表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/39

第五番歌:檸檬ト絶対天使(結)

     結

 学び舎が、静かな眠りにつこうとしていた。本日の役目を終えて、知を究める者達が訪れる明日を待つのだ。門をくぐると、いつも新たな発見に満ちているのは、学び舎が朝を迎えて、中身が真っさらになったためだろう。

 ただ一か所だけ、灯りが点いていた建物があった。研究棟の、二〇二教室だ。

「夢では、なかったのよ」

 壁に打ち付けられた本棚に、『萬葉集』やその関連書籍がいっぱい並べられていた。六段ある棚の最下段には、段ボール箱が置かれていたが、荷物を詰めに詰めたせいか、ふたがちょっぴり浮いている。

「私が眠っている間に、彼女達は戦っていた」

 教室にいた人物は、来客用のテーブルに積んである物を、別の空いた段ボール箱へ移していた。鼎、折り紙の束、指揮棒と譜面立て、メガホンなど、種類も用途も異なる道具を、丁寧に手にとっては、納めるべき所へ運ぶ。これらはすべて、思い出の品であるらしい。

「結成から、早くも一ヶ月経とうとするのね。増えたものだわ」

 箱詰めを終えた後、上面に黒のサインペンで「文学PR用 其の弐」と記して、本棚の上から六段目へしまいこんだ。どうやら課外活動か何かのために使った物のようだ。

 その人は、事務机に頬杖をつき、窓の夜空を眺めた。手元には、一冊の単行本が控えていた。

「この世にヒロインは、生きている。生きているのよ!」

 信じていて、良かった! それも、ヒロインは、あの五人だった! 現にて、ある時は運動場、秋津館、またある時は奥山寮、A・B号棟前広場、古池、D号棟で、戦いを繰り広げていたんだ。彼女達なら、彼女達こそ―!!

「私の欠けているものを、埋めてくれそうだわ……!」

 遙か昔から、望んでいたの。もしも、この世にヒロインがいるのなら、助けてほしい。教えてほしい。私が何者なのかを、私という存在は確かなものなのかを。だけど、やうやう巡りあえた。『五色(ごしょく)五人女(ごにんおんな)』は虚構ではなかったのよ。このお話は、本物だ!!

「待っていたわ、スーパーヒロイ……………………―」

 と人は言葉を発し、椅子から、その身を投げ出された。頭をはじめに、軽くも儚い打撃の音をたてて藤色の絨毯へ落ちゆく。五センチ以上の高さはあろう踵の付いた白きストラップシューズに、雪でできたみたいに清き色のスーツ、そして、首には細かい銀の鎖がかけられ、弓を象ったチャームが通されていた。

 開け放された扉より、蛍光灯の光が漏れ続ける。部屋の主に消してもらえることを、ひたすら願っているかのように。主が倒れたことにも知らず、健気に中を明るく照らしているのだ。

 その二〇二教室の表札に、記された名前は―「安達(あだ)太良(たら)まゆみ」。

〈次回予告!〉

「まゆみ先生、しんみりしちゃって、どうしたんですか」

「ごめんね……。あなた達に、かねてより黙っていたことがあったの……」

「異種婚姻っ、蛇と人間のハーフだったのか!?」

「実は幻の地下帝国の女王だったんスか、激アツっスね☆」

「ふええええ、まさか里見家の末裔なんですかぁ!」

「月の住人……ですか」

―次回、第六番歌 「アダタラマユミの白猪征伐」

「大外れねー。私には本名があるの。私の名前は××××××」

『何だって!?』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ