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第五番歌:檸檬ト絶対天使(序)

     序

 余談かもしれないけれど、(そら)(みつ)大学では毎年、入学式の翌日に、学科別の新入生歓迎合宿が行われる。私が所属する「日本文学国語学科」には、2回生全員が世話役として駆りだされる、という少しばかり迷惑な伝統がおまけについているんだよね……。

 一泊二日の合宿で何をするかというと、新入生の自己紹介と各種レクリエーション。日が沈み、気分が高揚しかかったところで、わいわいガヤガヤののしる(あえて古語を使いました。『騒ぐ』という意味ね)わけです。日本文学国語学科では、班対抗の「百人一首」や「難読漢字クイズ」を必ずといっていいほどやるみたい。今年は、新入生を歓迎する側として参加したんだけれど、一部始終を語るのはどうしても無理。だって、中身を覚える余裕も与えてくれないほど、あくせく働いていたんだから。詳しく聞きたいなら、私の友達・本居夕陽ちゃんまでどうぞ。稗田阿礼(ひえだのあれ)のごとき記憶力を披露してくれるから、ね。

 夕陽ちゃんが特段、鮮明に覚えていたことがあったみたい。とある新入生の自己紹介なんだって。

「ニューカマー一回生、与謝野(よさの)・コスフィオレ・萌子(もえこ)デス☆」

 この第一声で、一同が圧倒されてしまった。ああ、風変わりな人物が現れた、ってさざめいていたらしい。明らかに「異質」な雰囲気が漂っていたんだって。声優を志望しているのかという、ハキハキとした声、どこぞで見たようなキャラクターの服装、黒々とした長からむ髪。とにかく目を引く容貌だったそうだ。女性陣が潔く負けを認めてしまう美しさに加えて、キャラクターになりきっている(いや、それが素なんだと思う)勇気。とても素人さんではなかったという。

「それ、本名かー?」とわざと言い出す人もいたけれど、そんなことなど構わずに、風雲を呼ぶ新入生は紹介を続けたのだった。

「好きなアニメは『絶対天使 ☆ マキシマムザハート』デス☆ 知るヒトぞ知ル、王道魔法少女ストーリーデス! イマ着てるノハ、主人公ハートの第一期・初期変身天衣(コスチューム)デス。ソレと、ステッキと呼ばれガチの、同ジク第一期・初期天恵聖物(ヒーリングアイテム)『麗しのカムパネルラ』デス! まだマダ至らナイですケド、よろシクどうぞっス☆」

 とことん個性を貫き、場の空気を一転も二転もさせた強者だった。おまけに、まゆみ先生が後ろの壁際にて、お腹を抱えて手足を畳に打ち付けて大爆笑されていたらしい。とんでもない後輩が来たものだ。


 あの一回生は、最近どうしているんだろうか。学内で次のようなことを聞いている。


  男子学生(日本文学国語学科 三回生男子)より

「与謝野さんなら、毎日違うコスプレでこの辺を歩いているのを見るよ。昨日は……乙女歌劇団の男役に扮していたね。今日はゲームのキャラクターだったかな。連れのゲームオタクが『ウホォ!』って鼻息荒くしてたから。いわゆる二.五次元っていうの? 顔とスタイルはイケていたね。高校では、けっこうモテた方じゃない? でも、キャラが濃そうだから敬遠されたかもしれないな。え? 彼女の出身校? 全然聞いたことないな。知ってるヤツもいなさそうだし。不思議なコだよ」


  女子学生(歴史文化学科 一回生女子)より

「『近代文学研究B』で、たまたま隣の席になりました。きれいな人だなー、モデルさんでもしているのかなーって思いました。だけど、講義中にちっちゃく「うへへへ」とか「ふにゃー」とか奇声を発してたのを聞いちゃって、怖くなったんです。気持ち悪いわけじゃないんですけど、あんまり関わりたくないかもって感じで。なんか、もったいないですよね。ああいうの、腐女子っていうんですか? ヲタクキャラっていうんですか? あんまり現実に興味ないっていうか。私と正反対のタイプの人です。すみません、別に悪口いっているんじゃないんですけど……」


  女性教員(宗教学科 非常勤講師)より

「彼女とは、入学前から大祭やおつとめで何度か会ったことがあります。とても熱心に、教えを学ぼうと頑張っておられますよ。前期の空満神道学のテストでは、学部で最高点を収めていますし、伝教課程の講義でも、積極的に質問をされているようです。お家が大教会と伺っておりますね。普段の服装は、どちらかというと本学の雰囲気にはそぐわないものですが、行事の際は、祭礼服をちゃんと着ておられます。最初は同一人物なのかしらと疑いましたが、TPOに合わせて姿を変えられるそうです。ええ、よろしければ、今月の月祭に参拝くださいね。少しばかりのお菓子をご用意していますから」


 まとめてみると、コスプレをしている奇妙で真面目な空満神道信者というところだろうか。ますます素性がみえにくくなっている。そんな与謝野・コスフィオレ・萌子さんにお近づきになる機会が、はからずもできてしまった。しかも、あまり顔を合わせたくない場所でね―。







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