ーとある騎士の果てー
主人公たちは不在です。
少し短めなので、2話更新致します。
黒煙が上がる森のはずれ、最初の頃よりその規模は随分と小さくなった。
それを赤毛の女性が見上げている。
周りでは兵士たちが火事ではなかったものの、黒煙の発生源である地面に埋められた魔法陣の破壊に勤しんでいた。
そんな森の中から3人の兵士に抑えられて一人の男が、引きずり出される。
「……久しぶりですね、ベルンシュタイン卿」
見覚えのある薄茶の髪と、琥珀の瞳。
藍色のドレスに淡い紫の毛皮を羽織る女性の前に、男は膝をつくような形で押さえつけられた。
その状態で兵士に前髪を掴まれ、無理やり女性と目を合わせられる。
「俺みたいな一兵士を覚えていてくれるなんて有難いことですよ。皇帝陛下」
「一兵士だなんて謙遜な。元第一騎士団長の顔と名前くらいは覚えておりますよ。それに貴方はあの人と仲が良かったから」
ピクリとベルンシュタインの眉が動く。
ある夜、親友の頼みで国を裏切った男。
親友の愛する妻と娘を逃がすために、国1番の騎士の座を捨てた男。
その妻のことを親友より早く好きになっていたとしても、2人が幸せならそれでいいと思っていた。
その2人の幸せを壊した女が目の前にいる。
「貴方にはいくつかの罪状がありますね。ただ、今は一つだけ聞きたいことがあります。『星の瞳』はどこ?」
「貴女がどういうつもりで『星の瞳』をご所望か知りませんけど、あれは俺にとっても大切なものですから、死んでも教えられません」
女帝眉間に皺が寄せられる。
対照的にベルンシュタインは口角を上げた。
あの夜、親友が死ぬことを分かっていながら、進んで行くのを止められなかった。
アイツの笑顔を守りたいと望みながら、親友が死んだら、なんて思った自分を許せない。
結局アイツは数年と持たずに死んでしまって、アイツらの娘にまで手は出させない。
「そう。良い返事が聞けなくて残念です。それでは左様なら」
女帝が背を向けたその時、ベルンシュタインの後ろにいた兵士が腰から剣を抜き振りかぶる。
その動きに応じて、ベルンシュタインを抑えていた横の兵士がさらに強く押さえつけた。
ふわり、と薄桃色の球精霊が彼らの近くを飛ぶ。
グシャリ