第二番歌:胸の奥にも Si・Ca(鹿)ぞ鳴くなる(結)
結
坊主との戦いが入ってしまったため、「いおんブルーに捧ぐ 第一回 坊主めくり大会」は、仕切り直しとなった。肝心の勝敗は、最後の四巡で皆が坊主を当てたため、全員持ち札無しで引き分けとなった。こんな結果になるか、とけらけら大笑いして、めでたくお開き。法師らよ、粋ないたずらをしかけたものだ。
「ふみかさん、夕陽さん、まゆみさん……」
かるたを箱にしまったころ、唯音先輩が改まって正座をした。
「私、隊員に、なる……です」
先輩は深々と三つ指をついた。それから時間をおいて、細長い体を起こした。
「文学、深く、知りたい……」
言葉の雫が、青く、澄んでいる。彼女の迷いは、もう断ち切られていた。
「良き人の 良しとよく見て 良しと言ひし 吉野よく見よ 良き人よく見!」
突然、やけに快いリズムの萬葉歌が詠まれた。もちろん、のたまうたのは白スーツのお方だ。
「仁科さん、改めまして、日本文学課外研究部隊へようこそ! 一緒に、日本文学を楽しく学んで広めてゆきましょ」
まゆみ先生が、かじりつく勢いで唯音先輩と握手をした。先輩は、熱気の高さにおされながらも、青白い器用そうな手で、先生を受け入れていた。では、私たちも。
「よ、よろしく」
「よろしくお願い致しますぅ!」
「どうも……です」
唯音先輩への文学PRは、かくして実を結んだ。相変わらず感情を露わにしなかったけれども、気持ちは充分汲み取れた。
―唯音先輩は今、原子と文学を見ている。
「あれが、姉ちゃんの言ってたサークルってヤツか」
ちょいと開けた引き戸より、団栗のような丸い瞳がヒロインを覗いていた。緑のジャージを羽織る、セーラー服の少女だ。
「へっ、こんなザコ集団、あたしが木端微塵にしてやらあ」
新しいゲームを買い与えられた児童のように、少女はにんまりとした。彼女は、野守や坊主達と似た存在か、好敵手か、はたまた……?
― 仁科唯音、日本文学課外研究部隊に入隊! ―
〈次回予告!〉
「この世に跳梁跋扈する不届き者を、どーんばーんとふっ飛ばすっ! 天真爛漫っ、快足急行っ、はなび様たあ、あたしのことだっ!!」
「快足やなくて、快速やと思うねんけどぉ……」
「うるさいっ、豚メガネ! 次回から『はなび様波乱万丈っ』が始まるぞ。あたしの活躍、楽しみにしとけっ!」
―次回、第三番歌 「奥山寮に猫又あり」
「うう、豚やてぇ!? うち、そんな太ってへんわぁー!!」
「やべっ突進してくるっ、うわ助けてくれ、姉ちゃーん!」




