表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/39

第一番歌:野守は見ずや ふみか手を振る(序)

 今も昔も、人の成せるわざ。


 紙に遺されし「生」の証。


 理性と感性が織りなす、心の錦。


 時空を超えて、いかなる読み手を引き寄せるもの ― 文学。とりわけ、日本文学を「世界に誇れる宝」として、多くの人に広めるため、五人の戦士が誕生した。その名も、


  日本文学(にほんぶんがく)課外研究(かがいけんきゅう)部隊(ぶたい)


 またの名を「スーパーヒロインズ!」文字通り、日本文学を課外で時間をかけて研究する、素晴らしき集団である。そこに所属する者たちとは……


「やまとは国のまほろば! ふみかレッド!」


「原子見ざる歌詠みは、いおんブルー……です」


「花は盛りだっ! はなびグリーン!」


「言草の すずろにたまる 玉勝間、 ゆうひイエロー!」


「こよい会う人みな美シキ☆ もえこピンク!」


『いざ子ども 心に宿せ 文学を! 五人合わせて……スーパーヒロインズ!』


 言霊の(さき)はふ、うるはしき国の一端に、今、文学の花が咲きほこる!!



     序


   あなたが日本文学国語学科を選んだ理由は?


 入学式の翌日、先生たちとの集団面接でこんな質問があった。大学生になって早々あれやこれやと訊かれるなんて、思いもしなかった。他にもいくつか問いがあったけれど、はっきりと覚えているのは、これだけ。なぜかといえば、私としたことが目立つような失態をしでかしたわけで……。

 他の人は「『源氏物語』を勉強したいから」「高校の古典の授業が楽しかったので」「文学系の大学でここが家から一番近かったから」「文学を知っていたらモテると思って」といった、もっともらしくて個性があるような答えだった。でも、私だけは印象に残らないようにと、無い知恵をしぼって次のような回答をしたんだ。


「本を読むのが好きだからです」

 

 言い終わった瞬間に、どっと笑いが巻き起こった。からかいではなく、冷ややかでもなく純粋に面白くて笑っていた(はず)。同級生からは「普通すぎ!」「そうきたか」にはじまるツッコみ。先生たちはというと「文学部らしい答えである」「ふぉふぉふぉ、どこの学科でも本は読めますぞ」や「ありがたい。二十数年ぶりに聞きましたよ」の大反響。教室内が一気に明るく、にぎやかになったのを、私は半分本気で恨めしく思っていた。さっさとこの場から消え去りたかった。

 ついには自分の心に、どす黒いもやもやしたものが現れはじめた時、ある人が口を開いたんだ。

「あらー、奇遇ね。私も読書が好きで、文学の世界に入ったのよ」

 その途端に、教室が静まり返った。最初からずっと、顔を下げずに皆の話を聞いていた先生。白いスーツと、弓を象ったペンダントが印象的で、上品そうな女の人だった。

大和(やまと)ふみかさん。ふふっ、きれいなお名前ねー。どこかで聞いたような気がするわ」

 その先生―私たちの担任は、親指をビシッと立てて「良し!」のサインを送った。教員の中でひときわ輝きを放つこの人が、後に、私の大学生活をガラリと変えることになる。

「四年間、楽しく学んでゆきましょ。よろしくね」


  

 あの恥ずかしかった出来事も、一年半も過ぎればあまりたいしたことじゃなかった。きっと、卒業するころには友達と笑い飛ばせるくらいになると思う。時間が経つほど、思い出はぼかされていくのだから―。


「……なんてね」

 詩人めいたことを考えつつ、またここまでたどり着いた。幾度となく雨風にさらされ、角がとれてしまった二本の石柱がそびえ立つ。右の柱には、「(そら)(みつ)大学」と太字で記された木の板が掛けられている。二回生になっても、けなげな正門を応援したくなって、遠回りでもくぐってやりたくなってしまう。


 風が背中にあたる。ちょっとだけ肌寒かった。世間は、もう神無月。大学祭の準備が大詰めになり、講義が本題へ切りこむ時期だ。いろいろ立てこんでゆくなか、のんきに物思いにふけっている場合じゃない。

「今日も何とか、やっていこうか」

 顔を上げて、柱の向こうに広がる学びの世界に一歩踏み入れた。



―また、一日がはじまる。






 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ