お散歩です。
庭園とはいえ、外を1人で行動するのは実は初めてである。
きっとライラは余計なことを、と怒っているだろうけど、私としては2人にもっと仲良くなって欲しい。
兄さまも私もだけど、ラリマーは公爵家の息子ってだけで兄さまの側近に選ばれて、私たちと同じく不自由を強いられている。
恋愛結婚なんて貴族社会じゃ夢物語のような話だけど、仮にもライラは辺境伯令嬢。
無理難題というわけじゃない。
「相思相愛なら尚更、夢見たっていいと思うもんね」
養子にされたという文書は本物だから、レイルとライラはちゃんとした貴族である。
私には無理でも、大好きな2人が幸せになる手助けくらいしたい、と傲慢だけど思うのは自由だよね?
あとで怒られるかなぁ。
なんて考えていると、目的の木の下までたどり着いた。
「レイル?」
木によりかかって本を片手に目を閉じているレイルは、男の子なのに絵画の1枚のように綺麗だと思った。
強くてかっこよくてなんでもできて、いつだって助けに来てくれる優しい人。
時々、とても不思議な感覚に思う時があるけど、それが何なのか分からない。
レイルの魔法のせいだとは思うけれど。
《ラピス、今は起こさないほうがいいかも》
髪飾りが淡く輝くとそこからアピスが出てくる。
私は慌てて周りを見渡すけれど、どうやらだれもいないらしい。
急に出てくるのは心臓に悪いからやめてほしい。
見つかったら大事だ。
《深ァい眠りはね、起こそうすると大変になることがあるから、えーと、危ないんだよぉ》
クルクルとレイルの周りを飛ぶ精霊は相変わらず愛らしい。
水色の短髪は伸びることなく、身長などが変わる様子はなさそうだ。
精霊は想いの強さでその姿も変わるらしいから、私が新たに何かを望まない限りアピスに何らかの変化が起きることは無いのだろう。
「レイル、よっぽど疲れているんだね」
《あ、少し起きてきたみたい。もぉ大丈夫だと思うよー?》
「ありがとうアピス。レイル、レイル起きてー」
少しゆさゆさと揺らせばまつ毛が揺れて、藍色の瞳がぼんやりとこちらを見た。
幾度か瞬きをすると、様子が呑み込めないのか不思議そうに首を傾げている。
その様子がおかしくて、くすくすと笑いを漏らせば眉間に皺が寄った。
「ラピス…?あれ、俺ここで何してたんだっけ?……っ!仕事!!」
唐突に合点がいったのガバッと起き上がって、焦った顔をする。
けど、急に立ち上がったものだから立ちくらみを起こしたらしく、ヘナヘナと再びしゃがみ込んだ。
レイルは寝起きが弱いらしい。
「さっき兄さまが探してたよ。だから、呼びに来たの」
アピスが楽しそうに数回レイルの周りをとんだあと、光とともに髪飾りへと戻ってくる。
ゆっくりと立ち上がったレイルは、今にも走り出しそうだ。
レイルが慌てて落とした本を拾い上げ、私も立ち上がると急ぐことを諦めたみたい。
多分、私を1人にしちゃダメだと思ったんだろう。
「急いだところで変わらないからのんびり歩いていこ」
「あー、うん。そうだね」
黒い髪、藍色の瞳はライラとおそろいなのに、仕草とかは似ていない。
笑った顔もライラは困ったような顔で笑って、レイルは微笑むように笑う。
ライラは少し怒りっぽくてレイルは諦め癖があったり、私を見守るように1歩下がるライラと、一緒に並んでくれるレイルだったり。
良いところが違うだけでどちらも大好きなことに変わりはないけれど。
「なんかご機嫌だね」
私が少し跳ぶように歩いているとそう言われた。
レイルと2人きりって実はすごく珍しいことなんだけど、きっと何も気にしてないんだろうなぁ。
なんか、ちょっと寂しいって思っちゃった。
「ねぇ、お仕事が落ち着いたらでいいから、また私に魔法を教えて?」
あの旅で教わったあと、何度か危険な目に合いかけたけれど、結局ほとんど誰かに頼りっぱなしで私は守られてばかりだ。
ライラは女の子でも、あんなに強いというのに。
身体的に鍛えるのはちょっと難しいかもしれないけど、魔法だったら私にも出来ることがあるかもしれない。
「…そうだね。わかった、ルベルスにそう伝えておくよ」
少し進めばラリマーとライラが、並んで何かを話しているようだった。
良い時間になったかな?
ほのぼのしてるこの2人の組み合わせ結構好きです。