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第十二話:ここは、俺が引き受ける。貴様はアスナ様、エリナ様、教皇猊下をお連れして、先にいけ

 フランチェスカが急激な事態の変化についていけず、目を白黒とさせている。混乱してんじゃねぇ。ここはお前さんが号令をかける場面だ。そんな想いを込めて叫び声を浴びせる。


「フランチェスカ!」


 ぼけっとしてる場合だよ。お前さんがこの国のトップだろうがよ。流石にアリスタードの兵士五千を相手にしてる時間的な余裕はねぇだろうし、余裕があったとしてもアスナがあいつらを全員ぶっ殺すなんてやるはずもねぇ。


 木っ端な兵士どもと戦う。それは、メティア聖公国の僧兵の役目だろうがよ。


「っ! ヴィコレ・オラツィオ枢機卿! 陣頭指揮をお願い致します! 仔細はお任せします! 指示は一つ! 敵味方関係なく死者は最低限に! お願いします!」


「はっ! 教皇猊下!」


 それで良い。フランチェスカ。お前さんの役割はこの場では(・・・・・)終いだ。


「行くぞ!」


 俺はフランチェスカに手を伸ばす。ガキが俺の手と、会議室に集まってるおっさん共の顔を交互に見てから、数秒。俺の顔を見て、ニコリと笑った。


「はい!」


 教皇サマの手を引っ張って、すくい上げる。横抱きにして、風の加護を全開にした。


「行くぞ! アスナ! エリナ! キース!」


「……なんかよくわかんないけど、納得いかない……」


「アスナ、あのおっさんはああ言うやつなの。ロリコンなの」


「ゲルグ……そういうとこですよ? 全くもう……」


 は? なんでこれからアリスタードからメティアーナを守ろうなんて意気込んでる時に、女性陣からそんな冷たい目を向けられねぇといけねぇんだよ。ってか、今そんなこと言ってる場合だよ。


「ったく……。キース! おいこら! 脳筋! 行くぞ!」


「う、うむ! アスナ様、エリナ様! 行きましょう!」


 うん。童貞同盟が真の結束を発揮した瞬間だな。


「あーあー。キースまでたらし込まれちゃって。ま、いいわ。行きましょ」


 だから、エリナ。なんでお前はそんなテンション下がってんだよ。バク上げで行くところだろうがよ。


「フランチェスカ様は子供……。フランチェスカ様はまだ子供……」


 ミリア……。フランチェスカがまだガキだなんて、自明のことだろうがよ。なんでそんな自分に言い聞かせるようにブツブツ言ってやがるんだ。


「ゲルグ、ロリコン?」


「アスナ、俺は断じてロリコンじゃねぇ」


 っだー、もう! まとまりがねぇ! これだからこいつらは困るんだよ! アクが強い! 強すぎる! もうちょっと個性を落ち着かせやがれ!


「い、い、か、ら! 行くぞ!!」


 俺達は、なんとなく締まらない状態ながらも、会議室を出て、宮殿を走り抜けようとした。


「ゆ、勇者様、御一行様。メティアーナは、ど、どうなってしまうので?」


 今にも会議室を飛び出そうとしていた俺達に、枢機卿のおっさんの中の一人が震える声をかける。馬鹿だねぇ。んなもん考えてる暇ねぇだろ。いや、今の一連のやり取りを見て若干不安を感じる気持ちはよーく理解できるがな。


「どうもならねぇように、これから俺達がどうにかしに行くんだよ。勿論、てめぇらもだ。おい! さっきフランチェスカから教皇の座を奪うとか言って、挙手してた連中! アリスタードにここが占拠されたら、てめぇらの命も絶対ねぇからな! 精々気張って、アレ、何だ、その、色々頑張れ!」


「ゲルグ、締まらない」


 うるせぇよ。アスナ。そもそも締まらねぇのは、お前らのせいじゃねぇか。


「っだー! もう! 行くぞ! ミリア! お前は急ぐ必要はねぇ、そこのおっさんとゆっくりと戦場まで来い!」


「はい!」






 宮殿を飛び出し、メティアーナの街を駆け抜ける。


「悪いな。フランチェスカ。ちょっと乗り心地は良くねぇかもしれねぇが、我慢しろ」


「い、いえ、その。ありがとうございます……」


「は? 礼を言われる程のこたしてねぇよ。馬鹿」


 アリスタードがメティアーナを占拠すりゃ、必然的に俺達もしょっぴかれる。こりゃ飛びかかる火の粉を払うって、そんだけのこったよ。


「おい! アスナ!」


「ん」


「敵さんの兵士どもだがな! 殺せとは言わねぇし、したくねぇのも理解してる! いつもどおり、鞘つけたまんまぶん殴れ! それで十分だ!」


「分かってる! 躊躇はしない!」


 アスナの顔がいつになく決意で染まってやがる。いい傾向だ。守るもの、守らなくて良いもの。それをはっきりと線引できるようになった顔だ。


「エリナ! ストレス解消もいいが、あんまり滅茶苦茶やりすぎると、お前が女王になった時困んだろ! 多少手心は加えてやれよ!」


「クソ小悪党にんなこと言われなくても、分かってるっての!」


 やたら元気な声の返答。その元気が心配なんだよ。ハイになって爆散させすぎんなよ? ったく。


「キース! 俺達が突っ切る時に、奴さんらの攻撃を受け止めるのはてめぇの仕事だ! できるな!」


「当たり前だ! 俺を何だと思っている!?」


 何だと思ってるって? そりゃ脳筋騎士だよ。それ以外にあるか?


「んじゃ、行くぞ! 財の精霊、メルクリウスに乞い願わん。我らが行く手を阻む艱難辛苦をもはねのく速度を与えたもれ! 範囲速度向上エリアアジリティインプルービング!」


 体内のマナがごそっと持ってかれる。だが空っぽになるわけじゃねぇ。俺の魔力(マナ)の総量も上がってきたってことか。うん、いい感じだ。こりゃな、最高にハイってやつだよ。


 風のように駆ける。ひたすらに駆け抜ける。


 メティア聖公国の僧兵どもの陣を突っ切る。ど真ん中を突っ切ったもんで、連中、何事かと思っただろうな。ちらっと見えた、兵の顔がまさにそんな感じだった。


「アリスタードの陣、その最奥に指揮官がいる! そいつをとっちめれば、こんな馬鹿げた小競り合いも終了だ!」


 アリスタードの陣まで、後数万歩程。その距離を俺達はまさに風のごとく駆け抜ける。時間にして十数分。それが宮殿を出てからここまでにかかった時間だ。


 会敵。キースがまず前に出た。


「元同僚! とは言え、今は敵! 命までは取らないが、手加減もせん!」


 そのどでかい剣を、横薙ぎに振るう。おぉ、すげぇ。それだけで、数十人の歩兵が吹っ飛んでいきやがる。


 アスナがそれに続く。あいつは剣ではなくて、魔法を使うことにしたようだ。なにやら早口で詠唱をし、兵士が集まってるど真ん中で爆発が起きる。


 魔法と言ったら、エリナだ。負けじと超弩級の戦略魔法をぶちかます。風が唸り、爆炎で薙ぎ払い、雷が飛び交い、大地が轟く。おいおいおい、手加減しろよ? 人殺すとアスナが怒るぞ?


 ってか、改めて思う。人間やめてるよ、こいつら。俺? 俺はフランチェスカを抱いてただ走ってるだけだ。何のためにここにいるのかって? うん。勢いで出てきちまったが、俺だってそれを知りたくなってきた頃だ。最初の範囲速度向上エリアアジリティインプルービングで、ほぼ俺の役目は終わってる。


「アスナ・グレンバッハーグとその一味だ! 逃がすな!」


 なにやらリーダーっぽい奴が叫び声を上げる。馬鹿だな。魔王をぶち殺したこいつらだぞ? ミリアがいねぇのはご愛嬌だ。


 お前らにどうこうできるわきゃねぇだろうがよ。歩兵が、弓兵が、魔導兵が、騎兵が次々と吹っ飛んでいく。


 そうは言っても、陣形を組んだ兵隊の中を突っ切ろうとしてるんだ。策なんてもんはねぇ。ただただ、こいつらの人間離れした力量(レベル)にモノを言わせた強行突破。


 まぁ、こうなるよなぁ。


「囲まれた、か」


 相手は人間だ。エリナもなんだかんだで手加減はしてるようで、アリスタードの兵っころどもに見た感じ死人はいねぇ。アスナもキースも適度に手は抜いているらしい。


 つまりどういうことかっつーと、数の暴力ってのはこいつらでも多少てこずるってことだ。


「うじゃうじゃうじゃうじゃ、鬱陶しいわね……。ねぇゲルグ。こいつらぶっ殺して良い?」


「エリナ、それアスナに嫌われるぞ」


「よねぇ。分かってる」


 ジリジリとアリスタードの兵士共が、距離を詰めてくる。だが、まだ「勇者一行」なんて大層なモンにビビってるようで、恐る恐ると言った様相だ。


「悪党」


 背中合わせになった脳筋から、覚悟を決めたような声がかけられる。


「んだ? キース」


「ここは、俺が引き受ける。貴様はアスナ様、エリナ様、教皇猊下をお連れして、先にいけ」


 あぁ、そうだよな。お前ならそう言うよな。ったく、見上げた騎士サマだよ。


「オーケだ。俺の魔法が切れねぇ内に片つけて来るから、ちょっとばかし待ってろ」


「うむ。心配は要らん」


「バーカ。俺がお前に心配とかすると思ってんのか?」


 ちらりと首だけをキースの方に向ける。うわ、丁度タイミングが合いやがった。目が合った。気持ち悪ぃ。


「ははっ。そうだったな」


「死ぬなとは言わねぇよ。殺すな。アスナが怒るからな」


「肝に銘じる!」


 らしくねぇ会話だ。まるで、俺とキースが戦友みたいじゃねぇか。いや、戦友で合ってんのか? 少なくともこいつの丈夫さと、戦闘能力に関しちゃ、絶対の信頼がある。それは確かだ。


 そう、信頼がある。こいつは死なねぇ。そんでもってきっと誰も殺さねぇ。


「聞いたな! 行くぞ!」


 キースを置き去りにして、俺達はまた走り出す。


「魔王討伐を果たした騎士! キース・グランファルドとは俺のこと! 俺を殺せるだけの実力のある者だけ! ……いや、どいつもこいつも纏めて相手をしてやる! かかってこい!」


 キースの雄叫びが背後から聞こえる。


「キース様……。大丈夫でしょうか?」


 フランチェスカが心配そうに呟く。


「バーカ、精霊メティアとやらが選んで、お前さんが宣言した勇者。そいつに一年間ついて回った騎士だぞ? ここでくたばるならとっくにくたばってるよ。アスナ! 道を切り開いてくれ!」


「ん! 道を塞ぐ人は痛い思いしてもらう!」


 うん、なんだ。それ、なんか微妙だぞ? ガキの喧嘩かよ。


「エリナ! 程々にな!」


「あー、もう。ストレス解消のつもりが、逆にストレス溜まるんですけど!」


 お前のストレスは知らねぇよ。くれぐれも人死にだけはだすなよ? 夢見悪ぃからな。あとアスナが怒る。


 俺が何の役にも立ってないって? んなこた承知の上だよ。


 アスナが兵士をちぎっては投げ、ちぎっては投げし、エリナが魔法で適度に兵士どもを爆散させ、切り開いた道を駆け抜ける。


 もう少しのはずだ。もう少しで、指揮官がいるはずだ。


 兵士どもの肉の壁も薄くなり、ようやく最奥が見えてきた。


 いた。指揮官だ。


 よりにもよってあいつかよ。いや、まぁそうだよな。騎士団長だもんな。そりゃそうなるよな。


「ガウォール!!」


 アスナが吠える。


「久しぶりだな。勇者アスナ。王女殿下もご健勝で」


 イケメンが悪役らしい顔でニヤリと笑う。あのな、イケメンにその顔はぶっちゃけ似合わねぇんだよ。爽やかに笑っとけ。馬鹿。


「ガウォール。アンタもアタシを殺す。そう思って良いわけね?」


「さて。陛下のご命令はいかがだったか……」


「白々しいのよ。クソイケメン。殺すなら、殺すってはっきり言いなさいよ」


 エリナが親の仇でも見るかのような目でイケメンを睨みつける。いや、まぁ、親が仇なんだけどな。お前にとっちゃ。


 俺はずっと抱きっぱなしだったフランチェスカを下ろす。


「フランチェスカ、ちょっとお前さんはここで待ってろ」


「だい、じょうぶ、でしょうか?」


 心配そうな顔をするフランチェスカにニカッと笑う。


「ガキが余計な心配してんじゃねぇ」


 さて、目下俺が心配しねぇといけねぇのは……。


「アスナ、こいつはお前にゃ荷が重い。フランチェスカを守っとけ」


「でも」


「俺が行く」


 ガウォールが与えられた「日蝕の呪詛」は、正義なんかを信じてる連中の天敵だ。そう本人が言っていた。


「ゲルグ、とか言ったかな? 君は危険分子だ。早々にご退場願おうか」


「その減らず口、いつまで叩けるかね?」


 クソイケメンが抜刀して、恐るべきスピードで俺に肉薄する。だが、見えない程じゃねぇ。ババァの屋敷で散々修行させられた俺を舐めんじゃねぇぞ?


「ふっ!」


 袈裟懸けの一閃。それを紙一重で避ける。


 それを皮切りに次々と襲いかかる攻撃。そのどれもを俺は紙一重で避けていった。遅え。遅えよ。魔物どもを相手にしてた時の方がしんどかったぞ。いや、それにしちゃなんか妙だ。何かを探ってる雰囲気が伝わってくる。


 攻撃が止む。イケメンが何かを確認するように、自分の身体をしげしげと見つめた。


「ふむ……」


「何余裕ぶっこいてんだよ? 殺しちゃうぞ?」


「『殺しちゃう』、か。ふふ。理解したよ。あの時感じた身体の重みが無い」


 は? どういうことだ?


「ゲルグ、だったか。貴様、どうやら悪党ではなくなったらしいな。正義を信じ始めたか」


 イケメンの顔が凄惨に歪む。


「好都合だ!」


 正義を信じ始めた? 悪党ではなくなった? 何を言ってやがる? 俺が? 悪党じゃない? そんなことあるわけねぇだろ。


 そんな疑問もすぐに打ち消された。先程よりも数段早いスピードで接近してくる。さっきまでは小手調べってことかよ。ってか、なんだ、このスピード?


「ゲルグ!」


 エリナの悲鳴がはるか遠くで聞こえた気がした。やばい。躱しきれねぇ。


「ゲルグ!」


 アスナの悲鳴が少しばかり近くから聞こえた。やべぇな。こりゃ。俺に突き刺さらんとする騎士団長サマの剣が嫌にゆっくりと見えやがる。


 終わったな。そう思った。


 だがそうじゃなかった。


 俺とガウォールの間に飛び込んできた馬鹿が居た。


 ざくり、と音が鳴った気がした。小さな身体にずぷりとその切っ先が突き刺さる。


「ア……スナ?」


 途方に暮れたような声が戦場に小さく響いた。


「ああああ」


 その声は誰の声だったろうか。エリナか? アスナか? フランチェスカか? いや、俺だ。俺の声だ。


「あああああああああああ」


 俺はなんでこんな悲痛な声で叫んでる? アスナを抱きしめたままで。あれ? なんか前もこんなことあった気がするな。いや、そんな場合じゃねぇ。さっさとアスナを治癒してやらねぇと。フランチェスカが何とかしてくれるはずだ。


 身体が動かない。


 アスナの身体からこぼれ落ちる血液が。俺のシャツを濡らす。


 おい、馬鹿。何やってんだよ。言っただろうがよ。命の価値は平等じゃねぇって。俺は無価値で、お前は人類の宝なんだよ。


 なんでお前が俺をかばって、今死にそうになってる? だから、なんだって既視感を感じる? この状況に、俺は、何を重ねてる?


「あああああああああああああああああああ」


 そんでもって、なんで俺はこんな声を上げてる?


 決まってる。


 ――ダイジナモノヲキズツケラレタ。アノトキトオナジダ。


「あああああああああああああああああああああああああああああ」


 叫び声が響く。戦場で。

アスナが一撃でやられてしまいました。

致命傷ではないです。


そして、おっさんのメンタルに999のダメージ!!


大丈夫だって。アスナのしゅじんこ(略)


読んでくださった方、ブックマークと評価、いいね、そしてよければご感想等をお願いします。

とーっても励みになります。WTF!!


評価は下から。星をポチッと。星五つで! 五つでお願いいたします(違)


既にブックマークや評価してくださっている方。心の底から感謝申し上げます。

誠にありがとうございます。

ひょえええ、って言いながら、引きずり回されます!!

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― 新着の感想 ―
[一言] アリスタード軍、「変なおっさんが幼女教皇様を誘拐してる!」とか思って、それを防ごうとしているのではw
[一言] あっアスナーっ!! 大丈夫か?(しゅじんこうほs) アスナも心配だけどおっさんのメンタルどうなるのかな。タナトスがほくそ笑んでいたりして。
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