

「大丈夫だよ」

「ッ、・・・・・」


焦る男に対し落ち着いているシェナの言葉に、男は押し黙る。


「このカマクラには結界を張っているし、もうすぐ夜明け。満月の影響で活発化しているとは言え、日が出れば魔獣達の活動は少しは落ち着く。それに、もう私の所属ギルドに救援要請をしたから、早くて今日のお昼過ぎ、遅くても3日以内には救助してもらえるよ」

「・・・・・」


難しい表情の男。

まぁ、無理もない。


ゴブリンは集団で行動する闘能力が高く、更に知能も高く、武器や戦略を使ってくる厄介な魔獣だ。

普段は交戦的では無いのだが、怒らせると、かなり執念深い。

過去に一体のゴブリンを怒らせて、集団で襲われ、逃げ込んだ村まで追いかけて来たと言う話はよく聞く。

本来なら、集団で追いかけ回される前に森から抜け出して、姿を暗ませるのが一番なのだが、今回はそうもいかない。


「何故、逃げない」

「お兄さんと子ドラゴンを背負って逃げる自信は無いから」

「・・・・・、俺が邪魔なら、見捨てればいい」

「見捨てて逃げるつもりだったら、初めからお兄さんを背負い込んでないよ」


まぁ、成り行きだけどね


「だが、」

「・・・・・お兄さん、しつこい」


余りにも男が食い下がり気味だったのでシェナは少し声を低くして男を睨む。

シェナのひと睨みで男は再び押し黙る。


不安で思考が追いつかないのは分かるが、コッチにも考えと都合がある。


「大丈夫、今は下手に森の中を動き回るより、結界を張って中で大人しく助けを待つのが今の最良だから」

「・・・・・」

「見捨てるくらいなら、最初から関わっていない。・・・・・それより、早くソレ食べちゃって」

「は?」

「チビちゃんが、お兄さんのすいとんに興味持っちゃってるから、早くお腹に入れてくれる?」


いつの間にか小皿の中の肉を全て食べ終えた子ドラゴンがジーっと男の持っている器を見ている。


「食べないなら、もう、片付けるけど?」

「、あ、ああ」


男は、シェナの言葉に慌てて、食事を再開する。


「キュッキュッ!!」

「ダーメ。君には味が濃いし、アレはお兄さんのだから」

「キュ・・・・」


男がすいとんを食べるのを見て、何かを訴える子ドラゴンを優しく頭を撫で宥めるシェナ。


生まれたばかりなのに頭がいいなぁ、この子。


男はそんなシェナと子ドラゴンを黙って見ていた。


「・・・・・、一つ聞いていいか?」

「んー?何?」

「エンシェント・ドラゴンはどうした?」


男の質問にシェナの手が一瞬止まる。


「・・・・・。埋めたよ。この子を受け取った後でね」

「埋めた、のか・・・・・?エンシェント・ドラゴン、だぞ?鱗一枚でも金になるのにか?」

「そうだね。でも、ドラゴン、特にSSS級は誇り高い種族。せめてもの敬意で埋葬した」


それが、あの時、私が出来る唯一の葬送だった。


「エンシェント・ドラゴン、を、埋葬?」

「下手に、森の魔獣達が、森に居ない上級なドラゴンの血肉を食べると突然変異を起こしかねない。

そうなると、ネルの森の力関係と共存関係のバランスが崩れる。

それは、魔獣達にも人間にも悪影響だから。だったら、せめて、ネルの森の大いなる大地で眠って欲しかった」

「そう、か、・・・・俺は、何も考えて、無かった」


俯く男の言葉は少しづつ弱くなっていった。

シェナはそんな男を見据える。


「・・・ただ、逃げることばかりで、その後の事なんて、考える、暇が、無、かった・・・」

「それが、普通だよ。・・・生きたいなら、動かないと生きれない」

「そう、か・・・。そう、だな・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」


男は、空になった器を膝の上に俯いた状態で動かなくなった。


「・・・・・。やっと、寝たか」


また、微か男の寝息を聞いて、シェナは漸く肩の力が抜けた。

実は、男に渡した二杯目のすいとんに睡眠効果のある薬草を入れておいたのだ。


「初対面の相手は、簡単に気を許したら危ないよ。お兄さん」


そう言いながら、子ドラゴンを皮袋に戻し、俯いた状態の男を再び、寝かせ、毛布をかける。

場合によっては、逆上して暴れられたり、カマクラから抜け出して森を彷徨われたら厄介だったので、一服盛ったシェナ。


「あー、疲れた・・・・。薬草は少量だけど、これで数時間は眠っていてくれる」


シェナはカマクラ内の温度を少し上げて、座って壁に寄り掛かった状態で、寝る事にする。

横には子ドラゴンが入ったカバン。念の為にナイフの柄に手をかけておく。

出来るだけ、眠りを浅くする事を心がけて、瞼を閉じた。


だが、シェナは、自身が思っていた以上に疲れていた。

いつの間に、深く眠ってしまっていた。


「キュ、キュウ」


シェナが眠りに入って暫くして、大人しくしていた子ドラゴンが皮袋から這い出てきた。


シェナは、その事に気が付かない。


子ドラゴンが、ヨジヨジとシェナの膝の上へよじ登り、膝の上で落ち着いたかのように横たわった。


「キュ!!」


子ドラゴンは満足したかのように小さな目を閉じた。


その時、カマクラの結界の外で、複数の足音が聞こえた事に、シェナも男も、子ドラゴンも気が付か無かった。

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