ースマラカタ辺境伯令息ー
2話更新2話目です。
レイル視点で、後半少しだけルベルス視点です。
わかりづらかったらごめんなさい。
あの森の中の事件は結局、隠蔽された。
気を失った俺と、辺境伯邸についた途端同じく気を失ったライラを連れて一行は王都を目指した。
ライラに関しては一時的に魔力が回復したものの、本来の魔力を回復するために気絶したようだ。
数日後に俺たちが目覚めると、俺たちのことは『辺境伯領で出会った姫の友人』にということになっていた。
スラマカタ辺境伯には跡継ぎがいない。
親族であるサンタマリア子爵の息子を養子にとって跡継ぎ教育をしようとしていた。
そんな矢先に王子と姫が見回りという名の療養に来て、2人と知り合い、ライラは友人として、レイルは王子に直々に領地経営を学ぶために王都へと来た。
と、いうことになっている。
ちなみにサンタマリア子爵にもお子さんはいない。
とまぁ、さほど力のない辺境伯のことに興味のない貴族たちを騙すには十分すぎる内容らしい。
「で、俺たちがここでこんな格好でいなきゃ行けない理由は分かったけど、なんで俺はおま…おうじさまの横なんだよ」
ライラが目覚めるまでの数日は別にいいとして、レイルは何故自分が王子の執務室で当たり前のように席を用意されているのか疑問だった。
思い当たる理由はいくつかあるけれどこれだ!と確信を得るほどではない。
例えば、姫にレイルとライラと両方を居させて、2人がもし間者だった場合は姫が危険だ。
だから、片方を別の場所に置いておいて連絡を取りづらくするとか、どちらか一方でも人質に使えるならそれでよし、とか。
だとしてもどうして俺が王子の側なんだ?
逆ならまだ分からなくもないのに。
「ん〜、まぁ様子見ってところだよ」
にこりと爽やかな笑顔はまさしく王子スマイルだ。
輝くような金髪に、ルビーのような赤色の瞳。
女だったら間違いなくこの営業スマイルにやられていそう。
胡散臭いと思うのは俺がおかしいのだろうか。
「レイル、本棚にある『ヴィヴィッド領納税明細書』を取ってくれ」
「ヴィヴィッド領ね。はぁ。俺なんでおうじサマなんかにこき使われてるんだろう…」
「ありがとう。レイルに興味が湧いたからだよ」
キラキラとした王子スマイルを浮かべるルベルスに、嫌そうな顔のレイル。
そしてその2人を少し驚いた顔で眺めるラリマー。
驚いたのはレイルに関してだ。
「レイル、お前この執務室で働いて何日だ?」
「え、急にどうしたの?5日だけど」
王子の執務室はモダンテイストで余計な調度品は置いていない。
王子の席と新たに用意されたレイルの席。
間接照明と客人用の6~8人がけの椅子とテーブル。
そして部屋の半分を埋め尽くす蔵書。
そのほとんどが過去の事例や調査書、もしくはお金に関する資料などだった。
今、ルベルスがレイルに頼んだのはその中の1つ。
ある程度区分で分けられ見やすくはしてあるとはいえ、その棚には500冊を超えるそれらがあるのだ。
「ラリマー、たとえ理由があろうとも俺は無能を傍に置くつもりはないし、わざわざ席を用意させたりしない」
「ほぼ暗記してるのか?」
「え?なにが?ラリマーは何をそんなに驚いてんの?」
分かっていないのは本人だけである。
配属されて1日目、俺はわざといくつか区分をバラけさせてレイルを呼んだ。
「いくつかバラついているから整理して欲しい、それが初仕事だよ」と伝えて。
整理そのものはそれなりに時間をかけたレイルだったが、パッと見でもかなり綺麗に整頓されているようだと感心した。
次の日はいくつか見やすい区分を選んでとって欲しいと頼んだ。
そして、レイルは迷うことなくそれらを本棚から抜き出してすぐに持ってきた時には、さすがに驚いた。
「どんな頭をしてるんだ…」
ラリマーが半ば呆れたように呟き、レイルはそれに首を傾げている。
黒髪に藍色の瞳の少年は記憶力だけではない。
1つ扱えれば良いだろう魔法を全属性使えるという化け物で、本来なら数人で行う複合魔法まで使用している。
俺はレイルのことを間者だとは思っていない。
ただ見極めなければならないと思っている。
災厄を呼ぶ凶星か、平和への架け橋か。
強すぎる力は時に危険なのだ。
「兄さま!失礼しますね!」
王子として考えていた俺の思考を遮るように扉がバァンと開け放たれたれる。
全くかわいい妹には敵わないな。
さて、兄として妹の粗相を叱ってやるか。
スマラカタはエメラルドの別名です。
スマラカタをスラマカタと打ち込み間違いをしていないか、めっちゃ不安です…。