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第八話:アンタに慰められるとは思わなかったわ!

「……好きにして。いつかしっぺ返し、来る」


 アスナが俺を睨みつける。下卑た笑いを浮かべる男どもが、その腕を、脚を押さえつける。


 おいおい。やめてやれよ。そんな脚広げたら、短いスカートからパンツが丸見えだろうが。相手は女だぞ?


「さ、ゲールグ。今日こそお前の番だ。いつもは近寄りすらしなかったのにな」


 アキラ。うるせぇ。どうすれっていうんだよ。


 いや、っていうか、なんだ? この状況。どうなってやがる?


 あぁ、思い出した。つまらねぇ正義感をむき出しにしたアスナを拳一発で黙らせた後、アキラに「好きにしろ」なんて言ったんだったっけな。そっから先は興味がなかったから聞いてなかった。


 でも、その後、事ある毎にアキラが、「今日こそはゲルグも混ざらねぇか?」なんて聞いてきたんだった。何に混ざるんだよ、なんて思ってたもんだったが、まさかこういうことだったとは。


「何だ? チキったのか? 今更? さっさとやれよ、ゲールグ」


「……」


 おかしいだろ? いや、何がって。この状況。いや、おかしかねぇのか? なんだこの違和感。


 アスナは――だ。こういう扱いをされるべきじゃねぇだろ。ってか、頭いてぇ。なんだこれ。


 そうだよ。アスナは――だ。いや、だめだ。肝心の言葉が思い出せねぇ。


「何ボケっとしてんだよ。ヤらねぇなら、俺が先にヤるぞ」


「うるせぇよ。ちょっと考え事してんだ。黙ってろ」


「……っ!? わ、悪かったよ」


 気に食わねぇ。何が? こうしたのは俺だろ? 「好きにしろ」ってアキラに言ったのは俺だ。あれ? 俺だっけか? もうよくわかんねぇ。


「ゲルグさーん。さっさとヤっちゃってくださいよー」


「……るせぇってんだよ。ちょっと黙ってろ」


「す、すいやせん!」


 調子に乗んな、ボケ。今、考え事してるって言ってんだろうがよ。


「私は正しいこと、した。その帰結がこれなら、それで、いい」


 アスナがぼそぼそと呟く。あぁ、そうだったよな。お前は。そういう奴だ。純粋で、真っすぐで、眩しくて。あれ? そうだったか?


 おかしい。なんかおかしいぞ? そもそも学校ってなんだったっけか? いかん、頭が割れるようにいてぇ。


「……おい、ゲルグ。どうしたんだよ。確かに、細けぇこた知らせて無かったがよ」


 心配そうにアキラが俺に声をかける。その声にすらイライラする。うるせぇ。なんだってんだこれ。


 ――あぁ、そっか。そうだった。


「俺って、こういうの」


 ――嫌いだったわ。


 拳を振り上げて振り返る。アキラ? 親友? んなもん知るか。いけすかねぇ野郎ってだけだ。


「ちょっ、まっ、ゲルグ! な、なんで、げぶっ!」


 俺の右拳がアキラ(・・・)とやらの左頬に突き刺さる。よくわかんねぇ。よくわかんねぇがな。


「むしゃくしゃすんだよ」


 脚を持ち上げて、思いっきり蹴り飛ばす。笑えるぐらいに吹っ飛んだ奴さんは屋上の壁に強かに身体を打ち付けたようだ。


「げ、ゲルグ……好きにしろ、っつったの、てめぇじゃねぇか!」


 奴がよろよろと立ち上がって、んでもって俺に向かってくる。バーカ。喧嘩で俺に敵うわけねぇだろ。そのひょろひょろのパンチをひらりと避けて、顎に一発。脳味噌、揺れるだろ?


「ぎゃっ!」


「げ、ゲルグさん!?」


「アキラさんは、ゲルグさんの許可取ってるって……どういうことなんですか?」


 あーだこーだうるせぇ。


 あのな、女ってのはな。そうやって痛めつけるもんじゃねぇ。守るもんだろうがよ。守ってやるもんだろうがよ。いや、アスナをのした当の本人が言って良いことじゃねぇのはよーく理解してる。


「ぎゃっ!」


「ぐぇっ!」


 アスナを羽交い締めにしてた連中もぶん殴る。弱ぇ、弱ぇ。アスナ。お前は――だったろうがよ。こんな連中に良いようにされてる場合だよ。


 後ろの方から、様子を見てた連中が襲いかかってくる気配がする。バーカ。俺の対人レーダーに引っかからねぇとでも思ってんのか? こちとらチンケな小悪党だぞ? あん? 今俺何を考えた? 「チンケな小悪党」じゃなくて札付きの不良(ワル)だろうが。


 まぁいいや。


「げぇっ!」


「げぼっ!」


 ひとしきり打ちのめしたか? パンパンと両手を払う。


「立てるか? アスナ」


「……どうして?」


「あん? だってお前は『勇者』だろうがよ。それを守る。人間からな。それが俺の役目だ」


 そうだよ。なんで忘れてたんだ。俺はチンケな小悪党。人間の悪意なんてもんからこいつを守ってやる。そう決めたんだろうがよ。


 俺の言葉に今まで涙を流しながら呆然としたような表情を浮かべていたはずのアスナが、口元だけ歪ませてニヤッと笑った。


「……よく出来ました!」


 パシーン、みたいな音を立てて、風景がガラスが割れた様にバラバラになっていく。それと同時に、何もかもの記憶がもとに戻る。アキラって誰だよ。ったく。


 涙を流し続けながらも、ニヤニヤ笑うアスナが幼女にグネグネと変化していく。どうでもいいが、それなんか気持ち悪ぃぞ。


「けったくそ悪いもん見せやがって」


「ボクは『気まぐれな精霊』。試練だって気まぐれだよ。ま、普通は適当に前もって用意してある試練を与えるんだけどね。柄になく張り切っちゃった」


「なんだよ、あれ。ガッコウやらケイタイやら。なんなんだあれ」


「ん~。秘密~」


 秘密ってなんだよ、秘密って。っていうか本当に珍妙な世界だったな。


「よく性欲に負けなかったね。おじちゃん。童貞のくせに」


 童貞っていうんじゃねぇよ。幼女が。


「あのな。童貞だからこそ、夢見てるもんがあるんだよ」


「なにそれ?」


「身体だけじゃねぇ、心の繋がり、ってやつをだ」


 幼女が笑う。お前さん、今童貞臭いとか思ったろ。きっとそうに違いねぇ。


「ふふふふ。おじちゃんはそうだよね。そうなるよね。わかってた。うん。あ、別に童貞臭いとか思ってないからね。そもそもその感覚がボク分かんないの」


「そりゃ良かったよ。幼女に『童貞臭い』なんて思われた日にゃ、自殺モンだからな」


「おじちゃん……。その台詞はボクもちょっと哀れになってくるんだけど?」


 うるせぇよ。童貞舐めんな。


「ま、いいや。試練はクリア。おじちゃんに、ボクの力をあげるね」


 幼女が、そのちっちぇえ親指を噛みちぎる。幼女が親指を噛みちぎる様ってのは、なんとも見たくねぇもんだが、まぁ精霊ってのはそういうもんなんだろう。


 俺は財の精霊(メルクリウス)の時と同じ様に顔を上に向けて口を開けて待った。


 ぽたり、と、風の精霊(シルフ)の体液が口の中に落ち、そして、身体に取り込まれていく。いや、別にそういう感触はねぇ。ただのイメージだイメージ。ただ、なんか血っぽいけど味のしねぇ何かを飲み込んだってそんだけだ。


「はい。契約は成立。財の精霊(メルクリウス)ほどじゃないけど、おじちゃんの味方になるって決めてるからね。頑張って」


「幼女に心配される程、落ちぶれちゃいねぇよ」


 さぁて。アスナ達が首を長くして待ってる頃だ。


「ね、ゲルグおじちゃん……」


「んだ?」


「メティア様が、ボク達が、消えてなくなりたい、って思ったとしたら、その時はどうする? どうしてくれる?」


 そりゃどういう意味だ? 質問の意味が理解できねぇ。んー、まぁ、そうだな。


「アスナがなんとかするだろ」


「ゲルグおじちゃんは?」


 目の前の幼女は他力本願を許しちゃくれないらしい。


「知るかよ。勝手にくたばれよ」


「……ふふ。だよねー。うん。わかってた。でもさ」


 ――その時は、ちゃんと殺してくれる?






「おぉ。終わったのか」


 霊殿の中。宝石の前でやっぱり、俺はぼけっと突っ立ってた。


 しっかし、あの幼女。悪質な試練ぶちかましやがって。アスナにどんな顔して会えばいいのか、今更になってわかんなくなってきやがった。


 なんだあれ? なんだあれ? なんだあれ? あの幼女、俺があのままアスナとヤってたら、どうするつもりだったんだ! いや、ちげぇ、俺はロリコンじゃねぇ! 断じてヤらねぇ!


 でも、あの世界では、同い年、って設定だったな。だったらヤってたのか? いやいやいや。おかしいだろ。想像も出来ねぇ。やめろ。頭を振って記憶を抹消しようとする。


 ……まぁ、いいや。兎に角出よう。


 霊殿を出る。太陽が眩しい。


「ゲルグ、どうだった?」


 アスナ……。すまん。今の俺に近寄らないでくれ。なんっつーか、あれ。罪悪感? ってーのか? そんなアレがすげぇ。


 俺はめちゃくちゃ微妙な顔をしてたんだろう。途端にアスナが心配そうな顔をし始める。


「失敗、した?」


「いやいやいや、試練はクリアした! 契約もできた!」


「ん。ならその顔なに?」


 アスナが小首をかしげる。やめろ。だから、罪悪感がやべぇんだって。自慢のポーカーフェイスも崩れるほどにはな。俺は極力アスナに目を向けないようにしながら尋ねる。


「な、なぁ。アスナ」


「なに?」


「シルフの試練ってお前のときはどんなだった?」


「ん……確か。吹き荒れる暴風の中から子猫を守り切る、だったような気がする」


 あんの幼女! 死ね! いや、ぶち殺す!


 俺のポーカーフェイスもボロボロだよ。ついでに、エリナが近づいてきた気配にも全然気づかなかった。


「……ゲルグ……。アンタ……」


 言うな。何も言うな。


「なんか、顔が性犯罪者っぽくなってるけど気のせい?」


 言うなっつっただろうが! ついでに言うと、それめちゃくちゃ失礼だからな!


「っていうか、またあんた、変な試練受けたの?」


「……あぁ」


「きーっ! なんでアンタばっかり! なんなの!? アタシですら、普通の試練だったのよ!」


 うるせぇよ。それよりもどでかい問題があんだよ。アスナの方をちらりと見る。


「……?」


 アスナが俺の視線に気づいたようで、そのちっさい頭を不思議そうにひねる。


 っだー! 直視できねぇ! 試練の中で、記憶まで改ざんされていたとは言え、一歩間違えばこいつとヤッてた!? 冗談にもならねぇよ!


「クソ小悪党。アスナを厭らしい目で見ないで! 汚れるから!」


 うるせぇ。そういう目で見てんじゃねぇよ。心底申し訳ねぇ気持ちでいっぱいなんだよ。察しろよ。


「ゲルグ、変」


「……ほっとけ……」


 頼むから放っといてくれ……。






 なんだかんだで、日が暮れかけたもんだから、シルフ霊殿から少しばかり離れた場所で俺達は野宿することにした。霊殿なんて誰かしら来そうな場所の近くで野宿なんて、ぞっとしないもんだが、まぁ魔物が未だ跋扈するこの世界だ。そうそう危険なわけでもねぇだろう。


 野宿の準備も終え――夕飯はデニスで買った保存食にした――、一息ついたあたりで、俺はエリナと向き合っていた。


 何のためにって? 俺と風の精霊(シルフ)との適性を調べるためだ。


 財の精霊(メルクリウス)に関しちゃ、「殆どの魔法使えるようにしといたからねー」なんて言いやがったもんだから、その必要は無かったが、本来であれば精霊との契約後は、その適性をこうやって調べるもんらしい。


 適性を調べる、それは魔法使いのエリナの専門分野だ。ミリアもできるこたできるらしいが、エリナには敵わないそうだ。


 エリナが俺の額に人差し指を当てて、難しそうな顔をする。適性を調べるのに魔法やらなんやらは必要ねぇらしい。単純に他人の魔力(マナ)の流れや方向性、そんでもって精霊の体液から向けられている感情を感知する。それだけらしい。


 興味深げに、アスナとミリアが俺達を見る。やめろって。そんな見るんじゃねぇよ。穴が空くだろうが。


「……うーん。微妙」


「微妙?」


「適性って意味じゃ全っ然よ。でも、なーんか好かれてる。そんな感じ」


 エリナ。お前さんはな、なんっつーかもうちょっと語彙ってやつを増やしたほうがいいんじゃねぇか? 意図的か? 意図的なのか?


「エリナ、どういうこと?」


 ほら、アスナも怪訝そうな顔してるぞ。目をぱちくりさせてやがる。


風の精霊(シルフ)の媒体から感じる感情は『好意』、『興味』、『愉快』、そんな感じ。でも、全面的に協力する気はないみたい。だから微妙」


「微妙、ねぇ」


 俺は顎に手を当てる。まぁ、確かに「面白い」なんて言われまくったな。


「試練の内容も、別に適性がどうとかそういうアレじゃないでしょうね。まぁ、風の精霊(シルフ)は気まぐれだから。そういうことも有る、のかもね」


「そんなもんなんか?」


風の精霊(シルフ)が気まぐれだってのは、結構有名な話よ。ね、ミリア」


「えぇ。風の精霊(シルフ)は、精霊メティアの気まぐれな性質を切り抜いたものだと教義にあります」


 気まぐれな性質……。まぁ、幼女だもんなぁ。気まぐれだよなぁ。


「ちなみに、ついでに財の精霊(メルクリウス)についてもちょっと探ってみたわ。アンタ本当に好かれてるわねぇ。『好意』、『興味』、『協力』、『心配』、他にも挙げれば切りがないわ。もう好意的な感情のオンパレード」


「あのクソイケメンに好かれてるってサブイボ出てくるんだが」


「クソイケメンかどうかは私知らないけどね。精霊ってめったに人間の前にはっきりした姿は表さないのよ」


 なんじゃそりゃ。財の精霊(メルクリウス)も、風の精霊(シルフ)も、はっきりきっかりその姿を俺は見たぞ。


「だから、アンタが異常なの。っとーによく分からないクソ小悪党よね」


 だから、流れるようにクソ小悪党とか言うんじゃねぇ。品位を疑われるぞ。


「……悔しいな……。結構努力してきたつもりだったんだけど、アンタに遅れを取ってるみたいで……」


 エリナの表情が曇る。おいおいおい。お前さんが落ち込んでどうすんだよ。馬鹿。


「エリナ。お前さんと俺を比べるんじゃねぇよ。月とスッポンもいいとこじゃねぇか」


 真剣な眼差しに見えるように心がけてエリナを見つめる。


「大魔道士、なんだろ? 馬鹿。お前さんはパーティーの要だ。大魔道士様がそんな様子でどうすんだよ」


「……ってるわよ! あー、もう! アンタに慰められるとは思わなかったわ! 加齢臭と悪党臭が鼻につくおっさんにね!」


 おい、お前さん。そりゃ流石に俺でも傷つくぞ。俺は自分の服をクンクンと嗅ぐ。汗臭いのはしょうがねぇが、そんなにするか? 加齢臭……。


「大丈夫。ゲルグ、臭くないよ」


 ありがとよ。アスナ。お前は、っとーに良い奴だ。


「げ、ゲルグ。臭いとか私も感じたことないですよ」


 ミリア。ちょっとどもってんのが、なんか傷つく。アスナぐらいきっぱり言ってくれ。慰めんなら。


 まぁいいや。なんか目から心の汗が出そうだし。


「……寝る……」


 俺の見張り番は今日は最後だ。早めに寝とこ。


「エリナ……。流石にゲルグ、可哀想」


「エリナ様……。ああいう言い方はちょっと。ずっと旅してる私達の臭いも相当なんですよ?」


 後ろから聞こえるエリナを諌める声がまた、俺の哀愁をそそる。聞こえてる。聞こえてるから。ってか、お前ら否定しろ。「臭くないでしょ」とか言えよ。うん、悲しくなってきた。寝よ。


 キース。同情するような目をこっちに向けてんじゃねぇ。お前も十二分に汗臭いからな。

おっさんが、風の精霊と契約しました!

やったね、おっさん!!


でも勘違いするんじゃねぇぞ。

全部アスナのしゅじんこうほせ(略)


と入っても、シルフは全面的な協力をする気は無いようです。

大したスキルアップは望めないね!


読んでくださった方、ブックマークと評価、いいね、そしてよければご感想等をお願いします。

とーっても励みになります。タック サ ミッケ!!!!


評価は下から。星をポチッと。星五つで! 五つでお願いいたします(違)


既にブックマークや評価してくださっている方。心の底から感謝申し上げます。

誠にありがとうございます。

ネタがなくなってきたな。。。うん、とりあえず死にます!!!

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― 新着の感想 ―
[一言] エリナは照れ隠しで臭いと言っているのでしょうけど、酷いのは確かなんですよね。 ミリアの言う通り、旅してれば誰だって臭くなります。 そしてそれとは別に、加齢臭ってのはどうあがいても出てしまうも…
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