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第二十四話

 真白は縁側の窓から外を見た。

 乾いた田んぼに薄っすらと真っ白な砂のような冷たい粒子が積む。枯れた草と土が所々露出している。

 愛車のルーフやフロントにも純白が塗りたくられている。

「……はぁ」

 漆黒の瞳は憂いに満ちて、小さく息を吐き出した。

 素直に感動できない真白は口角を下げてリビングのイスに腰掛ける。

 ブランド名が刻まれたシンプルで細い腕時計で時間を確かめて、湯を淹れたコーヒーカップとソーサーを用意し、取り寄せたゲイシャ種のコーヒー豆を小型電動ミルで挽いて、グラニュー糖とザラメの中間ほどの粒に変えた。

 事前に沸かした湯が入っている注ぎ口が細長いポットと、円錐型の穴が一つのドリッパーを用意し、ペーパーフィルターを折ってセット。挽いたコーヒー豆を必要な量だけ入れる。そっと湯を乗せて蒸らす。それからまた、ペーパーの真ん中に円を描くように湯をゆっくり注ぐ。 

 温めた目盛りが刻まれている耐熱ガラスのサーバーに抽出されたコーヒーが落ちて、ペーパーの中の水位が減ったらまた注いだ。

 サーバーに溜まったコーヒーを撹拌していると、インターホンが鳴り響く。

 真白は相手を確認することなく、急いで玄関に向かう。

 扉を開ければ、スーツの上にコートを羽織る男性が、にこやかに笑う。

 隣には毛皮のコートを羽織る女性、長く伸ばした茶髪の女性。

「お久し振りです、お母さん」

 真白は上品さを意識した微笑みで挨拶をした。

「久し振り、真白」

 真白の母も同じように微笑んだ。

「お前の為にやっと時間が割けたよ、すまないが話が終わったらすぐに発たないといけない、食事はまた今度にしよう」

「……はい。どうぞ中へ」

 真白は両親を招いた。リビングへ、二人分のコートを預かり、ハンガーにかけて、ポールスタンドに引っかける。

 温めたコーヒーカップの湯を捨てて、サーバーに溜めたコーヒーを注ぐ。

 キッチンやリビングに広がる柑橘類のような香りに、真白の父は機嫌が良い。

「さすがだ、父の好みを知っているのはいいことだ。お前の将来の夫もこのコーヒーが好きでな、話も合う良い男だぞ。クリスマスパーティーに出席してくれるし、同時に婚約発表もすればさらなる家族のイメージアップにも繋がる。いいか、俺はお前の未来にたくさんの投資をしてるんだ、分かるな?」

 饒舌に脅迫紛いの眼力、真白は笑みを浮かべて、頷いた。

「……はい」

 娘が用意したコーヒーを飲む父親は満足気。

 真白の母は隣で手首を捻り腕時計の時間を覗くと、

「あなた、そろそろ」

 小声で次の時間が迫っていることを伝える。

「おっと、もうそんな時間か」

「あ……」

 駄々をこねたい唇をキュッと閉ざして、半分以上残っているコーヒーカップに、目を伏せた。

「しっかし雪とはついてない、俺は田舎が大嫌いなんだ……孝行して都内に家を建ててやったのに騒がしいのは嫌だと、あんなんだからずっと貧乏なんだよ。真白、お前も結婚したらこんなところにいないで都内に来なさい」

 ぼやく父の背中にコートを羽織らせた。

 唇を噛むことさえできなくて、真白はただ毅然と見送る。

「当日の夕方までには家に来なさい。会場へは一緒に行くんだからな」

「分かりました」

 粉のような雪が降る外で、国産車が白い道を進んでいくのを最後まで見送り、真白は田んぼや山、遠くの集落が真っ白に染まる景色を眺める。

 隣の平屋の玄関がガラガラと開いた。

 真白は隣に顔を向ける。そこには、前方を眺めている丸メガネをかけた善一がいた。

「よ、柚野さん。雪降ってんな」

「こんにちは、善一さん。はい、こんなに降ってるのを見るのは幼稚園の時以来です」

 静かに、ふっ、と笑う善一の、

「よっちゃんが、雪見ながら鍋ぱーてぃだと……どう?」

 誘いに、真白は俯いて考え込む。

「よっちゃんの中庭、雪降るとけっこう見応えあるんだ」

 微笑む善一は急かすことなく、降り積もる景色に目を細めた。

 すっと入ってくる、自覚なき胸を叩く銀世界への感動を、真白は気のせいだと考えたが、すぐに首を横に振る。

「……行こうかな」

 そう呟く。善一はニコッと笑みを浮かべた。子供のような笑みに、真白は微笑んだ。


 軽トラは冬用のタイヤで走り、揺れる車内から幻想のような景色を眺める。

 微かに分かる田んぼの間にある舗道の輪郭と轍。

 上品さを取り払って、無邪気に前のめりに食いつく真白と、穏やかに笑う善一はハンドルをしっかり握り、よっちゃんが待つ家に向かった……――。 


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