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毒を盛ったのは誰だ

作者: 虹彩霊音


叡智「……ようやくここまで来たな」


黄泉比良坂までわざわざ足を運んできた物好き達。その理由は……



叡智「……幻!迎えに来たぞ!」


幻「え……あぁ………うん」




エルドラド「これで幻も生き返るってわけか」


アルカディア「良かった〜、幻さんが居ないと面白くないんだもん」


そこに、一人の死神がやってくる。


エルドラド「お前は」


セメタリー「困りますよ、そんな勝手なことされちゃあ。ちょうどこの方には彼岸を渡ってもらおうとしていたところなのに、勝手に連れ戻すだなんて私が許しませんよ?」


幻「ですよね〜」


セメタリー「………うん?」


死神は首を捻った。


セメタリー「あー…うんうん、なるほどね。みなさん、かなり強引な方法でここまでやって来ましたね。どうりで平気な顔して黄泉比良坂にいるわけですか」


叡智「当たり前だ、幻は私達の家族の一人。あんな死に方されて失うわけにいくか」


セメタリー「そうですねぇ………へぇ、死因はチョコレートに含まれていた毒………か。たしかにお菓子食べて死亡だなんて不憫ですね、わかりました」


幻「え?そんな簡単に?」


セメタリー「ただし」


死神は指を立てて


セメタリー「もちろん条件はつけさせてもらいます」


叡智「はっ!条件だ?言ってみろ、私は幻の姉だ。妹が黄泉帰るならどんなことでもやってやるさ!」


セメタリー「流石は長女ですね、ここ黄泉比良坂のルールはたった一つ。『生きた者は死者を見てはならない』たったこれだけです。貴方達は黄泉比良坂を登る、彼女は貴方達の後ろをついていく。ほんの少しでも、彼女のことを見たら…彼女は二度と生き返れない」


エルドラド「……笑わせる、要するに後ろを見なきゃいい話なんだろ?」


寂滅「それじゃあ、幻。ちゃんとお姉ちゃん達についてくるんだよ」


幻「あ……う、うん…」




…どうやら、私は生き返れるらしい。それは別に問題ない……



   あのチョコレートに毒を盛ったのは誰だ?








叡智「幻、ついてきてる?」


幻「うん、ここに居るよ」


エルドラド「……なぁ、もうそいつぶっ飛ばして行っちまおうぜ?」


セメタリー「無駄ですよ、私を倒してもこの試練は続きます。貴方達が後ろを向いた瞬間、幻さんは地獄行きです」


幻「ひえ〜………っていうか、この坂を上り切っただけで生き返るの?そもそも、私の身体霊体なのに?」


セメタリー「ああ、その点なら問題ありません。あの狐の亡霊がなんとかしてくれていますよ」


幻「暁さんが………」


私も、黄泉帰りたいのはやまやまなんだ。だけど、私が黄泉帰るのを望まない輩が居ることを私は知っている……


まず、事の経緯を説明しよう。まず、アルカディアが里でチョコレートを貰ってきた。みんなでおやつの時間になったら食べようってことになって、お菓子置き場に保存しておいたんだよ。それで、三時になる前に私は一つチョコレートを食べた。その途端に酷い吐き気と眩暈に踊らされてこのザマ。


……チョコレートの包み紙は私が食べるまで開封されてはいなかった。つまりだ、その前に誰かが毒を盛ったということになる。


ははは…いやしんぼだったのが裏目に出たな。私はお菓子が大好物だから、それを狙って毒を盛ったのだろう。しかし、何のために?それがわからないと黄泉帰ったとしても………



寂滅「いやまあびっくりしたよ、人間が霊に毒を盛るだなんてね」


幻「……? 寂滅姉、どういうこと?」


寂滅「ああ…だから貴方に毒を盛ったのは……」


寂滅が幻の方に振り返ろうと……


叡智「寂滅!後ろを見るな!!!」


寂滅「おごっ、首がっ」


叡智「気をつけろ!幻が生き返られなくなるぞ!!」


寂滅「ご、ごめんなさい姉さん。うっかりしてた………首が捩じ切れるかと思った。と、とにかく…件のチョコレートの毒で幻が死んだ後里中大騒ぎでね。その売り子の人間は今天狗達に尋問されてるよ」


幻「証拠は?」


寂滅「いや、特に。でも、普通に考えたら差し出した本人が犯人だって考えるのは普通だよね〜」


確かに、最初から毒が入っていた可能性も零ではないだろう。それに、姉さん達の中に犯人が居ると考えるよりはマシだ。長い間ずっと、一緒に過ごしてきた家族なんだもの……それでも、違和感がある。仮にその売り子が犯人だとする、アルカディアがもしも別のチョコレートの箱を取っていたら?もしも最初に食べたのが私ではなかったら?


幻「うーん………」




          コロ……



幻「!?」


アルカディア「ん?」


純白の龍、アルカディアが振り返りかける。


エルドラド「こらアルカディア、後ろを見たらダメなんだぞ」


アルカディア「あ、そっか。ごめんなさい」


幻「今のはセーフだよね!!?」


セメタリー「いや私が審判をしているわけではありませんが……今後は私を盾にするの禁止ですよ」


よ、良かった。エルドラドがアルカディアを制止してなかったら見られてたかも。それよりも……今転がってきた石は偶然?それとも………




        シュッ  シュッ




エルドラド「ぐわっ!?」


セメタリー「つっ!?」


寂滅「わわ、真っ暗になっちゃった」


叡智「エルドラド!どうして蝋燭の火を……」


エルドラド「違う!何かが手に当たって……」


寂滅「と、とにかく火をつけないと!」


セメタリー「まぁまぁ、落ち着きましょう。こんなこともあろうかと予備の灯りを持ち歩いているので………」


幻「いやそれを最初から使えば………」



私の目の前に灯火が浮く、誰かの顔が見えた気がした。私は咄嗟にその灯火を奪い取った。


幻「あっつ………」


だけど、これで確信した。誰かが私を見ようとしている!さっきの石も、私を見させるためにわざと転がしたんだ!!誰かが……この中に居る誰かが、私をこの場で葬りさろうとしている。あの目は……違う………そんなことするわけがない……ああもう、覚り妖怪にみんなの心を読んでほしいよ!!



幻「………あ」


リザード「どうもこんにちわ」


横穴からリザードがやってきた。噂をすれば何とやら。


セメタリー「おや、珍しい。地下の竜人がこんなところにいるなんぞ」


リザード「お久しぶりですセメタリー、近くの温泉に入ってきたところなのですよ」


バステト「………あっ!君は騒霊三姉妹の末女ちゃんじゃないか!どうして僕に教えてくれなかったのさ!ビーストと一緒に運んであげたのに!」


…………………。


幻「死神さん、ばっちり見られたんだけど」


セメタリー「もともとこっちの住人なので問題ないです」



寂滅「………なんだか後ろが騒がしいね」


叡智「地下世界に住むリザードとバステトが来たらしい」


アルカディア「バステト!?」


エルドラド「こら、後ろを向くんじゃないと言ってるだろ」



セメタリー「今は取り込み中なのですよ、あの方達が幻さんを意地でも蘇らせたいようで」


リザード「そうなのですか、バステト行きましょう。これ以上は特に………」


途端にリザードは頭を少し下げた、すると頭の天辺に瞳がギョロリと開く。


リザード「………………うわぁ」


第三の瞳で彼女達を見たリザードは酷い嫌悪の顔をした。


叡智「…………地下世界の住人よ、何を見たのかは知らないが口出しは御免被るぞ」


リザード「…わかってます、行きますよバステト」


バステト「えー……」






バステト「というわけで、あの四人を振り向かせればこの子は死ぬってわけだね!」


幻「待て待て待て待て待て!!!」


セメタリー「そうですけど、余計な手出しはしないように」


バステト「わかってる、僕はビーストのところに死体を運びたいだけさ!」


話がややこしくなるからやめてくれない!?


叡智「………もう進んでいいか?」


セメタリー「ええ、試練再開です」


………結局、何の情報も得られなかったか。あのリザードの反応、やはり四人の中に犯人が居る。叡智姉のあの言葉……何か意味があるのか?


バステト「…………ていうかさ、あの四人の中に犯人が居るんでしょ?どうしてみんな揃って迎えに来てるの?」


幻「!?」


叡智「おい、バステト。それはどういう意味だ!?犯人は人里の売り子ではなかったのか!!?」


バステト「え、だって新聞にそう書いてあったもん。はい」


バステトは四人に新聞を投げ渡す。


バステト「その売り子の親っさんが無実を証明したんだ、毒はチョコレートの上にまぶした粉状のもの。そしてその毒は君達の家のキッチンから出てきたんだ。君らの誰かが犯人としか言いようがないよ。箱の内側には一切ついていなかったらしいし」


寂滅「幻を殺したのが………私達の中に居るってこと?」


緊迫した空気が張り詰める。




幻「―――私が知ってるのは以上だよ姉さん達」


叡智「…なるほどな」


エルドラド「さっきの蝋燭は誰かが石を投げたせいだったのか」


叡智「みんな、聞いての通りだ。犯人は毒で幻を殺した挙句、ここで永遠に葬りさろうとしているらしい。今ここで、犯人を見つける他ないだろうな。昼過ぎみんなは何してた、正確に答えろ」


アルカディア「僕はチョコレートを置きに行ってそれっきりだよ。あとはずっと兄さんと一緒に居たもん。幻さんは近くでゲームしてたからお菓子開放しておいただけなんだ」


寂滅「ああ、じゃあその時なのかな。外にちらっとアルカディアが見えたのは。私は少し甘いものが食べたくなったから一つとって食べて、その後はずっと自分の部屋。例のチョコレートがあったのを覚えているよ」


エルドラド「俺は昼寝したあと菓子を食べに行ったよ、幻にはバレてなかったみたいだがな」


幻「バレバレだったよ」


エルドラド「え、マジ?」


叡智「きっと最後に幻を見たのは私なんだろう、幻と話をしたあと書斎で本を読んでいたんだが大きな物音がしてな。見に行ったら幻が苦しそうに倒れていた……というわけだ。幻、証言に矛盾は無いな?」


幻「うん、どれも私の記憶と同じだよ」


セメタリー「お菓子食べすぎでしょう貴方達……」


幻「お菓子置き場のお菓子はみんなのものだからね、自由に食べて良いんだ」


叡智「………二人はチョコレート以外を食べたんだな?」


寂滅「私は紅白饅頭」


エルドラド「俺は大福」


叡智「…どうしてチョコレートを選ばなかったの?別に二人はチョコレート嫌いじゃないでしょう?」


エルドラド「えっ、俺らを疑ってるのかよ!なんとなく大福食いたくなっただけだよ!」


叡智「ちがう、疑ってるのは外れた可能性だよ。もし、チョコレートを食べたのが幻じゃなくてエルドラドとかだったら……」


アルカディア「それはないよ叡智さん、僕らは毒なんて食べても最悪泡吐いて気絶するだけで死にはしないよ。龍を舐めないでほしいね」


叡智「ふむ……」


バステト「ていうかさ、普通に考えたら叡智と寂滅のどちらかが犯人なんじゃないの?」


寂滅「は!?」


バステト「だって、龍二人は身体が大きすぎて家には入れないんでしょ?二人が幻が食べる直前に毒を入れたとかじゃないの?」


寂滅「そ、そんなわけ……」


叡智「ふざけるな野獣!どうして実の姉が実の妹を殺さなければならない!!」


叡智姉が怒った、当たり前だけど。


幻「でも、もしそうなったとすれば姉さん達は毒なんて姑息な手は使わないと思うよ。姉さん達は強いからね」


叡智「私は幻の姉だ、幻に死ねと言われれば私は喜んで死んでやるぞ」


幻「うーん、叡智姉流石にそれはシスコンが過ぎるよ」


叡智「え?」


…………なんだろう、叡智姉の言い方に焦燥を感じる。もしかして、叡智姉が犯人なのかな?少なくとも叡智姉が一番怪しいし。一番毒を入れやすい時に来たこと、リザードに向かって放ったあの言葉、あの時の豹のような瞳………


今では比較的温厚な叡智姉だけど、昔はわりと冷徹無表情な人だったんだ。人殺しをすることになんの躊躇いも持たない人。まぁ、それが妖というものだが。


『これ以上妹達に手をかけてみろ、次は腕だけじゃ済まないぞ』


でも、姉さんはだんだんと表情が柔らかくなって、笑ってくれるようになって………


『姉さん、人の腕もぎ取ったりはしないの?』


『そこまで私も暇人じゃないんだ』


『へぇ』


『幻』


『ん?』


『昔の私と今の私、どっちが好きだ?』


『……断然今かな。接しやすいもん』


『そうか。…………幻は動物好きか?』


『ワンちゃん大好き!』


『なら、そうさせてやろうか?』


『え?』


『私と寂滅に獣人の要素が含まれているのは知っているだろう?貴方も犬になりたいと強く想えば霊の脆い精神はあっという間に歪まされ、犬の能力を得ることができる』


『……ごめんね、姉さん。私は霊のままで生きたいんだ』





バステト「あー、結局誰が犯人なのかわからないままだね。そもそも、どうして死んだ人を蘇らせるんだか。そんなの冒涜にもほどがあるよ」


セメタリー「物事にも優先順位があるんですよ」


バステト「優先順位?」


セメタリー「彼女達、幻さんを生き返させるために打出の小槌を使ったんですよ」


バステト「ええっ!?あの一寸法師の!?」


セメタリー「はい、人の死さえも捻じ曲げるほど強力な魔力を振るったんですよ」


バステト「それを使ってまでも蘇らしたかったってことか」


幻「………」



私が死ぬ一週間くらい前だ。


『…ろ!幻…!幻!!』


『あ……叡智……姉……?』


『よかった、正気に戻ったんだな』


『私は……何を?どうして……姉さんが傷まみれ……?』


『外を見ろ、満月だ。光に当てられて妖本来の本能が刺激されたと推測出来よう』


『……ってことは、私が姉さんを……』


『気にするな、寂滅で慣れっこだからな。それに、私も詰めが甘かった。貴方は暴走しないと決めつけていたからな……』



『姉ちゃん!居るか!?アルカディアが暴れやがった!』



『チッ……次から次へと……今日は厄日だな…幻、部屋で休んでいなさい』




『あのアルカディアも満月に当てられたのか。大丈夫なのか?』


『ああ、しばらくは鎖で繋いでおくよ。はっ…昔に戻ったみたいな形相で恐ろしかったぜ…ところで、幻は大丈夫か。下の姉ちゃんみたいに暴れちまったんだろ?』


『ああ……寂滅よりは大人しめだったけどね……』


『なぁ、いっそのことお前らみたいに獣の精神宿らせて耐性つけておいたほうが良いんじゃねぇか?』


『やめろ、幻はエルドラドが思っているより成長しているんだ。それに、純粋な霊体で生きたいと幻本人が言った。姉である私はその意見を尊重する義務がある。たとえ、幻がまた暴れたとしてもな……』




やっぱり、叡智姉が私を殺すわけないか。


寂滅「………? アルカディアはどこに行ったの?」


エルドラド「後ろに居るんじゃないのか?」


幻「こっちには居ないよ」


エルドラド「先に行ったのか?暗すぎてわからなかったのか?」


その時、嫌な予感が思い付いた。


幻「……私の蘇生に打出の小槌を使おうって言い出したのは誰なの?」


寂滅「え…アルカディアだけど…」


私の予感は確信に変わる。


幻「みんな!早く地上に行って!!」


一同「え?」





一寸法師「大丈夫かなぁ、あの人達。打出の小槌は反動も凄いんだから成功させて欲しいんだけど……」


アルカディア「…………」


一寸法師「あ、戻ったのかな…?おかえりなさ―――」





叡智「幻!どういう意味だ!!アルカディアが犯人だと!?」


幻「エルドラド、前アルカディアが暴れちゃった時に鎖で押さえつけたんだよね?」


エルドラド「あ、ああ」


幻「きっと、それが引き金になったんだ。思い出してよ、昔と言えどアルカディアは他人が大嫌いだったんだよ。あの日の満月のせいで、所謂先祖帰りをしてしまって、全てが信じられなくなった彼に戻ってしまったとしたら…!!」


叡智「下剋上のために幻を殺したと!?」


幻「違う、私を()()()()じゃない!()()()()()()()()に意味がある!アルカディアの真の目的はあの打出の小槌なんだ!!私を生き返らせるという目的なら使用許可が降ると踏んだんだ!!アルカディアは打出の小槌を手に入れるために私を殺したんだよ!!」




アルカディア「ふははは!!ようやく手に入れた!!僕の野望が叶うんだ!!僕を虐げてきた人間共!!後悔しろ!!下剋上の時は来た!!!」




バステト「でもさ、打出の小槌は小人にしか使えないんでしょ?」


叡智「え?」





一同「…………」


アルカディア「おい!何で反応しないんだよ!このっ!」


打出の小槌を懸命に振ってるアルカディアが居た。


エルドラド「お前何やってんだ!!!!」


エルドラドの重い右ストレートが炸裂した。


あまりにも結末はしょうもなかった。


まぁ、私も黄泉帰ることが出来たしアルカディアも満月のせいでおかしくなってた。私から言うことは何もないよ。


とにかく、全てが丸く収まったわけだ。



エルドラド「幻、もう大丈夫なのか」


幻「うん!元気いっぱいだよ!」


満月の下、私はそう答える……


幻「ぐっ!!?」


エルドラド「幻!?」


幻「何…急に具合が……」


エルドラド「全然大丈夫じゃねぇじゃねぇか、昨日生き返ったばかりなんだから無理するな」




寂滅「…………………へぇ」






寂滅「姉さん、ちょっといい?」


叡智「どうした寂滅」


寂滅「わかったんだよ」


叡智「何が?」


寂滅「惚けないでよ、貴方なんでしょ?」


叡智「?」


寂滅「犯人(姉さん)


叡智「!」


寂滅「ふふふ」


叡智「な、何を言っている。ついに思考回路まで満月に狂わされたのか?」


寂滅「幻が死んだのって、全部姉さんの目論みでしょ?」


叡智「馬鹿な、あれはアルカディアが……」


寂滅「アルカディアは結果論だよ。結果的にアルカディアが幻を殺したことになっただけ。でも、黄泉比良坂で幻を見ようとしたのは一体誰?アルカディア?違うよね?アルカディアの目的は打出の小槌であって幻を殺すことではないのだから。あの時さりげなく列から離れることしか考えていなかったはずだよ。そもそも、彼は杜撰すぎた。もしかしたら幻以外がチョコレートを食べるかもしれないのに。でも、きまぐれで幻以外チョコレートを食べなかった。そこで思ったんだよ、もしかしたら姉さんがそうさせたのではないか、姉さんの能力でね」


叡智「それは、ただアルカディアの運が良かっただけだろう」


寂滅「そうだね。これだけならそう考えられる。なら、あの坂で投げられた石の件はどう?蝋燭を消さないと誰にもバレずに幻を見るだなんて芸当は出来ないからね。でも、エルドラドが持っていた蝋燭はともかく、どうして()()()()()()()()()()()()を消すことができたのかな?」


叡智「……狙いを定めたんじゃないのか」


寂滅「いいや、よく狙いを定めるには後ろを振り向かなきゃいけない。でも、そんなことしたら試練はとっくに終わっているよ。つまり、適当に投げてあとから微調整したってことになる。姉さん、貴方は獣である前に騒霊だ。それは私もそうだ。騒霊は手を使わずに物を動かせる、私達はそれを応用して演奏家を職業としている。音は空気の振動、すなわちそれは空気の流れを操っているとも言えよう?姉さんはそれを操って物事を歪ませることができる、ましてや『運命』さえも。違う?違わないよね?その音色で運命を歪ませて、幻が死ぬように仕向けたんだよね?」


叡智「…………」


寂滅「でも、どんな『過程』になるかまではわからなかった。『結果』としておきたのはアルカディアの下剋上計画。アルカディアが黄泉帰らせようとする一方、姉さんはあの場で幻を葬りさろうとした。どうしてそこまでするのか私の頭じゃさっぱりだったんだけど、ついさっきわかったんだ。あの満月の日なんでしょ?」




『捕まえたッ!! 幻、落ち着くんだ!!』


『グゥゥゥゥッ!!ァァァァァァァッ!!!』


『!!』




          ガブッ





寂滅「……姉さん、暴走した幻を抑えるために咬んじゃったんだよね?獣の涎が幻の傷口へと染み込んだ、それが幻を殺した本当の毒だった。私達霊体は簡単なことで歪んでしまうから、姉さんはさぞかし後悔したでしょう?幻を裏切ってしまったと。その後、姉さんはあの手この手で幻を救おうとした。でも、出来なかった。一度混ざったものは簡単には取り出せない、少なくとも私はその方法を知らない。だから姉さんは思った、せめて幻を霊体のままで死なせてあげようって」


叡智「…………」


寂滅「まだ力に慣れていない私が言うのもアレだけど、野獣化した方が満月の力に耐えられると思うけど?」


叡智「…幻には?」


寂滅「誰にも言ってないよ、殺しに行くの?…まぁ、あの子なら既にわかってると思うよ。頭が冴えてるからね」





叡智「…幻、大丈夫か。倒れたと聞いた」


幻「ああ、叡智姉か。ごめん心配かけて」


叡智「……………」


幻「…………?」


叡智「……幻、話したいことがあるんだ」





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