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第五話:メティア教の教義。世界の理はそれが全てではない、ということですね

「で? ババァ。なんで俺達がそのポイズネスなんちゃらをぶっ殺してこなきゃいけねぇんだよ」


「修行だ。修行の一環だ」


「なんでも『修行』って言えば許されると思ってねぇか?」


「修行だ。修行の一環だ」


 壊れたように「修行」、「修行」とばかり言うババァに俺は大きくため息を吐く。こうなったババァは、もうてこでも動きやしねぇ。決めちまったもんは曲げねぇ。それがこのババァだ。


「ここは迷いの森だろうがよ。俺達だけで動き回ったら、迷っちまうだろうが」


「ニコルソンが案内する。問題ない」


「ん? どういうこっちゃ?」


 なんでニコルソンが案内すれば、俺達は迷わねぇんだよ。てっきり「エリナの魔力(マナ)を使ってなんとかしろ」とか言われると想像してたもんだが。


「迷いの森はな、ニコルソン達のようなはぐれ魔族が棲む為に魔力(マナ)を付与された森だ。あやつらは迷わない。その方法をあやつらが持っている」


「へー、そうなのか。そうなのか?」


 俺はニコルソンの方を見遣る。


「あぁ、そうだ。私の先祖が関わっていると、両親から聞いた」


 そう言って、ニコルソンがポケットから小さな石を取り出した。


道標石(ガイドストーン)。この森の魔族にだけ製法が伝えられた石だ。この石が、次に進むべき道を教えてくれる」


「ほー、便利だな」


「あぁ、先祖の知恵だ。魔王とも縁を切り、人間とも交ざらず、現し世と隔絶して生きることを決めた、祖先の」


「そりゃあ、英断だなぁ。派閥争いやら、裏切りやら、そういうのが無いってことだろ? 羨ましい限りだ」


「あぁ。我ら一族は争い事を好まない。質素に、その日その日を大切に生きていくことの尊さを知っている」


「感心じゃねぇか。俺の知り合い共に説教たれてほしいぐれぇだ。全く」


 あれ? でも魔力(マナ)を使って頑張れば、迷いの森もなんとかなるんじゃなかったっけか。そんな俺の表情を察して、ニコルソンがすぐさま補足してくれた。


「この森には二種類の大規模な魔法がかかっている。一つは入るものを拒み、そして迷わせる魔法。対象は広く、入ってくるもの全てに影響する。一方で効果は弱い。多少魔法に詳しい者であれば、簡単に侵入できるだろう。

 もう一つは、入ってきた特定の人物を拒み、決して中に入れない魔法。こちらは対象が狭く、効果も強い。多少魔法に詳しくても、力量(レベル)が高くても、こちらに引っかかれば決して我々の集落にはたどり着かない」


 うん、イケメンで、ガタイも良くて、優秀、んでもって頭脳明晰。いけすかねぇ、が、嫌いになるほどでもねぇ。むしゃくしゃはするがな。


「つまり、魔王みたいな存在は、その二つ目の魔法で指定されてる、ってことか?」


「そのとおりだ、ゲルグ」


 さわやかーに笑いやがる。うっ、サブイボが出てきた。なまじ良いやつなのがますます気に食わねぇ。敵愾心剥き出しにもできねぇ。うー、ジレンマだな。ジレンマ。


「ことは決まった。さっさと行くが良い。アスナ・グレンバッハーグ。くれぐれも気をつけよ」


「ん」


 ババァがアスナに気をつける様に言ってから、すぐに俺達はババァの屋敷を追い出された。人使いの荒いババァだ。全くよぉ。






 迷いの森の探索? は思った以上に順調だった。魔物も襲ってきやしねぇ。そこかしこに気配は感じ取れるんだがな。


 まぁ、ちょっと考えればわかる、というか、ババァから昔聞いている。


 魔族。それは魔物を使役する存在として生み出された者の総称なんだそうだ。魔物より遥かに高い知恵を持ち、そして魔物を使役する。勿論魔族本人もそれなりに強い。この辺一帯の魔物は、ニコルソン達が掌握しているんだろうよ。


 そんでもって、道標石(ガイドストーン)の存在。フラフラ歩き回った瞬間、自分がどこにいるのかわからなくなるこの森で、今から自分たちが行くべき方向を指し示してくれるそれは、とんでもなく便利だ。便利、というか必需品だな。


「なぁ、ゲルグ」


「なんだ? ニコルソン」


 イケメンが話しかけてくんな、とは言わない。こいつは良いやつだ。無闇矢鱈に敵を作るもんじゃない。


「エリナと、キース、といったか。彼らをなんとかしてほしいのだが……」


「あぁ、確かにな。ちょっくら話してくるわ」


「助かる。あそこまで敵愾心を剥き出しにされると、こちらも対応に困ってな。いや、人間との関係から、良い感情を持たれないというのは重々承知しているんだ。だが……」


「わーってるわーってる。なんとかしてくるわ。先導よろしく」


 俺はニコルソンの隣から、ひょいっと離れて、最後尾をしかめっ面で歩く二人に近寄った。おいおいおい。そんなしかめっ面してんじゃねぇよ。お二人さん。


「おい、お二人さんよ」


「なによ。ゲルグ。魔族なんかと仲良くしちゃって。アンタも敵? あぁ、アンタは敵だったわね。私の」


「俺が敵なのはどうでもいいがな。もうちょっと柔い態度を取れねぇのか?」


「馬鹿言うな。魔族だぞ? 魔族」


 あぁ、もう。暖簾に腕押し? ってやつだ。何言っても聞こうとしねぇ。


「あんな。ニコルソンは確かに魔族だ。だが、人間に害を及ぼしたことはねぇって言ってたぞ」


 言ってたっけか? まぁそんなこたどうでもいい。


「あのねぇ、ゲルグ。アンタこそどうかしてんじゃないの? 魔族って言ったら人間の敵。それはどんなにあいつらが善良だったとしても変わらないのよ」


「同感です。姫様」


 説得には骨が折れそうだ。ったく。そうだなぁ。まずは比較的説得しやすそうなエリナからか。キースはエリナが折れれば、すぐに折れるだろ。なんたって、姫様命なロリコン騎士だ。


「エリナ。ちょーっと考えてみろ」


「なによ」


「あそこにいるニコルソン。んで、お前さんのクソ親父。どっちが善良な一般市民だ?」


「そんなの決まって……。……ニコルソンね……」


「だろ? お前さんも人間が悪意やらそういうもんを容易く撒き散らすクソみてぇな存在だっていうのは、わかってるって言ってたじゃねぇか」


「そう……だけどさ! でも魔族は敵よ!」


「向こうにゃ敵対する意思はねぇみてぇだぞ?」


「そんなの関係ないわよ! 敵ったら敵なの!」


 あぁ、だめだこりゃ。凝り固まってやがる。しゃあねぇ。奥の手だ。


 俺はこちらを興味深そうにちらちら見ていたアスナを手招きする。ちょっとこっちゃこい。


「ん。なに? ゲルグ」


「ちょ、ゲルグ! アスナを使うとか卑怯よ!」


 言ってろ言ってろ。俺だって、お前さんらが発する険のある雰囲気にゃ辟易としてたところなんだよ。


「おい、アスナ。お前から見て、ニコルソン。どう思う?」


「ん……魔族は敵……」


 その言葉を聞いてエリナが勝ち誇ったような笑顔を浮かべる。馬鹿、まだ続きがあるに決まってんだろ。


「敵、だと思ってた。でも、そうじゃなかった。魔族も話せばわかる。理解した。反省」


「な? 悪い奴ばっかじゃねぇよなぁ」


「ん。少なくともニコルソンさんは、いい人」


 うん。やっぱアスナはアスナか。いつか誰かに騙されねぇか心配になりはするが、そこはそれ、俺が守ってやりゃ良い。おっさんの務めだ。


「アスナ……貴方まで……」


「エリナ。私達皆誤解してた。魔族にも色々」


 アスナがエリナを見つめる。その盛大にしかめた顔をだ。


「……今だけよ」


 小さい声でエリナが唸る。悔しそうな顔をしちゃいるが、そんなことも許してやるかよ。


「あぁん? 聞こえねぇなぁ」


「今だけ! アスナとゲルグの言う通り! それは分かった! でも魔族は敵! ニコルソン達は別! それで良い!?」


「あぁ、それでいいよ。もう」


 だんだん面倒臭くなってきた。


「で? キース。お前が忠誠を誓ったエリナはこう言っているわけだが?」


「俺は姫様の意思に従う。この場は矛を収める。誓おう」


 キース、ちょろっ。将を射んと欲すれば、うんぬんかんぬん。


 そんな塩梅で、どうにかこうにか、雰囲気も柔らかくなったのだった。めでたしめでたし。






 それから、一時間ほど歩いただろうか。遠いな。なんだってこんな遠いんだ? ってか、迷いの森ってそんなに広かったっけか。


「おい、ニコルソン。結構歩いた気がするんだが、後どれぐらいかかるんだ?」


「あぁ、済まない。人間のことを快く思っていない仲間もいてな。集落を避けるように迂回して目的地に向かっているんだ。もうすぐ着く」


 あぁ、そういうことな。理解理解。こっちが敵愾心丸出しにしてたように、魔族側にも敵愾心剥き出しになってる連中がいるってこっちゃな。


「そかそか。そりゃ、ニコルソン。お前も大変だな。ババァに協力しにいく時もひと悶着あったろ」


「よく分かったな。その通りだ」


 そのあたり、人間と変わんねぇよなぁ。ちっちゃい集落にまとまって、ひっそりと自分たちだけで周囲を害さないように生きてる分、こいつらの方がまともなんじゃねぇのか、とすら思う。


 そんでもって、いつの間にやら、俺の隣を歩いていたミリアが口を開く。うおっ、お前いつの間にそこにいたんだよ。


「ニコルソン、さん。えっと、私のような神官に対してもしかしたら悪感情を抱いているかもしれませんが、そこを抑えて、伺いたいことがあるのですが、良いですか?」


「ん? あぁ。ミリア、さん。だったか。私個人としてはメティア教の教徒に対して思うところは無い」


「ありがとうございます。ニコルソンさん個人のご意見ということですね。かしこまりました」


「頭脳明晰なお嬢さんだ。素直に感心する。それで、何が聞きたい?」


 ん? 今の会話でミリアの何が伝わったんだ? 確かにミリアは頭が良い。だが、今の会話でそれが伝わる要素あったか?


「ニコルソンさん達にとって、魔王はどのような存在でしたか?」


「……ふむ。難しいことを尋ねるな。なんだろう。言葉にするのは難しいが……ミリアさん。貴方に馴染みのあるかもしれない言葉で話すなら『他部署の管理職』、のような存在だろうか」


「他部署の管理職、ですか?」


「あぁ。我々は我々で仲間意識や帰属意識を持っている。この集落、この一族に自分たちが個として存在している、という意識だ」


「はい」


「我々から見ると、魔王一派は他部署なんだよ。同じ組織、集団に属しているかもしれないが、仲間意識は無い。その頂点にいる魔王だ。あれこれ煩く言ってくる。そんな他部署の管理職のような存在だ。……と、言ってはみたが、なにやら違う気もしてくるな……。すまない」


「いえ、十分です。ありがとうございます」


「いや、お嬢さんの見識の一部になれたのなら、光栄な限りだよ」


 うん、何を話してやがるのか全然わからねぇ。だが、イケメンがべっぴんな姉ちゃんと話している、それだけで万死に値する。いや、俺はポーカーフェイスに定評のあるナイスガイだ。そんなこた悟らせねぇ。


「メティア教の教義。世界の理はそれが全てではない、ということですね」


「聡明なお嬢さん。そのとおりだ」


 っとーに、何を話してんのかわかんねぇ。軽く疎外感を感じてへこむ。しょうがねぇだろ? 俺にゃ教養はねぇ。メティア教とやらの教義も知らねぇ。


 そんな俺の表情を見透かしたのか、ミリアがちょっとばかし補足してくれた。


「ゲルグ。メティア教の教義には『魔族は異教徒であり、人類の敵である。目の当たりにした時、自身が死ぬか相手が死ぬかのどちらかだ。撃滅せよ』という教義があるんです」


「なんだそりゃ。なんとも極端だな」


「……つい先刻まで私はその教義を信じ切っていました。エリナ様やキース様程ニコルソンさん達を敵視してはいませんでしたが、それでも、『魔族は敵』という教えが私の中に深く根ざしていたのは事実です」


 うーん、宗教の話はよくわからねぇ。よくわからねぇが。


「人間にだっていいヤツと悪い奴はいる。ウマの合うやつがいりゃ、こいつはどうにも関わりたくねぇと思うやつもいる。そういうことだろ?」


 身も蓋もない意見だろう。だが、ミリアがそんな俺の言葉に小さく笑った。


「ゲルグ。貴方と会ってから、私の世界は広がりました。メティア教の教義を疑うなんて、今まででは考えられなかった」


「おいおい。俺のおかげだとか抜かさねぇよな?」


「貴方のおかげですよ?」


 バーカ、そりゃ買いかぶりすぎだ。


「俺はチンケな小悪党だよ。教養もなけりゃ、常識も知らねぇって、ただそれだけだろうがよ」


 それに、魔族のことに関しても、状況がそうさせたってだけじゃねぇか。俺がいなくても、きっとそう思ってただろうよ。


「だからこそです。貴方の人間として自然な在り方が、私にとっては眩いんです」


「小悪党がか?」


 鼻で笑う。鼻で笑うしかねぇだろうがよ。俺に取っちゃ、神官なんて大層なもんやってるミリアの方が偉いんだ。


「小悪党とかは関係ないですよ。ゲルグがゲルグだからです」


「なんだそりゃ」


 敢えて不機嫌そうな表情をする俺に、ミリアがニコニコと笑う。やめろって。その顔。むず痒くてかなわん。


「何の話してるの?」


 ニコニコ笑うミリアを、仕方ねぇな、みたいな顔で眺めていたら、不意に背後から声を掛けられた。


「おぉ。アスナか。メティア教の教義とやらを教えて貰ってたんだよ」


 ミリアがなにやら俺を褒めちぎっていたことは隠す。恥ずかしすぎんだろ。常識的に考えて。


「……ふうん」


 それだけ言って、アスナはつまらなそうに離れていった。なんだ、あいつ。


「っと、そろそろだ。ポイズネスラフレシアがいる場所まで後数分。気を引き締めてくれ」


 ニコルソンが、その顔をきりりとさせて、俺達を見回した。俺達は思い思いに、神妙な顔をしてから、小さく頷くのだった。

はい、よくあるおつかいイベント発生です!

定番ですね。


そして、ゲルグがミリアと話していると、

やきもち妬いちゃうアスナです。

彼女もちょっとずつ成長しています。

人間的に。


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誠にありがとうございます。

な、何が望みだ!!望みのものを用意する!!

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[一言] クソ親父陛下という素晴らしい比較対象。
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