雲を食べてみたい。
タイトルは敬語終わりがラピスラズリで、
敬語以外がライラで、
ー○○ーは誰か別の人でお送りしております。
ということで、今回はライラ視点です。
建国祭当日。
国花の向日葵があちらこちらに飾られて、街中に鮮やかな花吹雪が舞っている。
そんな街の人々は、女性は頭にバンダナを巻いて花柄のワンピースに白のブラウス。
男性は黒のズボンに白のシャツを着ていた。
細かい模様は違えど、みんな似たような格好をしている。
「いやーほんと、国民が素直でよかったな」
人気のない路地から大通りの人混みを眺めていると、赤髪を心地よい風が撫でていく。
私は目立つ黒髪を魔法で焦げ茶色に染めて、他の人と同じようにバンダナを巻いていた。
赤い髪は珍しくないが、端正な顔立ちのせいで目立つその青年を見上げるとなんだ?と言いたげに視線を返される。
「ぉ、お、落ち着く、おちつけば大丈夫、だいじょうぶ」
レイルの魔法で他人に認識されない魔法をかけているとはいえ、一体どのくらいこの路地にいるのか。
私より明るい茶髪に変え、瞳も緑に変えたラピスは呪文を唱えるように、ずっと呟き続けている。
初めてのお忍びの外出につい先程まで大興奮だったのに、いざ目の前にたくさんの人を見ると緊張して動けなくなったようだ。
「まぁ、人ってみんなで一緒にって言葉好きだから、こういう企画にしたら喜んでやってくれるんじゃないかと思っただけだよ」
レイルがあの日ルベルス王子たちに提案したのは、建国祭のお祭りに衣装の指定をすることだった。
男性はは機動性が高く清潔感のある白のシャツ。
女性はお祭りで舞わせる花を模したスカート。
指定された服を着ている者にはお店で割引やサービスを行う、みんなでより楽しもうと企画だ。
勿論強制では無いので、貴族の中には好きな格好で楽しんでいる者もいる。
協力してくれるお店には王家から一定の補償をすることも約束して。
「その企画のおかげで色んな人が紛れ込めるようにもなったから、こうやって王子様に許可をもらえたのに…」
「ラズ、いい加減に進まないと日が暮れてしまうぞ」
「え!?あ、そ、そうだよね…よ、よし!」
痺れを切らしたラリマーに声をかけられて、ようやく進む気になったようだ。
ラピスは腰が引けたまま、そばに居たレイルの服を掴む。
レイルは一瞬微妙な顔をしたあと、ひとつため息をして小さく悲鳴をあげるラピスの手を掴んで人混みに乗り出して行った。
私とラリマーも後に続く。
結局人の流れに乗ってしまえば、意外と気にならないものでラピスは直ぐに周りの様子に気を取られて瞳を輝かせていた。
「保護者は大変ですね」
「それで楽しんでくれるなら、こういう苦労は悪くない」
ラピスがレイルを頼ったため、必然的に私はラリマーと歩くことになる。
手は繋いだりしていないけれど、まだちょっと気まずい。
周りではラリマーの顔に一目惚れしたらしい女性たちが、チラチラと顔を赤らめてこちらを見る。
一緒に歩く私のこともついでに見られるもんだから居心地が悪い。
「ライラも人混みは苦手か?」
私が俯いて歩いていたからか尋ねられる。
レイルや団長はなんとなく色々察してくれるから、こういう勘違いみたいなことなかったなぁ。
知らない人との付き合いが増えるのは、色々とめんどくさい。
「ううん。別に平気」
元々話すのは得意じゃない。
言葉を間違えて嫌な気持ちにさせたり、上手く伝えられなくてもどかしくなったり、あまりいい思い出がないから。
だから今みたいに、ついぶっきらぼうに答えてしまって反感を買うのだ。
遠い記憶に嫌なことを思い出して、はぁ、とため息を着く。
それを気取られたくなくて、ラリマーと反対方向に視線を向けた。
「ライラ?」
私の視線に飛び込んできたのは、白い雲に棒が刺さったもの。
誰しも一度は思ったことがあるんじゃないだろうか?
雲に乗ってみたい、食べてみたいと。
それがとあるお店で売っているようだ。
どうやって雲をとって、あの棒にくっつけているんだろう?
風魔法?
「綿菓子…?あれが食べたいのか?」
自分の中の常識外のことに驚いていると、ラリマーが横をすり抜けて店員にお金を渡す。
そして愛らしい猫の形をした雲を買ってきてくれた。
「え、べ、別に食べたかったわけでは…」
「俺甘いものあんまり好きじゃないから食って」
うわぁ、恥ずかしい。
子どもみたいに見とれているのを買い与えられるなんて。
仕方なく、と言った風に猫の耳にかじりついてみる。
「わ、なにこれおもしろい」
食べた感触は想像していた通りのふわっふわ、だけど口に含んでしまうとそれは一瞬で無くなってしまう。
甘さの余韻だけが口に残って、私は夢中でそれを食べた。
実は私もお祭りは初めてで、ラピス程じゃないとしても、実は結構楽しみにしていたなんて、誰にも言えない。
そして思っていたよりも、楽しいかもしれないと思った。
ラリマーは基本的にルベルスと同じくらい、心配性のお兄ちゃん気質です。