表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/39

第六番歌:アダタラマユミの白猪征伐(結)

     結

 霜月二日、放課後の二〇三教室にて、五人の女子が何やら話をしていた。

(しお)満玉(みつたま)と、潮干(しおふる)(たま)、作った……です」

「潤っている感じ、乾いた質感、どないして作りはったんですかぁ。うちの思てたイメージぴったりですぅ」

「コレがレジン、ソレはアルミボールっスな。テクニカルスタッフのセンス光リマくッてマス☆」

「魔神かチョコボールか天空に駆るスターかなんか分からんけど、姉ちゃんは職人並みだよなっ。あたしが(うみ)幸彦(さちひこ)役、んで(やま)幸彦(さちひこ)はっ?」

「私なんですけど」

「年齢カラしテ、兄ト弟逆転シテまセン? 海っポいショール仕入レタんデ、満チ引キのシーンいケルっスよ」

「あ、あの、台詞考えたの萌子ちゃんでしょ。『溺れる大波』と書いて『タイダルウェーブ』? どう読めばこんな横文字になるの」

「あはは、ライトノベルの手法やねぇ。鮫さん、フロートやけど共同研究室からお借りしたでぇ」

「でかしたゆうひっ、やべえっ、変身しねえとなっ」

「鍵、閉める……です」

 五人は、日本文学国語学科公認の文学サークル「日本文学課外研究部隊」に所属している。文系、理系、高校生、様々な専門分野と学年の乙女が、日本文学をいろんな人に楽しんでもらおう! とあれこれPRしているのである。

「よっしゃ、変身完了っ!」

「ヒロイン服で寸劇なんだよね。神話の要素あるかなあ」

「役名のプレートに、イラスト描いテルじゃナイっスか。ゆうセンパイ作☆」

「特徴、とらえている……ですね」

「いえいえ、もっと資料に目ぇ通しておきたかったです」

 変身といっても、コンパクトや腕輪やベルトで別の姿になるものではない。然るべき衣装に着替えることを、日本文学課外研究部隊では「変身」と呼ばれているのだ。

「ふふっ、ヒロインズ全員集合ねー」

 日本文学課外研究部隊の異名の一部で仰り、白いスーツのご婦人が白いハイヒールでカツカツ入室された。

「待ってたぞっ、司令官わたつみまゆみっ!」

 小さな隊員の掛けに、司令官という名の顧問は次のように返す。

「あらー、私は山派よ。ピアノの銘柄も同じ読み! それではご唱和ください、私の名前は」

 講義で用いる指示棒で「三、四!」と拍子をとり、

安達(あだ)太良(たら)まゆみ!」

 空満大学文学部日本文学国語学科の専任教員、上代文学専門の准教授、我らがまゆみ先生である。

「あなた達が、助けてくれたのよね」

 赤、青、緑、黄色、桃色のヒロインへ、司令官はまぶしき笑顔をみせる。

「かたほなれど、思い出せたわ。先祖にわがまま言って、父をこの世へ帰らせたのよね。父は黄泉へまた行っちゃったけど」

 首にかかった弓のペンダントが、ブラインドの隙間より漏れる夕焼けで銀にきらめく。

「償いは必ずやする。命を操ったんだもの。為した事はしかと受け容れるわ」

 まゆみ先生は、自分に色があることを教えてくれた隊員に、「良し!」と親指を立てるサインをした。

「これからも、皆で楽しく文学しましょ!」

『ラジャー!』

 顧問の安達太良まゆみが付けた、日本文学課外研究部隊の異名とは。それぞれの好みに合わせた専用の衣装で変身し、上代・中古・中世・近世・近現代、全時代の日本文学の素晴らしさを伝え、時に戦闘する五人の戦士の名でもある―


「やまとは国のまほろば! ふみかレッド!」

 上代の文学『古事記』の和歌で登場、読書好きで実はおはじきの名手である、雑草ヒロイン。

「原子見ざる歌詠みは、いおんブルー……です」

 中古の文学『千載和歌集』の判で起動、化学の子にして和歌にも興味を持つ、理系ヒロイン。

「花は盛りだっ! はなびグリーン!」

 中世の文学『徒然草』の一節で降臨、すばしっこい「素敵なレディ」見習いの、爆発ヒロイン。

「言草の すずろにたまる 玉勝間、 ゆうひイエロー!」

 近世の文学『玉勝間』巻一の歌で参上、たぐいまれなる記憶力とたゆまぬ精進で己を高める秀才ヒロイン。

「こよい会う人みな美シキ☆ もえこピンク!」

 近現代の歌人、与謝野晶子の一首で見参、コスフィオレ・アニメ・ポエム愛するものがいっぱいの最終ヒロイン。

『いざ子ども 心に宿せ 文学を! 五人合わせて……』



 ― その名も、スーパーヒロインズ! ―



挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)

☆上二点のイラストは、漫画家の揚立しの先生に依頼して描いていただきました!☆


〈次回予告!〉

「成績ダントツのゆうセンパイ様ニ、オ願イガあルンですケド、イイっスか?」

「ええけど、えらい誉めてくれるんやなぁ」

「実はデスね、レポートで分カラないトコロがアリまシテ。ゴ指導よろシクお願いしマース☆」

―次回、第七番歌 「翻刻(ほんこく)(おきな)ありけり」

「これ、明日締め切りやんか。しかも、白紙! さては、うちに全部まかせるつもりやったなぁ!? 疑うたらあかん、ゆうひジャッジメント!!」

「にぎゃー! オ許シくだサイ、オ許シくだサイ、ゆうセンパーイ!!」


「ふぉっふぉっふぉっ。苦しんでおりますぞ、悩んでおりますぞ。次回は、(みやび)なわたしがやうやく舞う番や。期待しとりなはれ、下﨟(げらふ)どもよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ