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第十四話

 グレーイッシュブルーメタリック4という塗装が施されているオールドルックなバイクが、一泊分の荷物が入るシートバッグを載せて、田んぼや畑に挟まれたひび割れた舗道をゆったり走っていく。

 クロームメッキ仕上げの単気筒が震え、胸を昂らせるエンジン音が響き渡る。

 サイドカバーには大きく白字でSRと表記されている。

 茶色のシートに跨る防風防寒のジャケットを着込んだ細身の人物はフルフェイスをかぶり、シールドはブルースモークで顔が見えない。

 あぜ道を進むと二軒の平屋があり、真ん中の窪みを慌てて避けて少し左に入っていくと、三ドアの丸みがある外車が駐車されていた。

 外車の隣に寄せて駐車。エンジンを切って、サイドスタンドを下ろし、シートバッグに引っ掛からないよう右脚を大きめに振り上げて降りる。

 フルフェイスを外せば現れる、ふぅっと息をついて優し気な瞳と表情で、乾いた田んぼと畑、山々を眺めた。

 青みがかった黒髪で、後ろ髪を少し伸ばして結んでいる望田貴信は、シートバッグを取り外して玄関へ。

 インターホンを鳴らす前に、扉が開いた。

「や」

 貴信は家主よりも先に軽く手をあげて挨拶。

 肩より下に伸ばした真っ直ぐな明るめの茶髪と漆黒の瞳は、貴信を見上げて、上品さを意識して微笑んだ。

「もう一人は相変わらず時間にルーズみたい」

「彼女らしくていいんじゃない? 課題はボクも終わってるから、昼食の下準備だけ先にしておく。じゃ、お邪魔します」

「どうぞ」

 ふかふかの柔らかいスリッパを二人分玄関に並べ、柚野真白は履くように促す。

 貴信は笑顔でスリッパに足を入れて、キッチンへ。

 最新のキッチン家電が並ぶ、真新しい室内に目を輝かせた貴信は真白に笑顔を見せる。

「いいねぇ、新築の香りがする家と最先端の家電。さすがに一軒家は早いけど、いつかは建てたいな」

 貴信はニコニコとジャケットを脱ぎ、シートバッグを邪魔にならない場所に置いて、中から小さな箱を取り出す。

 蓋を開けると王冠のイラストが描かれたスタッドピアスが箱のクッションに挟まれている。

 ピアスを両耳につけた後、よし、そう頷いた。

「そのピアスいいね、恋人から贈ってもらったんだっけ?」

「うん、バイクに乗る以外は大体つけてるよ。お揃いなんだ」

 真白はつられて笑顔を浮かべる。

 皮を剥いた玉ねぎと牛ひき肉、カレー粉等必要な材料がテーブルに並ぶ。

 貴信はまな板と包丁を借りて、玉ねぎをまな板に乗せた。

「ね、隣の家ってどんな人が住んでるの?」

「えと、蒲原さん、おじいちゃんとお孫さん。二人とも大人しいけど、ちょっと不思議なところもあるの。お孫さんなんて特に」

「面白そうじゃん、学生?」

 玉ねぎを半分にカットして、包丁で細かく切り込みを入れて細かく刻んでいく。

「うん、高校生。学校が遠いからバイク通学をしてて、いつも朝早くて……変わった男の子」

 真白は昨夜、手首を掴まれたのを思い出して小さく感想を漏らす。

 貴信は手を止めた。

「いいじゃん! 年齢は三、四歳差ぐらいでしょ。付き合っちゃいなよ」

「えぇ? なんで、子供だし変わってるし、別に恋愛対象じゃ」

 唸る真白に、貴信は続ける。

「最初はそういうもの、気付いたらいつの間にかって感じだし。せっかくならボクも樹くんと話してみたいな」

 わくわくとコイバナを楽しむ貴信に、真白は眉を下げて苦笑い。貴信は手を動かして、あっという間に刻んだ玉ねぎをボウルへ。他の具材も切っていく。

「それに、君が抱えている物を変えてくれる運命の人、かもよ」

「……」

 真白は浮かない表情で切られた食材を眺めて黙り込む。

 笑顔を続ける貴信は、

「少なくともボクは、彼のおかげでこうして生きてる。家族のことも、生活環境も。ボクを分け隔てなく接してくれる柚野さん達にも出会えたんだから」

 そう零した。

 真白は擽ったそうに笑みを浮かべる。同時にインターホンが鳴り響き、遅れてやってきた友人を真白は迎える。

「ごめーん寝過ごしちゃったぁ」

 急いで詰めた荷物を抱え、間抜けに映る友人の表情に、真白は肩をすくめてからすぐに笑みを浮かべ、リビングに招いた……――。

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