ー氷焔の騎士ー
ラリマー視点です!
異変に気づいたのは落雷の音を聞いてからだった。
騎士の一人が高い木に上り、状況を聞いてから慌てて俺たちは馬を走らせる。
念の為と俺が先陣を切り、ルベルスを囲うように騎士たちが付いてくるが、生い茂った森の中を馬で駆けるのはなかなかに難しい。
「魔獣!?」
お茶会の会場へ向かう途中に現れたのは、この森にいるはずのない魔獣。
が、驚いたのは一瞬で、すぐに殺して進む。
魔獣なんて普通の獣と大して変わらない。
凶暴性が異常なこと、身体能力が桁違いなこと、場合によっては魔物化が感染すること。
噛まれなければいい話だ。
「ラズ!リア!全員無事か!?」
広間につくなりルベルスは騎士たちを振り切って中心へ向かっていった。
中心にはお茶会に参加していた令嬢たちとその使用人たちがいて、その周りを薄らと黒い半球体が覆っている。
その球体の周りに2人1組で騎士たちがおり、迫ってくる魔獣に対抗しているようだ。
レイルとライラも共に戦っている。
「レイル!ライラ嬢!状況報告を」
ルベルスがローゼリア様の所へ行ったので、俺は2人の所へ向かった。
大した距離ではないし、騎士団も増えているから大丈夫だろう。
レイルもライラも血みどろで、息が上がっている。
レイルは珍しく眉間に皺を寄せ、ライラは顔色が悪い。
後ろの障壁を見るに、2人とも魔力量が限界なのだろう。
「雨雲が突然、それで落雷したら魔獣が現れた、はぁ…無限にいるみたいで、殺しても、殺してもキリが、ない」
ライラが指さした先には、魔獣特有の血色の瞳が無数に広がっている。
本来魔獣は知能がほぼない。
目の前にいる獲物に向かって突っ込んでいくようなものなのに、魔物たちは何故か正面からわざわざ後ろへ回って、囲むように群れをなしている。
「あの雨雲といい、魔物の動きといい、人工的だと思う」
「そうだろうな…。でも、目的が分からない」
狙いはラズかと思ったけど、殺すのが目的では無いと思う。
殺す気ならば、誘拐なんてしないだろう。
ルベルスが来るのを待っていた?
だったらもう仕掛けてきてもいいはずだ。
「ラリマー、それからレイル。あの雨雲の下に行くぞ」
後ろから声をかけてきたのはルベルスだった。
雨雲の真下は黒い雨が降っていて、いかにも怪しい雰囲気を醸し出している。
レイルもさすがに何を言ってるんだ?て顔をしていて、俺も側近としてそれは許可できない。
「何言っているんですか!王子の貴方にそんなこと許されるわけないでしょう!?」
他人の目があるから、ルベルスにいつもの調子で話しかけることは出来ない。
怒鳴るだけでも、本来は不敬なのだか致し方ない。
「あの雨雲をどうにかしないとこの状況は変わらないだろ!」
「だったら俺だけで行きます!」
レイルに着いてきて貰えるならば心強い。
だが、これ以上無理させたらまた2人とも何日も寝込むことになってしまう。
アピスがいてこの疲労なのだ。
これ以上はレイルの命に関わる。
お互い引けないのか、宝石のような赤い瞳と睨み合う。
「ラリマー、俺も行く。殿下はダメだ。それは俺でもダメだと分かります」
俺たちの睨み合いを止めるように、レイルが間に割って入った。
後ろにはライラもいる。
「レイル、私も…」
「ダメ」
「でも…」
「だめ!」
今度はそっちが睨み合いを始めてしまった。
正直俺としてはレイルでさえ、来て欲しくないのだが。
これは、どうしようか、とりあえず、突っ込むか。
「レイルもライラも王子もダメだ!俺一人で十分だ!」
援護を頼みたい気持ちはある。
でもレイルもライラも魔力の限界で、ルベルスをここに留まらせる訳には行かない。
言うが早いか、俺は地面を蹴って雨雲の真下へと向かった。
目の前から大量に湧き出てきた獣たちが、応戦する間もなく炎に焼かれて消えていった。
ちらりと振り向けば納得のいかない顔をしたルベルスと目が合う。
さすがルベルス王子殿下。
俺は両腰に携えた双剣をぬいた。
「フレイティアルト」
俺の最も得意とする熱魔法。
そして鍛え続けた氷と熱を剣に纏わせるやり方。
恥ずかしくて呼ばれたくはないが、いつの間にか呼ばれるようになった氷焔の騎士。
魔獣がいくら居ようと関係あるもんか。
全匹、切り伏せてやる。
ようやくラリマーの活躍機会です。