第一番歌:野守は見ずや ふみか手を振る(序)
今も昔も、人の成せるわざ。
紙に遺されし「生」の証。
理性と感性が織りなす、心の錦。
時空を超えて、いかなる読み手を引き寄せるもの ― 文学。とりわけ、日本文学を「世界に誇れる宝」として、多くの人に広めるため、五人の戦士が誕生した。その名も、
日本文学課外研究部隊
またの名を「スーパーヒロインズ!」文字通り、日本文学を課外で時間をかけて研究する、素晴らしき集団である。そこに所属する者たちとは……
「やまとは国のまほろば! ふみかレッド!」
「原子見ざる歌詠みは、いおんブルー……です」
「花は盛りだっ! はなびグリーン!」
「言草の すずろにたまる 玉勝間、 ゆうひイエロー!」
「こよい会う人みな美シキ☆ もえこピンク!」
『いざ子ども 心に宿せ 文学を! 五人合わせて……スーパーヒロインズ!』
言霊の幸はふ、うるはしき国の一端に、今、文学の花が咲きほこる!!
序
あなたが日本文学国語学科を選んだ理由は?
入学式の翌日、先生たちとの集団面接でこんな質問があった。大学生になって早々あれやこれやと訊かれるなんて、思いもしなかった。他にもいくつか問いがあったけれど、はっきりと覚えているのは、これだけ。なぜかといえば、私としたことが目立つような失態をしでかしたわけで……。
他の人は「『源氏物語』を勉強したいから」「高校の古典の授業が楽しかったので」「文学系の大学でここが家から一番近かったから」「文学を知っていたらモテると思って」といった、もっともらしくて個性があるような答えだった。でも、私だけは印象に残らないようにと、無い知恵をしぼって次のような回答をしたんだ。
「本を読むのが好きだからです」
言い終わった瞬間に、どっと笑いが巻き起こった。からかいではなく、冷ややかでもなく純粋に面白くて笑っていた(はず)。同級生からは「普通すぎ!」「そうきたか」にはじまるツッコみ。先生たちはというと「文学部らしい答えである」「ふぉふぉふぉ、どこの学科でも本は読めますぞ」や「ありがたい。二十数年ぶりに聞きましたよ」の大反響。教室内が一気に明るく、にぎやかになったのを、私は半分本気で恨めしく思っていた。さっさとこの場から消え去りたかった。
ついには自分の心に、どす黒いもやもやしたものが現れはじめた時、ある人が口を開いたんだ。
「あらー、奇遇ね。私も読書が好きで、文学の世界に入ったのよ」
その途端に、教室が静まり返った。最初からずっと、顔を下げずに皆の話を聞いていた先生。白いスーツと、弓を象ったペンダントが印象的で、上品そうな女の人だった。
「大和ふみかさん。ふふっ、きれいなお名前ねー。どこかで聞いたような気がするわ」
その先生―私たちの担任は、親指をビシッと立てて「良し!」のサインを送った。教員の中でひときわ輝きを放つこの人が、後に、私の大学生活をガラリと変えることになる。
「四年間、楽しく学んでゆきましょ。よろしくね」
あの恥ずかしかった出来事も、一年半も過ぎればあまりたいしたことじゃなかった。きっと、卒業するころには友達と笑い飛ばせるくらいになると思う。時間が経つほど、思い出はぼかされていくのだから―。
「……なんてね」
詩人めいたことを考えつつ、またここまでたどり着いた。幾度となく雨風にさらされ、角がとれてしまった二本の石柱がそびえ立つ。右の柱には、「空満大学」と太字で記された木の板が掛けられている。二回生になっても、けなげな正門を応援したくなって、遠回りでもくぐってやりたくなってしまう。
風が背中にあたる。ちょっとだけ肌寒かった。世間は、もう神無月。大学祭の準備が大詰めになり、講義が本題へ切りこむ時期だ。いろいろ立てこんでゆくなか、のんきに物思いにふけっている場合じゃない。
「今日も何とか、やっていこうか」
顔を上げて、柱の向こうに広がる学びの世界に一歩踏み入れた。
―また、一日がはじまる。