奪って、奪われて
続き
おかしい。もう既に12時を回ってる。
こない。集合場所違ったか?
そういえば東駅とかいう名前のくせに西口あったな。まさかそっちか。そっちなのか。
「行ってみるか」
いない。西口にもいない。連絡もなし。
仕方ない。待ってよう。
と、思ってるうちに夜になってしまった。
ここで帰れないのが僕だ。
LINEのひとつでも入れて帰ればいい。
そうだ。そうしよう。もう来ない。もう、来ない。
よな?
「ねぇ、君一人?」
なんだ!?すごくいいかおりがする。
長い黒髪から覗く瞳が話しかけてきた。
「あ、いや、人を待ってて...」
「朝から?」
「え??見てたんですか?」
「えぇ、同じ匂いがしたからね。それにソワソワして不振だったからマークしてたのよ」
「不審...」
「どうせもう来ないんだし、すこし歩かない?」
不審なのは彼女の方な気がする。
「君さ、煤人って知ってる?」
「え?いや、知らないです」
「そう。まあいいけど」
暗い道。該当が少なくなっていく。
通り魔でも召喚されそうだ。
「美味しそうなのよね。あなた」
「お、おいしそう!?」
「そう。とてもね。いい香り」
彼女の影がゆらゆらと揺れている。
まるで、怪物のようにゆらゆらと。
瞬間、首筋に激痛が走った。
「え?」
やけどのような熱さが走り、タラタラと暖かい血が流れ出す。
「やっぱりおいしい。なんで?こんなに美味しいのは、あの子以来だわ」
おいしい?なんだこの女。首に噛み付いてる。
「え?え?」
首から垂れる血を舐めてる?いや、肉食べてない?
「う!腕が!」
「アタシが煤人なの。アタシ達?かな。あなたもよ。」
意識が朦朧とする。さっきまで血が流れる感覚もはっきりとしてたしかなり痛かった。
でももう痛くない。
これは死ぬ。わかる。
守れなかった。自分の命も。
そういえば花楓はなんで来なかったのかな。
もしかしてすれ違っちゃってたりしないかな。
ひとりで待ってたり、しないかな。
「あ、れ?」
意識がなんだかはっきりしてきた。
血が流れる感覚はない。痛くも、ない。
僕の右手もゆらゆらとしている。
目がイカれたみたい。
「ほら、やっぱりあなたもそうだった」
「!?」
急に脳から全身に信号が出たように、僕の体は何かを避けた。
「まだ少ししか食べてないの。逃げないで欲しいわ」
「首が、治ってる。」
幻だったのか?でも、食べたって言ってるから現実らしい。
夢の中なのかこれは。
瞬きをした時、彼女の腕らしき影が向かってくるように思えた。
咄嗟に小石を投げてしまった。
こんな時なのに女性に物を投げてしまった自分にすこし落胆している。
「え?腕が、伸びて、」
自分の腕が影のように伸びる。
「早っ!?」
右手が驚いた顔をした彼女の額に刺さった。
投げた小石が遅れて当たる。
「まぁ、ま、まぁ、最期、最後の、晩餐、バンサンニハ、よかった。よかった。わね。わ。」
殺してしまった。人を?
死んでないけど死んだ。社会的に。
守るどころか奪ってしまった。
なんなんだ。何でいつもこうなる。
いやだ。こんな自分。こんな、こんな。
「あぁぁあ、あぁ、あ、ぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「なんで!なんで!なんでなんで!」
逃げたい。逃げたいよ。
こんな、こんな醜い自分から。