表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/144

絶望的です。

落ち着いたと思えば、全然そんなことない。

ローゼ義姉さまの側でその指示力の高さを目の当たりして、呆然とするしかなかった。

すぐに兄さまもやってきて、2人で難しいお話をし始めたと思ったその時、レイルが青い顔のままこちらへやってくる。


「殿下!ラリマーが危ないかもしれない。目標が居ないんだ!」


レイルの言う目標がなんの事かは分からなかった。

けど、それが重要なことくらい私にも分かる。

兄さまとローゼ義姉さまが同時に辺りを見回したことで、私もつられて見渡したが目標が分からないから意味はない。

ん?あれ?叔父さまがいない?

今日は確か、叔父さまも来ていたはずなのに。


「え、ライラ!?」


レイルが唐突に走り出して盛大に転ぶ。

顔色も悪いし、先程は障壁を展開するのにとても魔力を使っていたはずだ。

心身ともに限界だったのだろう。

レイルの視線の先にはレイルが乗っていた馬に跨って、来た道を戻るライラの後ろ姿が見えた。


「おい、レイル!もう無茶をするな。ライラは俺が連れ戻す」


「お待ちください殿下!罠かも知れないのです、軽率な行動はお控えくださいませ!騎士たちに命じましょう!?」


「だが…」


ローゼ義姉さまの静止に兄さまは反論をしようとしたが、言い返す言葉が見当たらなかったのか口を閉ざした。

私は転んだレイルに駆け寄って立ち上がる手助けをしようとしたが、レイルの体に触れてゾッとした。

冷たい。


「ぐっ、ふぅ…頼む」


悔しそうに歯ぎしりをして、そう呟くとレイルの胸元が僅かに光る。

レイルに預けたアピス。

それで再び魔力を回復すると、騎士たちを呼び寄せている兄さまたちに気付こうともせずレイルは駆け出した。

私のことも目に入っていないようだった。


「レイル!!」


私も一緒に駆けた。

ついさっき魔物の群れから逃げ出してきたばかりだと言うのに、またそこに戻ろうとするなんて馬鹿だと思われるかもしれない。

魔法で倒したこともあるという経験から、私は無鉄砲にもレイルを追いかける。

もう1つ、ビビって渋る騎士たちを姫を守るという名目で無理矢理にでも狩り出せるかもしれないという打算的な考えもあった。

ごめんなさい騎士のみんな。


「レイルっ!待って!」


とても体調が悪いはずのレイルの足はそれでも速い。

少しは体力がついたとはいえ、まだまだ全然のようだ。

息が上がって一息つこうと足を止めた時、広間のほうから光が放たれた。

次いで、氷の壁も見える。

ライラとラリマーだ!


「ラズ!待つんだ!」


後ろから兄さまと騎士たちが追いかけてくる。

私はまた走り出して、ようやくレイルに追いついたとそう思った。

けれどレイルと合流する直前で、ライラとラリマーを乗せていたであろう馬が魔物に襲われてその前足を振り上げる。

人影がゴロゴロと転がり、それは崖下へと吸い込まれていった。


「ラリマー!?ライラ!!!」


レイルの懸命な叫び声だけが辺りに響いて、私はレイルの所まで足を滑らせないように慎重に走る。

レイルは今にも崖から2人を追って飛び降りそうな勢いで、けれどその手前で膝をついて地面に突っ伏した。


「っ!?ルシェナルト!」


倒れたレイルに猪型の魔物が襲いかかるのを見て咄嗟に魔法を使う。

久しぶりに使ったせいか少しばかり出力を間違って、光の針で貫くはずが光の剣で消し飛ばしてしまった。

まぁ、レイルを守れたからいいや。

駆け寄るとレイルの呼吸は浅く、ただの魔力切れにしては随分と疲弊している。


「アピス、たの、む…。もっと、回復してくれ……」


《レイルダメだよォ、そんなにいっぱいは入れられないんだよ…》


まだ騎士たちは到着していない。

魔力を回復できるアピスだけど、1度の量は限られているらしい。

あまりにも余力以上の魔力を注げば、体に負担がかかりすぎるのだと言う。

だから、少量を継続的に注ぐやり方しか出来ないのだと前に言っていた。


「なん、で、も、いい!行かなくちゃ、っ、ゔ…いけな、いんだよ!」


レイルは必死に息も絶え絶え叫ぶ。

私はなんと声をかけていいの分からなかった。

ラリマーとライラだから、そう簡単に死んだりするはずないと思う。

けど、さっきのアレはもう、…ダメかもしれない。

ライラは既に限界で、ラリマーもどれだけ余力があったのかわからないから…。


「レイル、すまない」


「っ!?」


いつの間にか到着していた兄さまが、床に這いつくばっているレイルのうなじに思い切り手刀を叩きつけた。

レイルはそのまま気絶して、アピスはゆっくりと回復を続けている。

兄さまの顔はとても暗い。

レイルにとってライラがとても大切だったように、兄さまにとってのラリマーもとても大切なのだ。


「ラズ、帰るぞ」


返事は出来なかった。

視界は滲んで、鼻は詰まっていて、息が苦しい。

気絶したレイルを兄さまは軽々と持ち上げて、その場を離れる。

こうして私の社交界デビューの予行演習は、最悪の形で幕を閉じたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ