産まれた直後に将来を決めた!〜お一人様転生者は魔法狂い〜
その場所は、空間魔法学の教授の部屋に行くためには必ず通らなければいけない廊下だった。
そこに1人の宮廷魔術師と1人の男子生徒がいた。少し離れたところには、1人の女性騎士がおり2人の様子を窺っている。
男子生徒の金色の髪は少し癖っ毛で、まるでゆるふわパーマをかけ、ワックスでバッチリ決めたかのように少しも動かない。
彼の空の色を映したかのような青い瞳は意志の強さ表すように、いつもはきりりとしている。
しかし、今はその瞳も蕩けるように細められ、白い肌は頬が赤く染まり、桜色の唇を綻ばせている。
男子生徒は誰もが認める美形、この国の至宝とも呼ばれる第一王子フィリップ殿下であった。
そんな彼に人気のない廊下で、壁ドンをかまされているのは、宮廷魔術師の証である深い緑色のマントをつけた小柄な人物。
フードを目深にかぶっているため顔は見えず、その年も性別も判別できない。
しかし、フィリップ殿下にはその人物が誰か分かっているらしい。
まぁ見知らぬ誰かにいきなり壁ドンかます王子なんて普通に不審者もしくは危険人物と言えるだろうが。
フィリップ殿下はきらきらと効果音がなりそうな笑顔で、とあることを告げていた。
その時に、壁ドンされている宮廷魔術師の頭に浮かんだのは次のような言葉だ。
こいつ、、、正気か?
その言葉は、その時は決して口から出ることはなかった。
宮廷魔術師如きが、王子の言葉にそのような返答ができるわけがないのだ。
あまりに不敬過ぎる。
この2人の関係。それは地位の差とは、時にあり得ないほどの認識の違いを生むという貴重な実例であった。
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時は遡り、王都の一般庶民の家に1人の子供が生まれた。
母親は名前をジュリアという。
今時珍しくもなく、男爵家で侍女をしていて当主の子を身籠り解雇され、1人で子供を産んだ。
淡いピンクの髪をした、母親によく似た可愛らしい女の子だ。付けられた名前はマリー。
今時珍しくもないが、マリーには前世の記憶があった。いわゆる転生者だったのだ。
前世では読書と料理が趣味な日本在住の日本人女性会社員だった。
記憶があるのは40歳くらいまで、ひとりを満喫しながらのお一人様ライフを優雅に過ごしていた。名前は山本京子。
産まれたばかりでありながら、趣味が読書40歳の記憶を持つマリアは、すぐに周りの魔力を感知、魔法のある世界だと理解した。
なろう系小説でいうファンタジーな異世界転生を果たしたことに、マリアは有頂天になった。
憧れていたのだ、魔法や精霊などのファンタジー的なものに。
大人になるとみんなが忘れてしまう心が異世界転生を経てマリーの中で大きな花火のように打ち上がってしまっていた!
生後1日未満でありながら、マリーは血反吐を吐こうとも魔法を極めることを決意し実行した。
ここでお役立ちしたのが、山本京子が読み漁った様々な小説での知識だ。
例えば、なろう系小説の知識、ハードカバーで世界的人気を博した某魔法使い小説の知識などがそうである。
お腹の丹田あたりに魔力があるっていうじゃない?
それを血流に乗せて全身にスムーズに回せるようになるのが大事らしいし?
イメージが大事だともいうよね?
と様々な知識でもってガンガンに魔法特訓を始めた。
何故なら魔力が底をつき、回復したら魔力量が増えるという小説知識もあったからだ。
生後数分のマリーは魔力が無くなるまで飛ばして、失神してをまずは繰り返そうと考えていた。産まれたばかりなのに生き急ぎ過ぎである。
そのため、マリーは産まれてすぐに感激の雄叫びならぬ泣き声を上げ、速攻で魔法がある世界と認識し、これまた速攻で自身の魔力を練り上げ、動かし、前世のイメージ力を駆使し高速移動に成功し、失神した。
母ジュリアにはそんな生き急ぎ過ぎなマリーの姿が元気な泣き声を上げて疲れてすぐに眠ってしまったように見えていた。
愛しさが込み上げてきて我が子を抱きしめる母親ジュリアには本当のこと(魔法狂い)など教えられない。
そんなこんなで、マリーとジュリアは庶民の母ひとり子ひとりで、周りに見守られながら幸せに暮らしていく。
ただ赤子のマリーは母にバレないように血反吐を吐きながら魔法を極めていったし、実は寝ていると見せかけて、日に何度も失神していた。
そんなマリーは10歳になる頃には、すでに他の魔術師を遥か下に見る実力を持った最強魔導師となっていた。
今でも訓練は欠かさないので、これからまだまだ実力を伸ばしていくだろう。
どうやらこの世界にはマリーが目指した某魔法使いなんていなかった。杖もちっさい枝とかではなかった。
基本、魔法の実力を認められたものは魔術師と呼ばれ、その実力によっては城に召抱えられ宮廷魔術師となる。
宮廷魔術師は貴族でいう子爵位くらいの地位にあり、功績によっては本当に爵位がもらえたりするらしい。
その遥か上に、桁の違う魔力量と、緻密な魔力操作、そして圧倒的魔法センスによる超実力派魔導師が燦々と輝いているのである。
自称他称は問いません、などとはいかないのがこの魔導師という職業だ。
これ、国認定なのである。もう称号に近い。
マリーの場合は、国が認定している大魔導師であるロイドおじいちゃんよりも全然強いので最強魔導師と言っていいだろう。
ロイドおじいちゃんからも、マリーは最強魔導師じゃ!と高い高いをしてもらったのが8歳の頃である。
身体強化したロイドじいちゃんの高い高いは常軌を逸する高さだったが、マリーは生身で空気が薄くなる高さで飛んでいるのでなんの問題もなかった。
8歳で大魔導師に最強呼ばわりされたマリーは、10歳で自活の道を選ぶ。
大魔導師ロイドの推薦でまずはロイドの弟子として、実力を認めさせて最終的にはロイドの大魔導師を継ぐつもりだ。もちろん変装してだ。
だってマリーはもっと魔法を勉強がしたかったのだ。今まではすべて独学だった。
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そんなマリーが10歳になるまで色々なことがあった。
赤子の頃のことは省略する。ほとんど失神していたからだ。
それに赤子は寝もするのでほぼ一日中意識がなかった。
それも3歳になれば、魔力量が1日2日使い続けたとしても底を尽くこともなくなったので、起きている時間はほとんど魔法の実験に費やされた。
その頃、母ジュリアを狙う輩を探索魔法で発見、読心魔法でそいつが男爵家の手のものであることが発覚、洗脳魔法で男を洗脳、男爵家に嘘の報告をさせた。
マリーは悩んだ。ここで母にこの事実を言っても信じてもらえるかわらない。
信じてもらうには自分の実力を示すのが一番だが、ただの三歳児がそんな実力を持っていること自体おかしい話なのだ。
マリーは3歳で初めて今までの自分の行動が常軌を逸した気狂いのごとき所業であることに気づいたのだ。
それでもマリーは母の命が何よりも大事だった。もし自分が嫌われても、母が助かるならそれでいいと、仕事から帰ってきた母に男爵家に雇われた男が母と自分を狙っていると打ち明けた。
母ジュリアはそれを聞いて驚いたものの、即行動を開始した。
まずジュリアはマリーがなんの魔法を使えるか確認した。
空間魔法を使えることを知ると必要なものからしまっていくように、と指示を出し自分も身の回りのものを集め出した。
マリーはいわゆるインベントリが使用可能な上、視線で収納可能、しかも一杯になったことがない。
あっという間に家のものをすべて収納したマリーにジュリアがむけた視線は、なにうちの子すごい優秀!!と物語っていた。
荷物の心配がないことを確信したジュリアは次にマリーの隠密魔法で2人の姿を消させた。
その日のうちに、自宅を捨て、職場であった食堂にこっそりとお別れの手紙だけ残し、二人は王都から離れた。マリーの転移魔法で。
そこからは違う街での再出発、大変だろうと思われたが、変装魔法でマリーとジュリアの髪と瞳の色を変え、別人としてすぐに街に溶け込むことができた。
二人は目立つピンクの髪と瞳を、髪の毛を金に、瞳を青にして、ジュリアはシュリー、マリーはそのままマリーと名乗った。
街にすぐに溶け込めたのは、ジュリア改めシュリーの持ち前の明るさや仕事熱心な所が仕事場で歓迎されたのもある。
それに加えて、マリーが読心魔法で面接に行く前に、雇用主の良し悪し、職場の客の良し悪しを事前にチェックし、雇用主の求める条件をシュリーに教えておいたのである。
住む家についても探索魔法で立地と周りの環境を即座に調べ上げ、家主の性格もチェック済み、狭いがそこそこいい立地と環境の家に直ぐに入居できた。
マリーの魔法や性格に驚きはしても、すぐに私の子凄い!と得意満面になる母シュリー。
マリーはそれがすごく嬉しかった。
そして、母のあまりの前向きさに、見た目で人を判断してはいけないと学んだ。
金髪碧眼のシュリーも可憐で美しく可愛らしかった。庇護欲をそそる大きな瞳も健在だ。
でも中身はスーパー楽観主義かつ大雑把で、決断を下すのも早い!
もしや、これがギャップ萌えというやつか?とマリーは前世の山本京子の知識を振り返った。
一大事件である男爵家からの追手も、華麗にかわしてマリー達は別の街で静かに暮らした。
マリーが8歳になる頃の冬、シュリーがゴホゴホと咳をし始めた。
脳裏に過ぎったのは結核。
前世の山本京子が幕末本を読んで沖田総司にハマったので、すぐに出てきたのである。
すぐに滅菌滅菌と、今まではいなかったはずの結核菌を魔法で滅菌した。
もし結核が間違いでも害はないのでささっとやった。
ついでにインフルエンザを疑い、体全体のいつもはいないウィルスを消去した。治癒魔法も使っておいた。
菌にもウィルスにも対策していなかったことが悔やまれる。
今からでもと思い、母の体にぴったりフィットするよう結界を張り付けた。
心配は杞憂だったようで、無事母も健やかに冬を越した。念のため、と母にも自分にも結界は常時発動してある。
その結界に気づいた大魔導師ロイドじいちゃんとマリーの出会いは省略する。
二人の魔法狂いがいた、それだけ知ってくれていればいい。
あとマリーは守護精霊として精霊王ミネアと契約した。
それも省略する。
魔法狂いマリーの面白さに見物人気分で精霊王が参加してきたと記憶してくれれば十分だ。
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マリーが10歳になる頃には、母シュリーもマリーが普通ではないことがよく分かっていた。性格も実力もだ。
だから、体には気をつけるのよ、嫌なことがあったら転移ですぐ帰ってきなさい、とだけ告げた。あとはマリーの意思を尊重し、大魔導師への道へと送り出した。
大魔導師への道とは、つまり王都に戻るということで、しかも王城に通うということだ。王城は貴族の巣だ。
なおかつロイドの弟子とくれば周りからの注目は免れない。
男爵家にバレるかもしれないし、実力を妬んだ誰かに害されるかもしれない。
それを解っていても母はマリーの心配は全くしていなかった。
ロイドもマリーの心配はしていなかった。
逆にマリーに何かしたら常時発動型結界が色々やらかす。
心配するならそっちの方だ。
直接来たら相手を眠らせる。まぁ、これはいい。
薬なら無効化され、犯人が特定され催眠がかけられ罪を自白させられる。
相手が大勢でも関係ない。
はぼマリーは無敵と言えた。
母にも常時発動型結界は張り付けられているので、人質に出来る者もいない。
立場的に師匠となるロイドじいちゃんは一応は大魔導師だ。
生きる伝説と言える彼に挑むなら、マリーに直接くるだろう。それがどれだけ無謀なことかも知らずに。
ついでに言うと、大魔導師であるロイドじいちゃんは国王とタメ口で話すことを許されている。
王家顧問扱いで、建前上は王様の方が偉く、実際は別格でじいちゃんが偉いらしい。
黒歴史は全て握っている、とニヤリと笑ったロイドじいちゃんはなかなか悪い顔をしていた。
こうやってマリーは変装しながら大魔導師の弟子として魔法の研究に明け暮れることになる。
変装で13〜4歳くらいの金髪碧眼の男の子に化けた。例の男爵家除けと、女の子だと変態が心配だからだ。
基本顔は同じなので大変可愛らしい庇護欲をそそられる男の子の完成である。
偽名はマリクにした。
王宮で、マリーことマリクは魔法の研究に明け暮れるのだが、何故か王子に気に入られ、魔術の申し子には好敵手扱いされ、騎士団長の息子には庇護対象扱いされ、宰相の息子には書類整理で一目置かれ、たまにやってくる王立魔法学園教師には延々観察され、黒髪の男の子とは友達になった。
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話かけてくる俺様王子。
「今日は暇だからお前と遊んでやるよ」
いや、貴様*は暇でも、私に貴様と遊ぶ暇などない。
それに内容把握して署名捺印する書類が山作ってて文官が泣いてたぞ?
それを暇だ?自分の仕事内容も把握してない馬鹿か?
*元々は敬語。一応王子だし気を使った。
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いちいち挑んでくるプライドの塊魔術の申し子。
「そんなの僕だって出来るんだからな!」
いや、そんなのって。
これのレベルも分からないってどんだけ程度低いんだ?
魔術の申し子ってのはもしかして自称か?
出来るならやってみればいいよ、下手したら弾け飛ぶけど。*
*何がとは言わない。
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何故かそばにいる騎士団長子息。
「お前を見てると放って置けない。すぐ傷つきそうで。」
いや、お前より絶対に強いから放って置けよ。
あと私を傷つけるのはほぼ不可能だ。
私の常時発動型結界を破れるもんならやってみれば?*
*結界に触れて即寝。廊下に放置された。
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常に上から目線の宰相子息。
「君くらい優秀なら私の下についてもやっていけますよ。」
いや、まず書類の計算間違ってるけど?
あとなんで書類の雛形がないの?合わせるのは常識だろ?*
あと私は文官じゃないんで、部下とかあり得ないです。
*中世ヨーロッパ風異世界あるある。フォーマットがない。
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たまにくる観察好き王立魔法学園教師。
「君はいくら見ても飽きない。いや、ずっと見つめていたいです。」
いや、まず観察対象者に何故それを言おうと思った?
考えたらわかると思うけど、キモいよ?普通にキモいよ?
なんでかめっちゃ笑ってるけど、私は変質者に遭遇したのか?*
*常時発動型結界では視線は防げない。しかし、隠密効果も付与しているのですぐに姿を消して逃げた。
その前に相手を眠らせ【変質者なので注意して下さい】と書いた紙を顔に貼っておいた。他の人が犠牲になるのは可哀想だ。
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よく図書室で見かける黒髪の男の子。
「この髪の色がそんなに気になるか?」
「うん。懐かしくて。」
まぁ元日本人なんで、黒髪は懐かしくはある。
この世界って全体的に髪がキラキラか、派手かだし。*
目に優しい黒髪は貴重です。
*王子、金髪。申し子、紫。騎士団長子息、赤。
宰相子息、銀髪。教師、白。
そしてマリクはもともとピンク。
魔術師寮、自室にて。
「ミネア。もしかしたら、BL版乙女ゲームの世界かもしれない。ここ。」
精霊王ミネア、マリーを見て失笑す。
さて、冒頭の話は、なんの場面なのか(笑)