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ー影ー

「あーあ。ちぇ、もう少しだったのになぁ」


魔獣たちを生み出していた魔法陣を壊す。

バリンっという音と共に砕け散ったそれは、跡形もなく消えた。

広間に残る魔獣たちは統率を失って討伐されるのも時間の問題だろう。

丘の上を睨みつければ、オロオロとした数人の人影が見えた。

まだ死んでもらうには早い。

あの王弟には利用価値がある。


「おい、頼むよ」


俺がそう一言呟けば、影が湧き上がって俺の体を飲み込むように包んでいく。

沈み込む前に丘の上がより一層騒がしくなったのを見て、俺はニヤリと笑うのだった。

再び目を開ければそこは見慣れた景色が広がっていて、俺は自室のベッドに背中を預ける。


「目的は『星の瞳』。でも、俺はライラが欲しかったなぁ」


あの時も邪魔をしてきたオッドアイを今度こそ殺れると思ったのに。

まさかあそこでライラが邪魔をしに来るとは思わなかった。

途中で気配が消えたから、恐らくもう2人とも死んでいるだろう。

『星の瞳』を手に入れるために邪魔な奴らを排除する予定だったが、半分成功半分失敗になってしまった。


「あにうえー?戻られたんですか?」


コンコンというノックとトロンとした話し方。

今年12歳になる弟のアートルム。

黒っぽい赤い髪に、俺と同じ赤い目。

母上に似たのか癖のある髪の毛と愛らしい容姿は、使用人たちからも愛らしいと評判だ。

目つきの悪い俺とは真逆の存在。


「なぁんだ、ちゃんといるんじゃないですかぁ」


ニコリと笑った弟はとてて、と効果音の付きそうな走り方でベッドサイドへ来る。

その手には5歳の頃からずっと大事にしている黒熊の大きなぬいぐるみ。

このぬいぐるみは本当に大事にしていて、何処へ行くにも必ず連れている。

弟を模して作られたというそのぬいぐるみは、ベルベットの黒地にルビーの瞳、大きさは赤ん坊より大きいくらい。


「魔力を結構持ってかれてな、ちょっと疲れてたんだ」


「なるほどぉ。でもお返事は大事なんですよ?」


「悪かった。ただいまアティ」


「はい!おかえりなさい、あにうえ!」


にこにこ、にこにこ、にこにこと笑う弟。

いつからかこの笑顔が何故か恐ろしく感じるようになった。

何も考えていないように見える。

純粋な可愛らしい子どものままの見た目。

7歳も年下の子どもに何を怯えているのかと自分でも思う。


「そんなに疲れてるのなら、今日はご飯は部屋で食べますか?」


「うーん。今日はそうだな。そうしよう」


「なら母上と、料理長とメイドにお願いしときますねー」


「あぁうん。よろしく頼むよ。少し寝るわ」


とてて、と部屋を出ていく弟はやはり見た目は可愛らしい子どもだ。

12歳には到底見えないが。

緊張していたのか弟の足音が聞こえなくなって、ふぅと息を吐いた。

むくりと起き上がって布のかけられた姿見を見る。

黒い髪に赤くて鋭い目。

誰もが厳格な祖父を思い出すくらい俺は祖父に似ているらしい。


「はぁ…、ラピスラズリ姫。アレは絶対に手に入れなければ」


この目も顔も嫌いだったけれど、唯一この黒髪だけは誇れる。

あまり子どもに関心のなかった母上が、1度だけ褒めてくれたことがあるのだ。

赤みがかった弟より唯一勝っていると思っている漆黒の髪。

ライラのことが気になったのも多分、綺麗な黒髪だったからだろう。


「はっ、もう今更だ」


布をもう一度姿見へかけ、自嘲気味に笑って上着を脱いだ。

そのまま部屋に備え付けてある浴室へ向かう。

お腹は空いているが、眠気の方が強い。


「誰だ!?」


視線を感じて振り向くがそこには何も無い。

1度じっくりと部屋を見て、気のせいかと思って浴室へ向かった。



ーーーカタ、と扉が開いて、とてて、と人が入ってくる。

手のひらに納まるくらいのルビーを枕元にある明かりの下部分から取り出すと、別のルビーを再びはめ込んだ。


「ライラ、ねぇ?面白そう」


人影はそう呟いて再び、とててと部屋を出ていった。



名前…いつ出るんだろうこの人。

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