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最終回

 バージンベージュに塗装されたスーパーカブが走る。向かった先はケーキ屋。

 不動産関連の資格に関する教材が入ったリュックを背負い、駐輪場に駐める。

 薄暗いなか、たくさんの車が出入りをして、雇われた警備員が誘導している。

 店内から外まで並んでいて、暇を潰すためにスマホに触れた。

 一際賑わせているネット記事には期待の新人プロサッカー選手の話題。爽やかでイケメンだが、それだけでなく誰よりもサッカーを愛し、真摯に向き合っているという評価を得ている。

 突如現れた若手ハイアマチュアの記事も読んだ。胸を擽る輝いた笑顔を浮かべる女性達の写真が並び、モデルや専門家からも高評価。小さく誰にも見られないよう口角を上げた。

 ポニーテールの女性が、ケーキが入った箱を持って通り過ぎていった。茶色の瞳の隅に映り、顔を上げて振り向くと、幼児を抱える背中が遠くなっていく。隣を歩く見知らぬ男性がケーキの箱を持つ。

 やっと、順番がやってきて、予約したことを伝えて店員からケーキを受け取る。

 急ぎ足で駐輪場に戻り、荷台に箱を固定して、薄茶のシートを撫でて力強く頷いた。

 跨り、キーを差し込み、エンジンを始動させる。丸目ヘッドライトは前方を照らす。

 警備員の誘導に従い、道路に出た。

 切れるような冷えた風が襲い掛かってきても、全く気にしない。

 大きな交差点を左折し、やがて街灯も少ない乾いた田んぼが続くひび割れた舗道を走った。

 あぜ道だった、その道は新たにコンクリートが埋められている。窪みのない舗道を進み、目の前には二軒の平屋。

 少し左に逸れて、三ドアの外車の横にカブを駐車する。

 ジェットヘルメットを脱いで、リュックから取り出したのはサンタの帽子。固定していたケーキの箱を取り、新しさがまだ残る平屋に、玄関のインターホンに指を伸ばした。

 扉はすぐに開いた。

 目を丸くさせた愛しい彼女は、すぐに呆れて微笑んだ。

 その後ろには丸メガネをかけた大切な祖父。リビングに入れば、彼女の友人達が待ち構えていた。

 赤ワイン、シャンパン、マルサラワイン、レッチーナを飲み比べて真っ赤な顔をした女性と隣に座る短髪の好青年。

 丸いスタッドピアスを両耳につけた細身の男性も、恋人を連れて座っている。穏やかに、笑顔で。

 飾り付けもキラッと輝き、クリスマスツリーは棚に置けるサイズで点滅しながら光る。

 縁側の窓にはさらさらと降り始めた細かい白。

 ハイボールをジョッキに注いでもらい、何杯も飲んでいる祖父は、静かに、ふっ、と笑い、静かに声をかけた。

 二人は祖父に目を向けた。


「樹、真白さん、二人が笑顔で長く過ごしてくれたら……何も言うことはない」


 蒲原樹と柚野真白は目を細くさせる。




 もうすぐ日付が変わる。

 最後の車を見送る。

 祖父は自室の布団で眠り、二人はコートとマフラーで厚着をして、縁側に腰掛けた。

 隣で見下ろせる、肩より下に真っ直ぐ伸ばした茶髪と漆黒の瞳を揺らす横顔。

 真っ青な空に浮かぶ多くの一等星と、地面も負けじと輝く銀世界。

 空から降り注ぐ白と景色を眺める。

「やっぱり雪が降ってるこの景色、一番好きなの。寒いけどさ……勉強、無理してない?」

「うん、平気……まだあんまり好かれてないけど」

 樹は髪を掻いて、頷いた。

「そりゃ、パーティー会場に知らない子がきて、いつの間にか娘を勝手に連れて行ったんだから印象最悪に決まってるでしょ。他の人の倍以上努力しないと認められないかも。サポートはもちろんする、でも無茶なことして体調崩さないでよ」

「……はい」

「私の両親なんかより、善一さんを悲しませちゃダメなんだから」

 樹は祖父の笑顔を思い浮かべながら、何度か頷く。

「うん」

「ケーキ、並んでくれてありがとう。あのハート型、好きなの?」

 見上げて不思議そうな顔をした真白に、

「あ、いや、よく分からなくて……店員さんに」

 樹は目を逸らしてしまう。

 肩をすくめた真白は、クスっ、と漏らす。温め合うように密着させて、腕に手を絡める。

 樹も凭れて、頬に軽く口づけ。

 物足りないとばかり真白は樹の後頭部に手を添えて唇を重ね合わせた。

 十秒以上のキスをして、温まる唇が離れる。

 お互い頬を赤らめて、見つめ合うこともできない。

 樹は自らの唇に指先を添えると、少し考え込む。

「な、なに」

「あ……いや、真白って普段はあんまり自分からキスしてこないなって」

 真白は樹の頬を軽く抓る。痛がる樹は小さく謝る。

 溜息交じりに息を吐き出した真白は、ゆらゆらと降り続ける雪を眺めながら、

「寒いね」

 そっと呟いた。

「うん」

 樹は静かに頷いた……――。

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