ー王妃からの招待状ー
レイル視点です。
お世辞にも待ち遠しくない狩猟大会まであと3日。
ルベルスの手伝いも落ち着いてきて、できる限りの安全を確保出来る用意ができた。
と言っても不安しかない。
「え、ん?んん?」
ルベルスが随分と間抜けな声を出して、何事かと目を向ける。
書類、いや手紙を読んでいるみたいだ。
机に置いてある封筒には王室の印がある。
よく見えないが、恐らく国王陛下か王妃陛下、もしくは王弟?
いや、それはないか。
「うーん。何を考えているんだか…」
ボソリと呟く声は俺以外に聞く者はいない。
なにやら天を仰いでいるルベルスは、お疲れなのかもしれないな。
「レイル、今日の仕事の進み具合は?」
「え?まぁそこそこだけど…」
「夕頃までに一通り終わるか?」
「急ぐものは終わらせられると思うけど、どうしたんだ?」
どうやら俺に関係のあることだったらしい。
何事だろうか?
そう思っていると手紙を渡された。
陛下の字を見たことがあるが、それよりも繊細で少し右斜めに上がる癖のある字が書かれていた。
「俺とライラと、食事?」
差出人は予想していた王妃陛下。
俺とライラと今日の夜ご飯を一緒に食べよう、という内容だった。
今まで時々業務関係で顔を合わせた時、にこやかに手を振ってきたり、ちょっとした世間話をされたりすることはあったけれど、食事?
しかもルベルスやラピスは抜きで?
「母上のことだからもしかしたら夢を見たのかもしれん」
「あぁ、前に言ってた予知夢」
「一先ずライラにも伝言をしておくよ」
と、言うわけで夕時。
公式の場に出る用にとルベルスに用意してもらった正装を着込んで、ライラの部屋に迎えに行った。
ライラも夜会に行けるようなドレスに身を包んで、ラピスと事情を知ったローゼリア様に頂いた宝石類を付けている。
「なに?」
艶のある黒い髪をハーフアップにして、髪留めはシルバーとルビーらしき装飾。
ドレスは肩を露出して、胸元は黒く下に行くにつれて藍色、そして淡い青色にグラデーションされている。
俺とライラの瞳にも似た色だ。
耳元は髪留めと同じ赤いルビーが小さいながら付いていて、上品な仕上がり。
逆に首元には大きなアクアマリンがはめ込まれたネックレスをしている。
「レイル?」
いつもとあまりにも違いすぎて、思わず見蕩れていたら怪訝な顔をされた。
物心つく前から一緒にいるけれど、こんなに綺麗になるとは誰も思わなかっただろう。
男と変わらない内容で団長に散々扱かれて、汗と泥に塗れて育っていたのだ、誰が予想できる?
「あんまりにも綺麗だから、驚いてた」
「なっっ、…王妃様と会うんだからこれくらい当然って、ラピスとローゼ様が…」
恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしてそっぽ向くライラは、可愛らしい。
実はしれっと騎士団の間で『姐さん』呼びされてるとは知らないだろうが、その騎士団の連中にこれを見せてやりたいくらいだ。
普段からこんな感じだったら、すっごい求婚されてそう。
「とりあえず行こうか」
一瞬だけ恨みがましい目で睨まれた後、コクンと頷いて共に歩く。
王妃様の待つ部屋までお互い無言だった。
ライラも俺も、随分と変わったと思う。
森の中で毎日を生き抜くことを目標としていた頃に比べれば、本当にここは平和で。
武器を持つ代わりに知識を持って、敵を倒す代わりに情報を集めて先手を打つ。
日常的な平和はあれど、戦っていることに変わりはない。
昔はライラと1つであるような感覚がしていた。
何をするにも一緒、言葉を交わさなくても分かる、そんな感じだ。
ここにきてそれが薄れた気がしている。
それと共に感じる、自分自身への違和感。
「なぁ、レイル。お前って何者なの?」
ルベルスに1度問われたことがある。
ただただよくある俺の才能への畏怖だと思った。
実際俺は天才だ!とは思わずとも、類稀なる能力を持っているくらいは自覚がある。
正直その時は人間以外に何があるんだよ、と思っていたが、ライラとの繋がりが薄れている気がして、平和に身を置いていると少しずつ違和感を覚え始めた。
だから今は、俺は人間だと願っている。
9月になりましたが、まだまだ暑いですね。
早く涼しくなって欲しいです