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第九話:私達に出会ってくれて。生まれてきてくれて。この場にいてくれて。ありがとうございます

「ジョーマさん、お世話になりました」


 アスナがババァに深く深くお辞儀をする。要らねぇぞ? このババァにそんな礼を尽くすなんて、必要ねぇ。どうせ、俺達の様子なんてこっから暇つぶしがてらチラチラ見てるんだぞ。


「うむ。二ヶ月程か。よく頑張った。皆のもの。褒めてやろう」


 だから、なんでてめぇはそんな偉そうなんだよ。とは口ださねぇ。なんたって、何やらアスナもエリナもミリアもキースも感動したような、そんな表情を浮かべてやがるからな。水差すこともねぇだろ。


「時に、アスナ・グレンバッハーグよ。これを渡しておく」


 ババァがアスナに笛を渡す。


「なんじゃこりゃ?」


「笛だ」


「んなもん見りゃわかる! 何の効果があるんだって聞いてんだ」


 っとーにこのババァは、説明を勿体ぶりやがる。端的に、わかりやすく、結論から説明しやがれ。


「ゲルグよ。そなたは本当に結論を急くな。まぁ、そこもまた愛い奴なのだが」


「能書きは良い。さっさと説明しろ」


 ババァがため息を吐く。ため息吐く暇あるならさっさと説明しろよ。


「この笛はな、鳴らん。その音は余の脳内だけに響き渡る」


「つまり、ババァを呼び出してぇ時に吹けってことか?」


「気軽に呼び出されても困るがな」


 ふーん、へー、ほー。そういうからくりか。


「アスナ、ちょっと貸せ」


「ん」


 俺はアスナから笛を受け取って口に咥える。んでもって、ババァが制止する暇も与えないほどに素早く、思いっきり息を吹き込む。お、ホントだ、音でねぇ。


「……ゲルグ。そなた……。思いっきり吹きよって。うるさいことはうるさいんだぞ」


「いや、すまん。本当にそうなのかな、とか思ってよ」


 別に嫌がらせのためとかじゃねぇ。ねぇったらねぇ。いや、嘘だ。心底嫌がらせの為に吹いた。後悔はしてない。


「覚えておけ、ゲルグ」


「安心しろよ。忘れたらこの笛吹いてやるから」


「やめろ」


 ババァが珍しく苦虫を噛み潰したような顔してやがる。あーすっとした。アスナに笛を返す。


 ババァが気を取り直して、アスナを見つめる。


「アスナ・グレンバッハーグ、並びにキース・グランファルド、エリナ・アリスタード、ミリア。ついでにゲルグよ」


 ついでにってなんだ。ついでにって。


「安心するが良い。そなたらのことは、余がしっかりと見張っている。苦難に膝が折れそうな時、そなた達では手に余る事態となった時、余が手助けする。約束しよう」


「ジョーマさん……」


「ソフトハート殿……」


「ジョーマ様……」


「ジョーマ……様……」


 おーおー、なんか、感動のワンシーンってかんじになってやがる。やだねぇ。こういう空気。


「おい、おめぇら。つまり、このババァが何時だって俺らのこと見てるってことだぞ? いいのか? 便所行ってるときも、寝てるときも、なんか恥ずかしいことしてるときも、ババァが見てんだぞ。ほんっとーにいいのか?」


 俺の言葉に、俺以外の誰もが微妙な表情を浮かべる。これだよこれ。この空気。こういう空気じゃねぇとな。


「ゲルグ……そなたは、本当に余計なことを言い始めるな……。まぁ良い。そういう場面は極力見ないようにする。それでいいか?」


「ゲルグ。野暮」


 うるせぇよ、アスナ。今生の別れってわけでもねぇし、感動するだけ無駄なんだよ。特にこのババァはな。


「して、この森を出てどうするつもりだ?」


 ババァがアスナに尋ねる。そういえば聞いてなかったな。最終目的地はメティア聖公国で間違いねぇ。途中経過までは考えてなかったわ。


「ルマリア帝国に行こうと思ってる。皇帝にも面識ある」


 ルマリアか。なんでも「美青年」なんて言葉をそのまま絵にしたような皇帝が治めている国だと聞いている。まーた、いけすかねぇ奴が増えんのか。ため息を吐きそうになるが、それをなんとか押し殺す。


「ふむ。十分に気をつけることだ。ルマリアの内情もきな臭い。アリスタードから出ている手配書に関してはどう動くかまだ決めかねているようだがな」


「ん。ありがと。ジョーマさん」


「では、餞別代わりだ。そなたらを迷いの森の外まで飛ばしてやろう」


 ん? 魔法ってそんなこともできんのか? 転移魔法(リーピング)は使えねぇ。どうすんだ? そんな風に不思議そうな顔をしていると、エリナが小声で補足してくれた。


「ジョーマ様は、人工精霊の第一人者よ。つまり、ジョーマ様自身で魔法を開発しちゃってるの。そんな芸当できるの世界中さがしても、数えるほどしかいないんだから」


 へー、ふーん、ほー。よくわからねぇが、ババァがすげぇってことか。よくわからねぇけどよ。


強制転移(フォースリーピング)


 詠唱なしで発動した魔法は、俺らの身体を淡く光らせ、そして、風景がぐにゃぐにゃとねじ曲がっていった。


「ソフトハート様! 短い間でしたが、ありがとうございました!」


 ミリアが薄れていくババァの屋敷を見て、涙ぐみながら叫ぶ。ミリアよ。今生の別れじゃねぇっていってんだろ。どうせ、しばらくしたらひょこっと顔見せるぞ、あのババァは。


 そんなこんなで、長くも短くも感じられたババァの屋敷での一時は終わりを告げたのであった。






「おぉ、迷いの森の外だ」


 すげぇ。素直にすげぇ。迷いの森なんて悪辣な森から一瞬だ。自力で抜け出すのにゃ相当かかるんだろうがよ。それが一瞬だ。ババァ、お前すげぇな。悪かった。舐めてたわ。


「行こ」


「えぇ、次はルマリアね。あのクソイケメン皇帝。久々に会うわ。元気にしてるかしら」


 エリナ。「クソイケメン皇帝」って言ってやるなよ。仮にも一国の主だぞ? っていうか、なんでお前はそう口が悪いんだ。


「ん。でもその前に、メルクリウス霊殿、寄る」


「メルクリウス霊殿、ですか?」


 ミリアがアスナから出た言葉に不思議そうな顔をする。


「アスナ様、メルクリウス霊殿ならもう立ち寄ったではありませんか」


 キースがアスナの方を怪訝そうに見る。その言い分も尤もだ。アスナも、エリナも、ついでにミリアも契約すませてるって話だったろ?


「ゲルグの契約。ゲルグにはメルクリウスの適性がありそうってエリナ、言ってた」


 ん? 俺?


「あぁ、確かにそんなこと言ったわね。いい機会かもね。ゲルグ。アンタ、メルクリウスと契約してきなさい。決定」


「勝手に決定すんな。まぁ、別にいいけどよ。メルクリウス霊殿ってどこにあんだ?」


 霊殿なんてもんにゃ、とんと興味がなかったもんで、こまっけぇ場所までは把握してねぇ。エウロパにあるってそんだけだ。エウロパには、いくつだったかな。確か五つほど霊殿があるはずだ。


「ルマリアと迷いの森の間。丁度良い」


 あぁ、そりゃ丁度いいか。高位魔法か。俺も使えるようになんのかね? ってかあれ。試練ってやつを受けなきゃならねぇんだろ? なんかそら恐ろしくなってきやがった。


「なーに不安そうな顔してんのよ。クソ小悪党なおっさんの不安そうな顔なんて誰も見たくないんだけど」


「うるせぇよ」


 そんなの俺が一番知ってらぁ。でもしゃーねぇだろうがよ。怖ぇもんは怖ぇ。


「大丈夫よ。メルクリウスは優しい精霊だから。優しくなきゃ盗賊なんて悪党に力を与えるわけないでしょ?」


「あ、そうか。財の精霊、だったか?」


「そうそう。悪党のアンタにもちゃーんと力を貸してくれるはずだから、不安に思う必要ないわよ。ね、アスナ」


「ん。メルクリウス、優しい」


 そんなもんなのか。そんなもんなんだろうなぁ。よくわからねぇけどよ。


「じゃ、しゅっぱーつ!」


 エリナの溌剌とした声に、俺達はえいえいおーと、手を挙げ、メルクリウス霊殿を目的地に据えたのであった。







「しっかし……遠くねぇか? メルクリウス霊殿とやら」


「仕方ないでしょ。迷いの森からルマリアまでは、歩いて一週間。そのど真ん中にあるメルクリウス霊殿は、三日ぐらいかかるのよ」


 歩き始めて大体六時間ぐらい。エウロパ大陸は広い。馬鹿みてぇに広い。世界地図で見ただけだったが、ここまで広いとは思わなかった。


 っていうか、三日って言ったか? 三日? 野宿確定じゃねぇか。


「馬でもあれば、もうちょっと早く着けたんだけどねぇ。アタシ達には手に入らなさそうなものよねぇ」


「馬、馬か。乗ったことねぇな」


 馬、高ぇからな。借りるのも買うのも。買っちまったら最後、維持費がかかる。馬鹿みてぇに金がなくなっていく。そんなもんに手を出す奴は俺の周りにゃいなかった。


「えーマジ? その歳で馬に乗ったことないの? キモーイ。乗馬経験が無いのが許されるのって、十六歳までよ?」


「うるせぇな。高ぇんだよ。馬。乗ったことなくて当たり前だろうがよ。こちとらチンケな小悪党だよ」


「あぁ、確かに高いかもね。馬。でも皆乗れるわよ?」


 え? マジで? キースはわかる。騎士だもんな。馬に乗れなきゃ話にならねぇ。でもアスナとミリアも? マジで?


「アスナは私が教えてあげたの」


 エリナが胸を張る。こいつ、ミリア程じゃねぇけどおっぱいでけぇよな。


「なんか、邪な視線を感じたんだけど……」


「気のせいじゃねぇか?」


「あっそ。ミリアは、メティア教の神官だもの。世界行脚の時に馬使ったのよね」


「えぇ、乗り心地はお世辞にもいいとは思えませんでしたが……」


 ほー、そうなのか?


「乗り心地が悪いってどういうこっちゃ?」


「え? そ、その……。あの、ですね」


 ミリアがなにやらもじもじし始める。なにをもじもじしてんだこいつは?


「っとーに、アンタデリカシーってやつが無いわね。長いこと馬に乗るとね。お尻の皮が剥けるの。あれ痛いのよねぇ」


 ケツの皮が剥けるのか。そりゃ痛そうだな。っていうか、デリカシー無いって言っときながら、エリナ、お前が説明すんのか。ミリアが「言ってほしくなかった」みたいな顔してんぞ。デリカシーに関しちゃ俺と同レベだな。


「キースもケツの皮剥けたのか?」


「騎士ともなると、装備が違う。そのへんも勘案された装備をする」


 ふーん、へー、ほー。そうなんか。


「アスナは?」


「ん、痛かった」


 アスナも経験者かぁ。そりゃ痛いんだろうなぁ。


「い、何時までお尻の話してるんですかぁ……」


「お、悪い悪い。ついな」


「つい、で長々とお尻の話しないでくださいよ……」


 悪かったって、ミリア。ルマリア着いたらなんか奢ってやるから、機嫌直せ。






 それから一時間ほど歩いただろうか。


「ストップ。魔物だ」


 数十歩程離れた場所にある草陰。そこからこちらを窺う気配が感じ取れた。人間じゃねぇ。


「どうする?」


「ジョーマさんの修行の成果。確かめよ」


 アスナがそんなことを言い始めた。確かに、ババァの修行は個々人で行われていて、それがチームワークにどう影響すんのかまでは確認してねぇ。いい頃合いかもしれねぇな。


「よっしゃ。んじゃ行くぜ!」


「ゲルグ!? 危険です!」


 ミリアの制止の声を無視して俺はアスナ達の前に躍り出る。アスナ達は強い。魔物どもはそれを察してか、中々表に出てこなかったもんだが、俺という脆弱そうな人間が出張ってきたことで、途端に気を強くしたらしい。


 見たことねぇ魔物だ。なんだこいつら。カエルっぽいやつと、でけぇムカデっぽいやつが数匹ずつ。


「ポイズントードと、オオムカデです! 毒を持ってます!」


「お、そうなのか。あんがとよ」


 注意しろ、と叫んでくれるミリアに俺は小さく謝意を口にする。だがな、迷いの森でさんざっぱらサンドバッグにされかけてた俺だ。以前の俺と同じだと思ってもらっちゃ困る。


 ポイズントードとやらが、その長い舌を蔦のように振り回して、俺を打擲しようとする。無駄だ。止まって見えらぁ。いや、すまん。見栄張った。そんなこたねぇ。少しばかりゆっくり見える程度だ。とはいえ、ババァの修行で俺の動体視力は結構鍛えられたらしい。


「よ! ほ! とっ!」


 避ける。紙一重で。それだけが俺にできる唯一のことだ。


「バーカ、当たらねぇよ。悔しかったら当ててみやがれ。単細胞生物どもが!」


 なんっつーの? ヘイトを集めるって言うんだっけか? 魔物どもが怒り狂って目標(ターゲット)を完全に俺に定める。他の魔物共も、俺を重点的に攻撃しようとしてくる。だがな、複数匹の攻撃もやった。経験済みだ。


「ほりゃ、よっと! そんでもって、そらよ、っとくらぁ!」


「……ゲルグ、凄い……」


 勇者サマに褒められて、俺も鼻高々だよ。


「チームワーク、確認すんだろ? 手ぇ抜いて、色々やりながら確認しろ! 敵の攻撃は俺が引き付けっから!」


 その声に、アスナが、キースが、剣を抜く。んで、エリナが杖を構える。手加減だぞ? 手加減。お前らが本気出したら多分瞬殺だ。


 そんなこんなで、俺はババァの修行ってやつが、どれだけこいつらに力を与えたのか身を持って実感することとなった。


 まず、キース。俺を無視してエリナを狙った攻撃を、その身で難なく受け止めた。ピクリとも眉を動かさねぇ。やるなぁ。


 次にエリナ。いつもみたいに攻撃魔法ブッパじゃねぇ。状況に応じて、支援したり、敵を撹乱したりする。いや、そりゃ攻撃魔法も使うんだがな、今までとは全然動きが違う。


 そんでアスナ。魔物と戦う。戦うんだが、否善の呪詛による痛みに襲われている気配はない。俺を守るとか、仲間を守るとかそういうのは全然考えてねぇみてぇだ。ってかあの顔を見りゃわかる。ありゃ無心だ。ぼけっとした顔で敵をボコスカ打ちのめしていくのは中々シュールだ。


 ミリアはもう完成されている。いつもと変わらない。適宜、神聖魔法で俺達をフォローする。


 それぞれで別々に修行してたってのに、そのチームワークの完成されていること。俺は感心するしかない。


 程なくして魔物は全てぶち殺すに至った。


「ふーっ、疲れた……。実戦ってなると、やっぱ緊張するもんだな」


「お疲れさまです。ゲルグ」


「おぉ、あんがとな。ミリア」


 他の連中はアスナを中心に、お互いの健闘を称え合っている。俺とミリアがその集団からちょっとばかし離れたところで、遠巻きにそれを見ていた。


「努力、されたんですね」


「努力なんて、大層なもんじゃねぇよ。ただ必死だったってそんだけだ」


「ゲルグ。確信しました。貴方は小悪党でも、一般人でもありません」


 ミリアが珍妙なことを言い始める。なんだこいつ? 酒でも飲んでんのか?


「貴方は導く者(・・・)なんですね。ありがとうございます」


「何に礼言われてんだ?」


「私達に出会ってくれて。生まれてきてくれて。この場にいてくれて。ありがとうございます」


 そこまでまっすぐにこっ恥ずかしくもあるお礼を言われちゃ、むしろ俺が恥ずかしくなってくる。俺はポリポリと頬を掻いて言った。


「バーカ。小悪党にそんな言葉は分不相応なんだよ。エリナぐらい馬鹿にしてくんのが丁度いいってもんだ」


 その俺の言葉を聞いて、どれだけ自分が恥ずかしい台詞を言ったのかに思い至ったんだろう。ミリアの顔はゆでダコみたいに真っ赤になった。


 その顔をみて俺は笑った。笑い声に、アスナがキースが、エリナが集まってくる。


 うん。いいチームだ。悪党がいるには眩しすぎらぁ。

はい、修行で強くなったパーティーのお披露目回です。


っていうか元々最強に近いんですけどね、あいつら……。

これ以上強くなってどうしようってんだ……。


ゲルグもちゃーんとパーティーで役目を果たせるようになったようです。

やったね! ゲルグ!

大丈夫だ! アスナの主人公補正が! ある!!(いつもの)


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とーっても励みになります。ッラーーーーーーーーー!!!!


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[気になる点] える しってるか メインヒロイン設定は絶対ではない 西野とかレムとか 作者の予想外に伸びるヒロインはいます。 ミリアもそうなりつつある気が。
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