第10話 突発的な戦闘
おっっっっっっっっっっっっ久しぶりです。生きてます。失踪してません。
春休みを満喫し、大学生活も慣れてきたので重い腰をあげてやっとこさ更新しました!
これからも細々と更新していく気概なのでよろしくお願いします!
「うらぁ!」
「当たらないよそんな攻撃!」
ウィルとジャックが死闘を繰り広げる戦場からは少し離れた地点。
黒髪の少女と金髪の少女が鎌と刀を打ち合わせていた。
黒髪の少女……中身は男だが……はツインテールに髪を括り、大鎌を振り回している。
全体的に黒を基調としたデザインの魔法少女のような衣装を身に纏っているため、それだけなら可愛らしいものだったのだが、使うスキルが少々不気味なのでこれを見て魔法少女だと思う人は少数派だと思われる。
対する金髪の少女……こちらは中身も女らしい……はセミロングの髪をストレートの背中の中程まで伸ばし、赤を基調とした着物姿だ。
ただ腰から下の丈がかなり短く太ももから下が丸見えなので動きやすさに支障はないだろう。
「【刀技:天断】!」
「【大鎌技:アサルトサイズ】!」
Yuiは刀を一度鞘に収め、居合の姿勢を取る。
それを認識したシュウは鎌を構えてYuiの方へ跳躍、振り抜かれた刀に鎌を合わせ、技を発生前に止めることで対処とした。
「へぇ…やるねぇ」
「そりゃどうもッ!」
お互いに一度距離を取ると示し合わせたわけでもなく同時に飛び込む。
「【シャドウストリーム】!」
「【狐妖術:九爪滅撃】!」
そして起動するのは双方が持つ技の中でも高威力の連撃技。
一撃を振るたびに凄まじい衝撃波と金属同士を撃ち合う轟音を響かせる。
驚いたのはYuiは己の得物を捨て、瞬間的にインベントリを操作、新たに装備したのは長い刃物が爪のように伸びた武器だ。
恐らくガントレット系統に分類されるのだろうそれはスキルの効果を乗せてシュウに襲いかかった。
小回りの効く爪と大振りながらそれをプレイヤースキルのみで制御された鎌が、互いの攻撃をいなしつつ攻撃を加える。
しかし、シュウの攻撃は半分近くがエフェクトの乗った爪に弾かれる。
そうして互いのスキル効果が切れた時、一度空白が生まれる。
「あまり見ない技だな」
「最近ゲットしたんだよ。知りたい?」
「教えてくれるなら、ねっ!」
「無理やり吐かせれば? そういう魔法使えないのー?」
「俺がほぼ純物理アタッカーってことわかって言ってるだろ!」
「それで純物理を名乗るのは本物に怒られるよ…?」
影に潜ったり影を変化させて攻撃したりと、一見魔術的な攻撃もしていることを彼は忘れているらしい。なおダメージ判定は物理判定らしいので彼の言いたいこともわからないことはないが…
だが、一般的な純物理アタッカーというものはそういった一切を排除しているものだ。
再びの跳躍をもって互いに距離を詰め、近接戦闘を続けていく。その中で戦闘は加速度的に激しく、凄まじいものになっていく。
「【妖術:陽炎】」
「【シャドウステップ】」
その刹那の空白で同時にスキルを起動、選択されたスキルによってもたらされたのは互いに姿を消すスキル。
シュウは影に潜り、Yuiは煙のように消えていった。
戦闘の最中に突如訪れた静寂は、瞬きの刹那には轟音を伴いながら崩壊した。
「今のでもだめ?」
「見たらわかるだろ?」
衝撃波と共に現れた二人は、互いの得物を打ち合わせた状態だった。攻撃エフェクトが尾を引いて消えていく所を見ると、攻撃は相殺されたようだった。
「なら…これはどうかな!」
「ッシ!」
目の前で武器を打ち合わせていたはずの相手が突如として消え、背後からの斬撃。殆ど瞬きの瞬間とも言える時間で行われた行為は、シュウのHPを確かに減らした。
「……どういうスキルだ…?」
「教えると思う?」
「ま、だよなー【シャドウスローター】」
会話の途中でも攻撃の手は抜かない。
それはお互い承知の上でありYuiは背後の影から飛び出した鎌を見ることもなく刀を使って粉砕した。
跳躍したシュウは手に持つ鎌を振りかざすが、返す刃に防がれ鍔迫り合いとなった。
互いのHPは若干シュウ側が少ない状態が続くが、それも一発で逆転する範囲だ。
すると、Yuiは眼の前でまたしても姿を消す。
だが、シュウは己の勘を頼りに鎌を背後に向かって振り抜く。
すると、確かな手応えと共に攻撃のヒット音と被弾エフェクトが華を咲かせた。
「あらら、もう見切られちゃった」
「そう何度も通用しないよ」
一度距離を取るYuiだが、それを許すシュウではない。
「【シャドウストリーム】」
本来対集団戦想定の大技はシュウの神業と言える制御により全てが対個人へと向けられるとYuiも予想していた……
だが、実際にはその一撃目は派手に地面へと向けられ、辺りに粉塵が舞う。
「!?」
予想外の行動にYuiは一瞬の動揺を見せ、本能的に飛んできた粉塵を防ごうと腕で顔を覆ってしまった。
「しまっ」
続いて二撃目の対象も地面だったが、先程は粉塵を飛ばすことを目的にした攻撃だったが、今度は方向が逆だった。
そして、等の本人は跳躍していた。
それじゃあ踏ん張りが効かないはずだが何故…?
「え!?」
気がついた時には自分の眼の前にシュウの体があった。
シャドウストリームとは自らの得物である大鎌を遠心力に物言わせて振り回す、職業『死神』の大鎌用20連撃技である。
その威力は一撃一撃がそこらの雑魚敵程度では致死の威力を持つが、プレイヤー相手では何度かは耐える事が可能である。
重要なのは遠心力に任せて振り回す技であるということだ。
シュウはこの遠心力を利用し、鎌を地面に刺すように振ることで飛んできたのである。
「吹き飛べぇぇぇぇぇ!!!!」
「まだ!【刀技:天断】!」
なんとか反応しきったYuiだったが互いの獲物を突き合わせた瞬間Yuiは吹き飛んでいった。
「いや違う」
Yuiは自ら後方へと飛び退ったのださらに飛んでくるであろう追撃を回避するために。
だがそれでも無傷とはいかず直撃の一撃よりはかなり軽微だが、多少YuiのHPが減った。
まだシャドウストリームの効果が続くうちに追撃を加えるため、再度遠心力を利用した跳躍で距離を詰めるシュウ。
「【九尾秘奥義:狐の嫁入り】」
そのつぶやきは小さな物だったが、たしかにシュウの耳にも届いた。
恐らくスキルの1つだが、枕詞にもそのスキル名にも聞き覚えがない。
新しく発見されたスキルなのだろうそれは、景色を一気に塗り替える。
時刻的にはまだ昼だというのに辺りは夜のように突如暗くなった。
視界の確保に支障が出るレベルではないようだが……
だが、秘奥義と名称が付くほどのスキルなのだ。ただ周りを暗くする程度の効果で終わるとは思えない。
えっとたしか…狐の嫁入り…? だったな。 日照りの雨とかそんな時の言葉だったか……あとは狐火が連なって嫁入り行列の提灯のように見えることから、だったか。
これを見る限りでは後者の意味合いか…?
すると、周辺が次第に明るくなっていく。
だがそれは、日光による全体を一気に照らす明かりではなく、周囲を淡く照らす炎が次から次へと周囲に現れたことによるものだ。
「紫の炎……狐火か……って……多くね?」
その炎は10や20といった数に留まらず、視界を埋め尽くすほどそこかしこに出現した。
100や200なんて超えているであろう数だった。
そして、それらはゆっくりとシュウに向けて押し寄せようとしていた。
「おいおい嘘だろ…」
さらに現在はシャドウストリームの効果発動中。この効果が終わるまでは動きに多少の制限がかかってしまう。
「っしゃおらぁ!」
残り数回のシャドウストリームを終えるため狐火に向かって鎌を振り抜く。
幸い、切り裂かれた狐火は消えてくれるようだ。
だが、それを認識するのとほぼ同時に、狐火達は次々に射出され始めた。
時に攻撃で弾き、時に回避しながらなんとか捌いて行く。
「はいタッチ」
そんな中、突如として現れたYuiには流石に対応できなかった。
だがYuiは攻撃するでもなく軽く触れただけで消えた。
触れられた部分を確認すれば紫色の炎に包まれていた。
HPを削るでもなく何か支障があるようには見えないが、触っても振り落とせない。
「いや待て待て追尾式かよ!?」
だが周囲の狐火には影響を及ぼすようだ。
避けたはずの狐火が再度自分に向けて弧を描きながら戻ってくるのを確認すると、これはどうやらこの炎に向けて飛んできているようだった。
しかも、なにかに当たって消えるまで追尾してくるようだ。
それに多少動いただけじゃ追尾効果で逃げ切れない。
シャドウステップを起動し機動力を底上げ、影に潜りつつ回避を試みるが追尾効果は失われてくれない。
さらに、
「【刀技:天断】」
「危な!?」
神出鬼没のYuiが隙あらば攻撃を仕掛けてくる。
そして、そんなYuiに気を取られれば…
「ウッ……ってデバフ!? 嘘だろ!?」
Yuiに意識を反らしてしまったが故の隙をつき飛んできた狐火がHPを減らすと同時、移動速度低下のデバフを与える。
それは致命的な隙となって次から次へと被弾を重ねる。
厄介なことに、このデバフは累積する。つまり、当たれば当たるほど機動力を削ぎ落とされるのだ。
「これでトドメ」
最後の狐火がシュウのHPを残り2割まで削ったタイミングで再度攻撃を仕掛けるYui。
「【刀技:天「【コールオブアビス】」」
トドメとなるはずだった刀はシュウの体に触れることはなかった……代わりに、シュウの体から溢れ出た影にYuiは反応する間も無く呑み込まれてしまう。
「やられた……デバフにHP減少効果……しかも、毒じゃないね……うへぇ…何これ…」
全身に濡れた服がへばり付くような気持ち悪さを感じながら周囲を確認するが、そこには闇しか広がっておらず、シュウの姿を確認することは叶わなかった。
「まずい…このままじゃ削りきられる…」
Yuiの体力は徐々にではあるが確実に減らされていく。
毒のようにスリップダメージが蓄積し続けているのだ。
回復はできるのだが、この効果がいつまで続くのか不明な以上、早急に対処が必要だ。
さらに、攻撃力、機動力、攻撃速度など、様々なステータスにデバフをかけられた上、生理的な拒否感を与える全身の感覚が判断力を大きく鈍らせる。
「【シャドウスローター】」
「!?」
突如の攻撃、だがなんとか刀で迎撃に成功した。
ここまでかなりの時間があったが一体何をしていたのだろうか…しかし、この状況で攻撃に転じられるのはかなりまずい事態だ。
「回復可能だけどスリップダメージ、様々なデバフを与え、スキルエフェクトによる視界不良…ただし、スキル使用者はある程度敵の位置を把握可能…?」
ここまで攻撃が来なかったのはYuiを探していたと仮定しようとしたが、スキルを食らった地点からそう大きくは動いていない。
直後に攻撃に転じれば位置も把握したまま攻撃できそうなものだと思う。
となると、何か別の理由で攻撃しなかった…もしくはできなかったのだろうが、何故かはYuiにはわからなかった。
ある程度のところでスキルの解析を諦め、全神経を索敵に集中させる。
極限の集中の中で、聞こえる音は自身の呼吸音と心臓の鼓動のみ…ゲームの中とはいえ心臓の鼓動の音までしっかり再現するのはもはや狂気の沙汰なのだが、開発元のサーバーは相当に強力らしい。
そして、Yuiの耳ははそれら自身から発せられるもの以外の音をしっかりと捉えた。
「見つけた」
「おいマジかよ!?」
「もう逃さないよ」
そうして、二人の戦いは激化していく。
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「あそこ…ね」
とある平原に佇む少女がいた。
小高い丘の上からとある一角を眺め、己の武器を揺らすその姿はとても絵になっていた。
ここは、ビギンズからほど近いエリア【星天煌の大平原】と【天然恵の大森林】の間あたりの場所であり、ここからなら森林をある程度一望できる場所だった。
その森林の一角、いつもなら静かで、長閑な風景を一望できるはずの景色だったが、異常な光景を広げる地点が2箇所存在していた。
片や、周囲の自然や地面を引き剥がしながら凄まじい衝撃波で自然破壊。
片や、深淵から溢れ出た闇と呪いによりそこら一帯を黒よりも黒い暗黒が支配していた。
少女が小さくため息をすれば、そのタイミングで空から少年が降り立つ。
「遅い」
「ごめんごめん、それにしても派手にやってるねぇ…どっちに行く?」
待たせたことに対し文句をつけるが、少年はどこ吹く風といった雰囲気。
そんなことよりといった様子でどちらの『問題』を対処するか聞いてくる。
「じゃあ、あっち」
それに対し少女は衝撃波が放たれた跡地の方を指さしながら言った。
「りょーかい。じゃあ僕は暗黒のほうね。」
そこで会話を終え、二人はその華奢な体つきからは想像もできない推進力でそれぞれ決めた目的地へと飛び込んでいった……




