どう言うこと?
ハーフエルフのシェナは旅をしていたエルフの父と人間の母の間で誕生した。
父親のリュバルは遥か西のエルフの国から二度と国には戻らない覚悟で旅立ち、母親のルリコは、リュバルよりも更に遠い所から来たと、シェナは聞かされた。
故にシェナには故郷が無い。パーティーを抜けてフリーになっても帰る故郷もない為しばらくはギルドで厄介になる事だろう。
シェナの所属するギルド『龍の宿り木』ではギルドに入った新人の為に無料で寝泊り出来る部屋が整っている。
手切れ金の銀貨3枚。贅沢をせずに、しばらくギルドで寝泊まりしてフリーでクエストをこなせば何とかなるか。
そう思っていた自分をシェナは激しく後悔した。
ギルドにたどり着き、寝泊まり出来る部屋がないか受付で聞いてみたら、
「はぁ??」
「ですからぁ、シェナ・ミツキさんはぁ、先程ぉ、ギルド『龍の宿り木 』を脱退したじゃないですかぁ」
赤い髪を指で弄び体をクネらせ語尾を伸ばし、化粧品か香水なのかやたらと甘ったるい香りを纏った紫色の瞳をした若い新人の受付嬢。
「いや、パーティーの『ソロモンの槍』は確かに抜けて来たけど、ギルドまで辞めた覚えはない。何かの間違いじゃないか?」
「えぇぇ?でもぉ、ここにちゃぁんと此処に書いたあるんですけどぉ?」
そう言って、徐に取り出した一枚の紙にシェナは目を見開く。
「どう言う事?これ・・・・、何で、ギルド脱退の書類に私の名前が書かれているの」
驚きと怒りで思わず低くなるシェナの声に周りが振り向くが、シェナ自身はそんな事気にしている余裕が無かった。
「えぇぇ?自分で書いたんじゃないんですかぁ?」
受付台に左腕で頬づえをつき右手にギルド脱退の書類をヒラつかせる新人受付嬢。
明らかに人を馬鹿にしている。
パーティーを辞める時と同様にギルドを脱退する時も書類が必要だ。但し、その場合、脱退する者の名前と所属ギルドマスターの名前、更にギルドマスターが所有している認め印の判子を押して初めて、脱退出来る。
この書類にはシェナの名前とギルドマスターの名前。そして、ギルドマスター認め印が確かに押されている。
だが、納得出来るはずもない。
「ふざけないで。何で私がギルド辞めた事になっているのかを聞いているの」
「むぅ、私に聞かないでくださいよぉ。マリリそんな事聞かれても、分かんない」
マリリと言った受付嬢は小さく頬を膨らませ子供のようにそっぽを向く。まったくこっちの話しを聞く気がないようだ。
このままじゃ埒があかない。
「もういい。ギルドマスターに合わせて。直接話しをする」
「あ、ギルドマスターはぁ、居ませんよぉ?」
「はぁ?」
「どっかに出かけちゃいましたぁ」
間伸びした声と明らかに仕事を舐めているマリリにシェナの不快指数は上がっていく一方だった。
「どっかって、貴方受付嬢でしょ、ギルドマスターの行き先くらい把握しておきさいよ」
「えぇぇ?マリリ、入ったばかりだからぁ、分からない」
ふざけんなよ、このブリっ子女。
水の魔法を使ってその厚化粧今すぐ此処で洗い流したろうか?
流石にキレかけ、右手に水魔法を発動しようかと思ったその時、
「シェナ!!」
聞きなれた女性の声に呼ばれ、振り返ると、三角の獣耳をはやし腰辺りにフサフサの尻尾。背中に大舘を背負ったオレンジ色の髪の女性がこっちに向かってきた。
「アーシアさん」
狐の獣人でギルドの大先輩で私の事を可愛がってくれるお姉さん的存在な女性。
だが、今はオレンジ色の瞳が少し困惑したように見える。
「ちょうど、ギルドに用があって来てみたんだけど。シェナ、ギルドを辞めたって本当なの?」
「私も今その事を聞いていたんです」
「そう、ちょっと、貴方」
アーシアがカウンター席越しにマリリと向き合う。
「シェナがギルドを辞めた理由は何?」
「・・・・チッ、その人はぁ、ギルド脱退の書類にちゃぁんとサインしているんですぅ」
さっき舌打ち聞こえたぞ。アーシアさんが来てから何処かアーシアさんに対して嫌悪感を感じる。
「ギルドマスターはこの事を承諾しているのよね?」
「書類にぃ、ギルドマスターの判子がちゃんと押されていますぅ」
「ギルドマスターに確認取れるかしら?」
「ギルドマスターはぁ、今居ません」
「何処へ行ったのかしら?」
「マリリ、何も聞いていないから、分かりません」
「随分と使えない受付嬢ね」
ブリザード。此処の周りだけブリザードが吹き荒れていよ。周りのギルドメンバーも遠巻きになっているよ。そして、マリリの間伸びした語尾が段々無くなってきている。
「・・・・・じゃあ、そのサインされた書類見せてもらえるかしら?」
「・・・・部外者に見せていいものではないので」
「さっきこれ見よがしにヒラつかせていたのは貴方でしょ」
流石、『龍の宿り木』の古株アーシアさん。声色は穏やかだけど、目の威圧感が半端ない。
「・・・・・・・・・」
マリリ、黙り込んじゃったよ。
アーシアさんも黙って、マリリを無言で威圧する。
アーシアさんの乱入ですっかり毒気抜かれて、このブリザード状態をどうするかと思っていると、
「マリリ!!!」
いきなりの怒声が辺りに轟く。
「ゲッ!!」
今まで黙っていたマリリの顔があからさまに歪んだ。
カウンターの奥から、栗色の髪をした女性が出てきた。銀縁の眼鏡をかけ、その奥の赤い瞳は明らかに怒りを表していた。
「貴方、こんな所で何をしているの!!貴方には他に仕事を頼んだ筈でしょうが!!」
「エマさん」
ギルドのもう1人の受付嬢、エマさん。
いつもはニコニコ優しい笑みでギルド内に癒しを与えているのだが、今の彼女は憤怒の顔だ。
「ッ、・・・・・だって、分かんない所が有ったから、後でやろうと思ったんです」
「分かんない事があるなら聞きに来なさいと何度も言ったでしょう!?それに、貴方は新人、まだ裏方が主でしょう!誰がカウンター受付を頼んだの!?」
うわぁ、この子やりたい放題だな。ギルドよくこの子雇ったな。
「おまけに、この書類は重要書類だから勝手に持ち出してはいけないって言われてたでしょう」
「むぅ、ギルドの外に持ち出していないから、いいじゃないですか」
「そう言う問題じゃありません!!いい加減にしなさい!!!」
うわぁ、マリリの反省の無さにエマさんマジ切れ。コエ~。アーシアさんがブリザードならエマさんは烈火の如くだな。
当事者でありながら他人事のように見ているシェナ。
エマさんに説教され、裏に行かされたマリリ。何か色々文句を言ってたみたいだったが、エマさんとアーシアさんの睨みでそそくさと裏に逃げて行った。
「お疲れ様、エマ」
「お疲れさまです。エマさん」
思いっきり疲れた表情のエマさんに労いの言葉をかける私とアーシアさん。
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