第3話 職業探し
「えーっと…これでいいのかな…」
へっどぎあ? を被って先輩に電源を付けてもらうと視界に文字が浮かび上がってくる。
「ログインってのが見えてるかな?
そこに手を合わせてタッチすれば…」
「は、はい! えーっと…こうかな?
うわ!」
視界に写っていた『ログイン』の文字を触ろうとすると、それに反応してヘッドギアが駆動音を響かせた。
「あ、できたみたいだね。もうまもなくゲームの世界に入ると思うから、そこでキャラクリ…えっと、自分の操作するキャラクターを作ってゲーム開始しておいて、みんなその間に君のところへ向かうから。
あ、作る体は顔とかは変えたほうがいいし名前も現実そのままにはしないほうがいいよ。」
「は、はい!」
そう返事をするとすぐ、浮遊感とともに視界、感覚、全てが現実から切り離され、気づくと真っ黒な空間に立っている。
『ようこそ、ファンタジー・ザ・グランドフィナーレへ。歓迎しますよ。
まずはあなたの扱う体を作りましょう。
性別を選んでください。』
「わぁ……すごい…」
初めての感覚に戸惑いながら『女』の項目を選ぶ。
『次は種族と見た目です。
選択可能な種族は【人間】【森林種】【地底種】【獣人】【竜人】【妖精族】【天翼種】【虫人】【魚人】【鬼人】です。』
「え、えっと…!?」
多分自動音声なんだよね…今種族ごとのいろいろを説明してくれているけどよくわからないし…取り敢えず【人間】でいいかな。
『【人間】、科学技術に長け、この星唯一の原生種。あらゆる戦術、武術、技術に精通しており、それらを扱うことができる。』
『では、容姿を決めていきましょう。あなたの思うがままの姿を形作ってください。』
すると、『髪』『目』『鼻』『口』『胸』『足』『腕』などなど…いろいろな項目が一気に流れてくる。
「えーっと…?」
ポチポチ触ってみると、どうやら体のパーツを弄れるみたい…こうやって自分の体を作っていけばいいのかな…
と言ってもあんまり時間をかけちゃうと皆さんを待たせてしまうと思い、ひとまず現実の自分の体を参考にすることにする。
それから十数分後、現実の体と殆ど変わらないアバターが作りあがっていた。
ただ、現実よりも少し胸を盛っていたり少しばかり足が長めだったりはするなどの少女の憧れが少しばかり反映されていた。
「顔も同じってわけにはいかないんだっけ…」
瀬谷先輩がログイン前に言っていたことを思い出しながら髪は黒色に、目の色は赤に変えていく。
「これで大丈夫かな?」
実際はあまり大丈夫ではないが、それに気づくには知識が浅すぎた。
次に進もうとすると『この体でよろしいですか?』というウィンドウが出てきたので『OK』の方を押す。
『では、この体に名前を付けてください。それがこの世界でのあなたの名前となります。』
「えーっと…それじゃあ」
普段から使っている『シルヴィア』を登録する。
現実の髪の色から取った名前なのだが、このアバターでは由来はわからないだろう。
『ようこそ、ファンタジー・ザ・グランドフィナーレの世界へ。』
そうしてまた体が浮遊感に包まれ、次に気がつけば何処か中世ヨーロッパの雰囲気を醸し出す街の広場に突っ立っていた。
「これがVRゲーム……すごい……」
顔の前に手を持ってきて握っては開いてを繰り返したり、軽くジャンプして見たりと動き回る。
「現実と殆ど変わらないんだ…あ! そうだ皆さんは……」
そう思い周囲を見回していると、背後から声を掛けられる。
「君で合ってるかな?」
振り向くと、背中に本人の身長よりも大きな斧を持った女性が立っていた。
「えっと……」
「あ、そういえばキャラ名とか何も言わずに来ちゃったね…ウチだよ、沢北だよ!」
「あ! 先輩!」
どちら様かと思っていると相手から自己紹介をしてもらえた。
どうやら沢北先輩だったみたい。
「その様子だと合ってそうだね。えっと…シルヴィアちゃんか。あ、私はこっちではイリーナって言うからこっちではそう呼んでね」
「は、はい!」
「おーい!見つけたよー!」
「流石イリーナ、いつも見つけるの早いね。
といっても、今回はそんなに難しくなかったみたいだけど。」
「えっと…アルトさん…?」
「あぁ、こっちではアルト、向こうでは瀬谷だよ。」
沢北先輩…イリーナさんに付いて行くと1人の青年が立っていた。
腰にはショートソードを携え、ただそこに立っているだけで様になっている。
どうやら瀬谷先輩だったみたい。
「えっと…カグラとシオンはまだ?」
「みたいだね。昨日は新入生が初心者だった時のための準備に二人共フィールドを走ってたし仕方ないよ。
と、着いたみたいだ。」
瀬谷先輩、もといアルトさんの視線の先には二人の少女が走ってこちらに近づいて来ていた。
「着いたー! もしかして待たせちゃった!?」
「いや、今見つけたところだよ。
むしろピッタリだね。」
「良かったー…あ、私はカグラ、あっちでは飯坂だよ。」
「私はシオン、向こうでは一川。」
飯坂先輩、もといカグラさんは腰に杖を携えてる。
魔法が使えるのかな…?
耳が横に長く尖ってる…
確か、エルフという種族に同じ特徴があった気がする。
一川先輩ことシオンさんは……なんだっけあの黒いの…あぁそうだ、銃だ。
あんまり見たことのある形じゃないけど…
「えっと…シオンさん?」
「さんはいいよ。んで何?」
「えっと…その武器って…」
「これ? これはP90って言うサブマシンガンで……えっと…近距離戦が得意な銃だよ」
「そうなんですね…」
頭上に獣人族の特徴である耳と腰に尻尾がある。
尻尾や耳の形から考えると多分猫の獣人かな。
ちなみに、聞くとカグラさんとシオンさんは元は漢字名で、『神楽』『紫苑』と書くらしい。
「あとは新入生の二人だけか」
「おーい、俺を忘れてるんじゃないか?」
声のする方を見れば大きな盾を背中に抱えた、盾と同じくらいの大きさの男性がこちらに歩いて来るのが見えた。
「あ、コルベットね」
「あ、ってなんだよ!? 一応顧問だぞ!?」
顧問…ということは高木先生かな。
コルベットさんは腕や足がロボットみたいになってる……すごい…
「まだ集合しきれてないみたいだな。」
「そうですね、あの二人がまだ来てません。」
「そういえば、プレイヤーネームとか見た目とか言ってないですよね…」
「あ…」
「まあ、二人はやってる感じだったし、やけに装備の良いプレイヤーが二人組でいたら多分…」
「それに、ウィル君って言うことだけは知ってるから、それを手がかりに探してみようか。」
そんな話をしていた時だった。
空から轟音を響かせて何かが広場に降り立った。
「到着っと…そういえば見た目とかプレイヤーネームとか聞いてなくないか?」
土埃が晴れるとそこにはコウモリのような翼を生やし、全身鱗だらけの青年が立っていた。
彼が近くに浮いていた闇…?に話しかけたかと思えばその闇から少女が現れる。
「あ、ホントじゃん。どうする?」
少女は少しづつ体に纏わりつく闇を振り払い、少年もそれに合わせて少しづつ体が人間のように翼や鱗が消えていった。
このゲーム…あんなこともできるんだ…
「ねぇもしかして…」
「プレイヤーネームはウィルとシュウ、多分そうだろうね。行ってくるよ。」
瀬谷先輩がそんなただならぬ雰囲気を醸し出す二人に近づいていき、少しして二人を引き連れて戻ってきた。
「すみません、遠くにいたもので遅れました。」
「いやいや、殆ど待ってないしいいよいいよ。それじゃあそうだな…まずはシルヴィアちゃんの職業を選ぼうか。シルヴィアチャンは何か希望ある?」
「えっと…どんな種類があるんですか…?」
「あぁ、そうだね。一番基本的な形はアルトみたいに剣で戦うスタイルかな。
剣の種類にもよって戦い方が変わってくるけど、片手に小さな盾を持つスタイルとかもあるよ。
アルトは魔法剣士って職になるから純物理の剣士とはまた違うスタイルになるね。
遠距離戦の方が好みだったら私みたいに魔法使いになるか、シオンみたいに銃を使うスタイルになるね。
まあ、中には魔法使いといっても攻撃系の魔法以外にも強化魔法や回復、弱体化の魔法なんかもあるからどういう魔法が使えるかで戦い方も変わってくる。
逆に、銃の場合は持つ銃の種類によって当然戦い方は変わってくるし、他の武器より当てる練習や弾の管理なんかもしなくちゃいけなくなるね。
銃にも魔法スタイルがあって、そっちなら魔力を変わりに弾として放てるけど、弾として以外にも弾に魔力を込めて放つなんかもできるから、かなりMPが高くないとなかなかうまくいかないんだよね。
イリーナやシュウの二人はそれぞれ斧、鎌を使ってるけど、この2つは多分ゲームに慣れてからの方がいいね、扱うのが少し難しいの。
あとはコルベットみたいに大盾使いとかもあるね。
大盾使いも純物理と魔法スタイルがあって、絶対的な防御力の物理か、広範囲カバー能力の魔法かみたいに分かれてる。
あとは…」
「あの…神楽君、シルヴィアが付いてこれていない。」
「え…?」
正直途中から『???』状態だった。
「あ、ごめん…そうだね、初心者にはまずは魔法使いか剣士になるのをオススメしておくよ。」
「うーん…どうしよう…」
ハテナ状態ではあったけどそれでもいろいろな戦い方があるって事はわかって悩んでいると、視界の端に可愛い犬を連れたプレイヤーが視界に入った。
「えっと…あれはペットですか?」
「ん? あぁ、あれはフォレストハウンドかな。てことは多分あの子はサモナーだね。」
「サモナーですか?」
「サモナーって言うのは召喚士のことで、フィールドにいる敵を味方にできて、育て、一緒に戦うことができる職業なんだ。」
「つまり、サモナーになれば私もあの子みたいに動物を引き連れて戦えるってことですか?」
「そうだね、もしかして興味があるのかな?」
「私、サモナーやってみたいです!」
「わかった。じゃあ召喚士組合に行こうか」
そうして、一行は次の目的地へと向かったのだった。
ファンタジー・ザ・グランドフィナーレは未来の地球が舞台なんですが、今から数百年前、宇宙からの侵略を受け、人類の文明は崩壊しながらもこれをなんとか撃退したが、侵略に使われた生物兵器が住み着いてしまっている。
戦術核や敵の化学兵器によって生態系も大きく変化し、人類の中にもミュータントが大量発生しその中で生き残った者がエルフやドワーフとたまたま似ていたため人類がそう呼ぶようになりました。
獣人など、他生物の特徴を併せ持つ者達は侵略に対抗するためのキメラ実験によって生まれた者達の子孫達です。
コルベットは人間族の特権である体の機械化を行ったプレイヤーです。
攻撃を受けた時、負荷のかかる腕や足にサスペンションを仕込み衝撃を吸収、バネの力とモーターの駆動を利用し跳ね返す、などができるようになっています。
機械化もプレイヤーの自由にカスタムができ、そのカスタム素材も無限と言っても良いほどあり、全く同じカスタムを見かけることは殆ど無いほどらしい。




