第十八話
「まーしろ、今度の土曜空いてるでしょ、どっか行こうよ」
大学校内のカフェテラスでタブレット端末を眺めていたところ、友人が後からやってきた。
決めつけたやや強引な誘いに呆れながら、真白はタブレット端末をテーブルに置く。
「隣の子と遊びに行く約束してるけど、嫌じゃないなら一緒に」
「ちょっと待った」
真白と友人の間に手が入る。
当然のように席につき、真白だけが陣取っていた席は一瞬にして三人になった。
両耳に王冠が描かれた丸いスタッドピアスをつけている細身の望田貴信は、真白の発言を遮ってしまう。
「望田くん、ど、どうしたの?」
怪訝な表情を浮かべた真白は友人と貴信を漆黒の瞳に映す。
穏やかで優しそうな表情の貴信は、今回ばかりは少し眉を顰めて真白をジッと見つめる。
「いけないな、純粋な子の気持ちを踏みにじるような行為は」
「あー隣の子って、大人しそうな男の子だよね。あれ、真白って年下好きだっけ?」
友人は首を傾げた。
「いや、別に樹くんはそういう対象じゃ……おもしろ可愛いかな」
「あ、真白はファザコンだもんね」
思わず真白は友人を睨んだ。目を逸らした友人は、おどけたように微笑む。
「はいはいストップ。柚野さん、樹君は真剣に勇気をもって誘ったんだと思う。そこを汲んでこの週末は二人きりで過ごすのが大切だよ。茶化さないで、ただの可愛い男子高生じゃなくて、樹君を一人の男として話した方がいいよ」
貴信のアドバイスになかなか納得できない真白は、腕を組んで、うーん、と唸る。
「えっ、なに? 隣の子が真白のこと好きってこと? いやぁ真白のパパ、顔面蒼白になるかも」
苦笑いになる真白は、貴信の発言と樹の行動を頭の中で整理する。
「えーとつまり、樹くんは私のことが恋愛対象として好きだからデートに誘ったってこと?」
「簡単に言えばそう」
はっきりと頷いた貴信。
目が点になっていく真白は、ゆっくりと漆黒の瞳を大きくさせていく。
「え……えぇええ?!」
店内に真白の驚く声が響き渡った……――。
昼食を樹の席で食べるいつもの風景。
宮代雄大は栄養バランスのいい弁当を、高橋道弘は手軽な購買パンを、蒲原樹は早めにおにぎりを完食して、スマホと睨めっこ。
「で、あの綺麗な柚野さんって人と週末デート?」
雄大の質問に、樹は静かに頷いた。
ほろ苦く笑みを浮かべる道弘は、タブレット端末に入れた写真データを確認している。
「どこに行くの?」
「えと、まだ探してる。こういうのよく分からなくて」
戸惑いながらもどこか楽し気に口元を弛める樹の表情に、道弘は口を開く。
「しかしだな同志、相手の」
「映画館とか、身近な場所に行くのもありだと思う。なんだったらカフェとか、あと柚野さんは車持ってるしドライブだけでもデートになるじゃん」
雄大に遮られ、道弘は口ごもる。
メガネ越しに映る、浮き立つ澄んだ茶色の瞳と明るい雰囲気を前にして何も言えなくなり、雄大に同調するように頷いた。