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第二十六話

 バージンベージュに塗装されたスーパーカブが午後の曇り空の下を走る。

 薄茶のシートに跨る蒲原樹は乾いた田んぼが続く舗道を進み、あぜ道に入って直進すれば蒲原家の平屋と、少し左に逸れると柚野家の平屋がある。

 樹は直進し、倉庫の前で停めてからニュートラルにしてエンジンを切った。

 降りると、樹は倉庫のシャッターを軋ませながら持ち上げて、薄暗い室内にスーパーカブを押していく。

 薄茶のシートを撫でて、力強く頷いた樹はジェットヘルメットを外し、倉庫から外に出る。

「明日から冬休みか」

 玄関の戸車とレールが擦れる音と同時に声をかけてきたのは、祖父善一。

 丸メガネをかけ、蛍光色の黄ジャケットを羽織る善一は静かに話しかける。

「……うん」

「今日は柚野さんとこでぱーてぃだな」

 二度目の頷きは、

「うん」

 返事と一緒に強く動いた。

「ケーキ取りに行くか」

「ケーキ、買ったの?」

「あぁ、柚野さんはクリスマスの料理を作ってくれるらしい。俺達もなんかしないとな……行くぞ」

 前に鍔がついた帽子をかぶり、善一は軽トラの運転席に乗り込む。樹は倉庫のシャッターを閉めて、急いで助手席に乗り込んだ。

「どんなケーキ買ったの?」

「あー……よく分からなくてな」

 大きな交差点を右折した通りの左側にあるケーキ屋に到着した軽トラ。善一は昨日注文したばかりのクリスマスケーキの箱を受け取る。

 店員は不思議そうに善一と樹を見て、一度レシートと商品を見直していた。

 樹は箱の隙間から覗いてみると、ハート形のケーキで、生クリームとイチゴがふんだんに使われている。

「は、ハート?」

「まぁ……カップルみたいなもんだろ、お前と柚野さん」

 樹は頬を赤らめて目を逸らす。

 ケーキが入った箱を大切に抱え、ただ真っ直ぐ前を眺める樹とハンドルを握って運転する善一。

「クリスマスなんて何十年ぶりだ」

「そう、なの?」

「あぁ、妻と娘と、当時はまだ彼氏だったお前の父さんとで」

 樹は助手席側の車窓に顔を向けた。

「あの時は一番幸せだった。だから、なんか、怖いな」

 そっと寂し気に呟く善一。

「……大丈夫、おじいちゃん。俺も柚野さんもいる」

 励ますような静かな言葉に、善一は前方を見たまま目を丸くさせて、ゆっくりと微笑んだ。



 柚野真白はテーブルに、ハーブと皮までパリッと焼けた鶏もも肉が乗っているスキレットを鍋敷きの上に置く。

 他にもローストチキンにカットして炒めたじゃがいもと人参が盛りつけられた皿もある。サラダと、ソフトドリンクと、ハイボールも用意。

 豪華な食事を一度振り払って、真白は身近な物で調理を行った。

 テーブルに飾る小さなクリスマスツリー、シルクハットをかぶった三段雪だるまは透明で中身は上段が家、中段はサンタと雪だるまが手を振る、下段はツリーとソリのミニチュアが入っている。どれも雪が積もり、小さなクリスマスの世界。

 真白はセーター越しに両腕を擦って、俯く。

「何度もクリスマスパーティーなんてしてるのに、豪華じゃないのに、こんなに温かいの、初めてだなぁ」

 口角を微かに上げ、目を細めた。

 インターホンの電子音が甲高く鳴り響き、真白は相手を確かめることなく玄関に急いだ。

 扉を開ければ、ケーキの箱を持つ樹と、スーツジャケットに着替えた善一がいた。

 それだけのことで、真白は上品さを忘れて子供のように微笑んでしまう。

 


 空き缶が増える。善一は顔色ひとつも変えずに濃いめのハイボールを飲み干す。

「善一さんって、本当に強いんですね。凄い……」

 善一は静かに、ふっ、と笑う。

 褒められて良い気分な善一に、樹は黙って空き缶と、手にあるソフトドリンクを交互に見る。

「樹くんは大人になってからね。意外と樹くんもお酒強いかもよ」

 澄んだ茶色の瞳を輝かせて、期待に満ちた眼差しを送る。

「じゃあ成人したら、一緒に飲む」

 真白は、ぐ、と頬を赤らめて、少し考えこむ。

「お酒は……やっぱり飲むと失敗しちゃうし」

 樹も思い出したかのように頬を赤らめて、髪を掻いた。

「じゃ、じゃあ、ほ、ほどほどに飲む」

「そ、そそそう、ね」

 妙に会話が躓く二人に、善一は穏やかに微笑んだ。

「こんなに幸せになっていいのか迷うな。ひ孫が生まれる日も近いか?」

 動揺が隠せず、真っ赤な顔をした樹はソフトドリンクが入ったグラスを震わす。真白は少し目を伏せた。何も言えず、真白は誤魔化すように微笑むだけ。

「あぁ……でも、なんでかな」

 善一はため息交じりで呟いた……――。


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