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第十五話:……多分、ゲルグの、おかげ……です

 これからなにが起こるのか。そんなこた考えてもしゃーねぇのは理解してる。とは言いつつも、気になるもんは気になる。俺だけか? 俺だけみてぇだな。


 しかし、なんだ、この部屋にあるソファ、偉い柔らけえ。俺はミリアの治療を受け一息ついてから、腰掛けたソファに心中で嘆息した。


 しかしまぁ、なんでだかわからんが、アスナも、エリナも、ミリアも、キースも、何故か落ち着き払ってやがる。お前ら今の現状ちゃんと理解してんのか? いや、理解してそういう態度なんだったらいいんだけどよ。


「おい、アスナ」


「ん」


「なんでお前そんな落ち着いてんだ?」


 とりあえず、疑問をぶつけてみる。聞かねぇとわからねぇ。人間ってのはそうできてる。


「ルマリアの皇帝陛下は良い人」


 良い人……。良い人ねぇ。お前のその評価が全く当てにならねぇのは俺だけか? そんな俺の顔を見咎めてエリナが補足してくれた。良かった、俺だけじゃねぇみてぇだ。


「ゲルグ、アンタの気持ちもわかるけど、確かにあのクソイケメンは良い奴よ。個人的な好き嫌いで言ったら嫌いだけど」


 へー、ふーん、ほー。お前さんがそう言うならそうなんだろうな。エリナの人を見る目がそれなりに確かであることは、この短い付き合いでもよく理解している。こいつはちゃんとある程度他人の本質を掴める奴だ。俺とはちょっとばかし方向性が違いはするがな。


 ん? でも、今「嫌い」って言わなかったか?


「なんで嫌いなんだ?」


「いちいち鼻につくのよ。アイツ。いけ好かないわ」


 お前さんがいけ好かないんなら、そりゃ、多分俺も嫌いなタイプだな。多分。う、これから会うって事実が途端に面倒くさくなってきやがった。


 ってか今嫌なことに気づいたな。エリナと俺の好き嫌いって似てねぇか? すげぇ嫌なんだが。まぁ良いか。実害はねぇ。


「キース、どう思うよ?」


「俺か? どうも思わん」


 お前に聞いた俺が馬鹿だった。


「ミリアは?」


「素直に人格者だと思いますよ」


「そうか」


 こいつにかかったら、誰しもが人格者だ。聞かねぇと気分悪いだろうな、と思って聞きはしたが、大して参考にしようとかは考えてねぇ。


 そんな風にやいのやいのと話していると、唐突に部屋の扉がノックされた。規則正しく三回。ノックの音にアスナが「はい」と返事をする。その返事の数秒後、ゆっくりと扉が開いた。


「失礼いたします」


 ロマンスグレーのおっさんが開け放たれた扉の向こうに立っていた。如何にも偉そうな格好をしたおっさんだ。宰相やら、大臣やら、そういう立場なんか?


「久しぶりね。セドリック」


「お久しゅうございます。エリナ様」


 お? エリナ。知り合いなのか? ってか、なにやら、俺以外の奴らは皆知り合いっぽいな。誰一人として、「誰こいつ?」、みたいな顔をしてる奴がいねぇ。


「アスナ様も。お久しゅうございます」


「ん。セドリックも、元気そう。なにより」


 アスナがニコリと微笑む。それにつられて、セドリックとやらも柔和そうな微笑みを浮かべた。


「ミリア様、キース様も」


「はい、セドリック様。ご無沙汰しております」


「セドリック様。この度は我々をお受け入れくださりありがとうございます」


 ミリアが、キースが思い思いに挨拶をする。なんだ、やっぱり知り合いなのかよ。俺だけ蚊帳の外か。まぁしゃーねぇが。そろりそろりとアスナに近寄って小さく耳打ちする。


「アスナ。誰だ? このおっさん」


「セドリック・ギリアム。ルマリア帝国の宰相」


 やっぱお偉いさんか。しかしなんっつーか、お偉いさんだってことは分かったんだが……。


「ゲルグ様、でしたかな。この度は大変失礼いたしました。皇帝陛下に代わって謝罪させていただきます。受け入れていただけますでしょうか?」


 物腰が柔らかくて、んでもっておつむも優秀そうな爺さんだ。んでもって変に偉ぶらねぇ。素直に好感が持てる。偉いやつに俺が好感を持つとかって、相当だぞ? ジジィとか呼ぶのはやめておこう。


「セドリックさん、とか言ったか。いい、いい。慣れてる。俺ぁちんけな小悪党だ。そこまで畏まられるとむず痒くてかなわん」


「ちょっと、ゲルグ、失礼よ」


 俺の態度にエリナが目を三角にする。それ言ったら、アスナもお前も同じじゃねぇか。


「私とアスナは良いのよ。私は王女。アスナは勇者なんだから」


 ナチュラルに心を読むんじゃねぇよ。なんでそう、俺の思ったことに対して、的確に返答しやがるんだ? 俺わかりやすいか? 王都じゃ「ポーカーフェイスの鬼」で通ってたんだけどな。


「まぁいいや。んで、セドリックさんよ。これから皇帝陛下とやらに会わせてくれるって聞いてるんだが」


「はい。皇帝陛下のご準備も整われました。夜分だったもので、お時間を頂戴しまして申し訳ございません」


 いやに腰の低い爺さんだ。畏まるなっつってんのによ。まぁ、これがこの爺さんのスタイルなんだろう。宰相なんて偉い立場の人間は常に偉そうにしてるもんだと思ってたんだがな。人それぞれなんだろうなぁ。


「皆様。これよりご案内申し上げます」


 こうして、俺達はセドリックに連れられて、皇帝陛下とやらに会いに行くこととなったのだった。






 セドリックに案内されて、そりゃもう絢爛豪華な扉の前、そこに俺達は立っていた。いや、すげぇな。アリスタードの王宮に忍び込んだときはそれどころじゃなかったがな。なんだ、こう、城やら王宮やらってのは、やっぱり金がかかってそうな作りになってやがる。トップの威信やらなんやらが大いに関係してるんだろうなぁ。知らねぇけどよ。


「アスナ様。申し上げにくいのですが、皇帝陛下は今、少しばかり問題を抱えております」


 藪から棒に、セドリックがアスナに話しかける。問題? なんだ問題って。


「もんだい?」


「えぇ。呪詛、と言うのでしたかな? 数ヶ月前にそれが陛下に与えられてしまいまして。何か失礼を働くやもしれませんが、何卒ご容赦いただければとお願いいたします」


 呪詛。また出てきやがった。なんだ? いつからそんな「呪詛」なんてもんがポンポンポンポン出てくるようになったんだよ。そんな世知辛い世界だったか? 俺が知らなかっただけか?


「セドリック。詳しく聞かせなさい」


 どうにも俺が知らなかっただけじゃないようだ。エリナが険しい表情でセドリックを見る。呪詛ってのは、どうにも結構珍しいモンらしいな。エリナの表情をみればなんとなく察しがつく。


「『色欲の呪詛』。皇帝陛下が不幸にもお受けになられた呪詛でございます」


「……なるほどね。色欲の呪詛……。心中お察しするわ」


「ありがとうございます」


 おい待て。エリナ。お前とセドリックの二人で訳知り顔で話し合ってんじゃねぇ。ちゃんと説明しやがれ。ほら、アスナが「なにそれ?」みたいな顔してやがるぞ。エリナが俺の顔をちらりと見て、肩をすくめながら説明し始めた。


「色欲の呪詛。言っちゃえば超強力な魅了(チャーム)よ。私でも知ってるぐらい有名な呪詛。本人の意思とは関係なしに異性を魅了するのよ」


「そりゃ、いけ好かねぇなぁ。つまりあれだろ? モテモテってことだろ?」


「……まぁ、アンタみたいなバカが纏めちゃうとそういうことなんだけどね。『本人の意思とは関係なしに』ってところが大きな問題なのよ。アンタ考えてみなさいよ。好きでもなんでもないブスに言い寄られるのを。嫌じゃない?」


 おい、王女が「ブス」とか言うなよ。品位が疑われるぞ。いや、もう言ってもしゃあねぇか。


 んでもって確かに、嫌なシチュエーションではある。誰彼構わず言い寄られるとか、モテるとかそういう次元じゃねぇ。嫌すぎる。端的に面倒だ。


「それにね。もう一つあって、『本当に欲しいものは決して手に入らない』の。嫌でしょ?」


「そりゃ嫌だな。本命には嫌われる、ってことか」


「そう。あんまり怖さは感じないけど、厭らしい呪詛よ」


 エリナの言うことも尤もだ。本当に好きな奴は手に入らない。そんでもってどうでもいい女にはモテまくる。うん、嫌すぎる。さっきも言ったが面倒なことこの上ない。


「エリナ様は流石に博学でいらっしゃる。呪詛を受けて以来、陛下は引きこもりがちになりまして」


「そりゃそうよねぇ。会う度に、どうでも良い女から言い寄られたら嫌だもんね」


「いえ、それが、その……」


 セドリックが言いよどむ。なんだってんだ?


「逆、なのです」


「は?」


 俺が情けない声を上げたのを誰が責められるだろうか。逆ってなんだ? 逆って。


「端的に申し上げますと……色にお狂いなさいまして……」


「セドリックさんよ、つまりあれか? モテモテで、ヤリまくりで、女侍らせまくりってことか?」


「ゲルグ様の仰るとおりでございます」


 セドリックがそう言って頭を抱えた。そりゃ頭も抱えたくなるだろうよ。一国の主が女にうつつを抜かしまくるっていう状況なんだからな。だいたいにして、国が傾く原因のトップスリーには女が入ってるってぇ話だ。それが複数ともなりゃ、そりゃ宰相という立場のこの爺さんも頭を抱えたくなるだろう。


「ゲルグ。そういうわけだから、私、アスナ、ミリアはこの部屋に入った瞬間使い物にならなくなるからそのつもりでいて」


「あん? どういう……あぁ、そういうことな。理解した」


 当然ながらその効果は、アスナにもエリナにもミリアにも同様、ってことか。クソッタレが。嫌すぎる。何が嫌なのかはよくわからねぇが気に食わねぇ。


「私達がなんか変なことしそうになったら、殴ってでもとめて。今回ばかりは許すから」


「殴ってでも、って、物騒だな」


「それだけ強いのよ。呪詛による魅了(チャーム)は。相手が皇帝陛下でもお構いなし。多分部屋に入った瞬間、私達は服脱ぎだすと思うわ。止めて。お願い。一生の不覚だから」


「いや、んならよ、俺とキースだけで入りゃいいじゃねぇか」


「アンタ馬鹿ね。皇帝陛下が会いたいって言ってるのよ。拒否権なんてあるわけないじゃない。それに、私達国際手配犯よ」


 あぁ、そりゃそうか。


「わかった。ぶん殴ってでも止めりゃいいんだな」


「うん。お願い。後で倍にして返すけど」


「それはやめろ」


 こいつの倍にして返すは怖すぎる。マジでやめろ。死ぬから。普通に死ぬから。


「話はお纏まりになりましたかな?」


「ん。皆、行こ」


 エリナとミリアが生唾を飲む。そんだけ色欲の呪詛とやらが怖いんだろ。いや、確かに入った瞬間、本人の好き嫌いとは関係なしに服脱ぎだすとか恐怖でしかねぇわな。アスナに関しちゃいつもどおりな顔しちゃいるが、ちょっとばかし手が震えてやがる。


 数秒程俺達を見回して、その後でセドリックがそのどでかい扉をノックする。


「ヘンリー陛下。勇者様御一行をお連れしました」


「うむ。入れ」


 綺麗な声だ。そう思った。野郎の声に綺麗もクソもねぇと思うだろ? だが、そう感じた(・・・)。感じてしまった。その後多分に自己嫌悪に陥ったのは言うまでもねぇ。


 セドリックがゆっくりと扉を開ける。さらりとしたウェーブがかった金髪。すらりと通った鼻筋。パッチリとしながらもきりっとした切れ長の目。そして、薄くほのかに色づいた唇。男でも見惚れるほどの美青年が玉座に座っていた。エリナがクソイケメンとか言ったのがよーく理解できた。


「勇者アスナよ。久しぶりだ」


「はい。陛下も、ご機嫌麗しく」


 ん? 色欲の呪詛ってやつはどこいったんだ? アスナは普段どおりだぞ。そう思ってエリナを見る。おぉ、おぉ、顔を真っ赤にしてやがる。ミリアは? うん、エリナと同じだな。


 おもむろにエリナが自身の服に手をかけた。うん、言ったとおりになったな。ついでにミリアも同じ様子だ。うん、嫌だろうな。しゃーねぇ。一肌脱いでやるかぁ。


「エリナ! 正気に戻りやがれ!」


 俺はエリナの顔面、その右頬をグーで思っクソぶん殴る。いつもの恨みとかじゃねぇ。ねぇったらねぇ。エリナが吹っ飛ぶ。うん、なんだ。ちょっとすっとした。


 その後で、ミリアの手をゆっくりと下ろしてやる。そんでもって、ペチペチと頬を叩く。ん? エリナと随分対応が違うって? そんなこたねぇよ。……多分。


「ミリア、正気に戻れ。お前さんは神官だろうがよ」


「……はっ! あ、ありがとうございます。ゲルグ」


 しっかし魅了(チャーム)ってのは、こんな簡単にとけるもんなのか。ふーん。聞いてた話とは全然違うな。


「……ったいわねぇ。全力で殴りやがって。後で覚えてなさいよ」


「お前がぶん殴ってでも止めろっていったんじゃねぇか」


「だからって顔面をグーで殴る!? 後で殺す! 絶対殺すから」


 おぉ、怖ぇ、怖ぇ。いや、マジで怖ぇ。あとで土下座しよう。


「……ゲルグ……凄いですね。普通ここまで簡単に呪詛による魅了(チャーム)はとけませんよ?」


「ん? そうなんか?」


「はい。……多分、ゲルグの、おかげ……です。あ、ありがとうございます……」


「本当にとけたのか? 顔、真っ赤だぞ?」


「い、いや、これは、違います! ちょっと暑くて。あー暑いなー。ぱたぱた」


 ミリアが手で顔を扇ぐ。そんなにこの部屋暑いか? まぁ、感じ方は人それぞれか。


 エリナの方をみると、右頬を腫らしながらも悔しそうに顔をしかめていた。


「……ちょっとばかし感謝はするわ。ありがと。でも後で殺すから」


「うん。なんかすまん。流石にやりすぎたと反省してる」


 エリナの真っ赤に腫れ上がった頬を見て、流石に可哀想になる。いや、うん。女の顔面をグーで殴るとかは流石にやりすぎだった。うん。すまん。後悔はしてねぇがな、うん、すまん。


「殺すから」


「すまん」


 兎にも角にも、魅了(チャーム)はとけたみたいだ。ミリアがエリナに治癒(ヒーリング)をかける。腫れ上がった頬がずんずん治っていく。


 しかし、アスナが魅了されてないのはどういうこっちゃ? ついでに言や、なんか盛大に顔をしかめてやがるな。


 どういうことだ?


「……話しても良いかね?」


 皇帝陛下サマが呆れた顔で俺達を見ながら告げる。まぁ呆れ顔にもなるだろ。皇帝陛下の前で漫才を繰り広げたんだからな。その原因が陛下サマであるとは言えよ。


「陛下。問題ございません」


「うむ。すまぬな。アスナよ。余の呪詛のせいで余計な手間をかけた」


「セドリック様が事前にお話しくださいました。予測していたことです」


 おぉ、アスナ。お前畏まった喋り方できたんか。いっつも「ん」とか「だいじょぶ」とかしか言わねぇから、そういうキャラだと思ってたわ。すまん。お前にも常識あったんだな。


 俺? 常識なんてとうの昔にかなぐり捨てたよ。


「勇者アスナと、その一行よ。此度は大変であったな。まずは種々労わせてくれ」


 そして、いけ好かねぇクソイケメンとの謁見が始まったのであった。しかし、この時点であんな帰結になるとは、誰も予測はしていなかった。クソッタレだよ、本当に。

出ました! 呪詛!

「色欲の呪詛」、読者の皆様は欲しいですか?

私は正直御免被ります。嫌過ぎる。


さて、皇帝陛下との謁見。それがどのような結末になるのでしょうか。

第二部ももう少しでお終いとなります。


アスナの! しゅじ(略)


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[一言] ゲルグとキースが全裸になってヘンリーと絡み合い、そのおぞましさで魅了を解除すると思ってましたw
[一言] どうなっちゃうんでしょうねぇ。 不安だな~
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