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Le pont ー はし

作者: 西野雪絵

ある夢を見た。

その夢の続き、まるで運命のように。

今、目を覚める。


わけをしれない不安感に、

急いで体を起こす。

そのまますぐに着替えて、

片手はスマホへ伸ばす。


あたふたと震える手を握り締めて、

慣れた電話番号を一つずつ押さえていく。

左手にはそのスマホを離さないで、

右手では固い扉を力強く開ける。


寂しく鳴り続ける呼び出し音。

冷たく吹き続ける涼しい風。

暗闇の中で都市の光を受け、

星々のように輝くあの広い川。

そこを目掛けて、私は走り続けた。


いや、

そこを目掛けられて、

走り続けらせられていた。

どんな理由も持たなくて、

なんとなく走り続けている。


頬にはまだ答えのない

スマホをくっつけていて、

なん度目かの呼び出し音だけが

鳴り続けた果て、

ついにドキッとする音と共に、

耳には静かな息音だけが聞こえてくる。


そのまずい息音は私のものか、

レシーバーの彼方から聞こえるのか。

その雰囲気をとてもたまらなくて、

私が先に声を出してしまった。


「も…もしもし?」

そんなに躊躇う暇はない。

躊躇う必要もない。

ないのに、知っているのに、

なんでそんなに躊躇っているのか。


「あぁ…雪絵ちゃん?」

ちょっと慌てた声。

その声は、私の不安感を

大きく膨らむ同時に、

一瞬に払いのけてくる。


「いま、なにしてる?」

私の中から膨らんでいる

この想いを捨てられたくて、

そんなことを聞いてみる。


またちょっとだけの寂寞。

「散歩中……かな……。」

元気なさそうな彼女の声。

なにかバレたように

震えているあの声。


でも、きっと聞こえてる。

その事実だけが、

少しでも私を慰めてくる。


「あのさ…」

「うん?」

「なんか寒い。」

「…」


「冷たい。暖かい。」

意味のない言葉が並べてくる。

「聞いている?」

「うん!」

なんとなく、元気な声を出す。

そうしなければ、ならない気がした。


「一つ言いたいことがあるんだけど。」

「なんでもいいから、どうぞ。」

強いて、元気そうな声を出してみる。

普通のように、なにもなかったように。


「実は…実はね……」

「うん…」

「ここ、とある橋の上だけど、実は……あたしね…」

「…」

「ここで、飛び込もうと思ってさ…」

「…」 涙に濁られて、その声は遠ざかっていく。

当たり前に、私はなにも答えられない。


「だいじょうぶ。あなたが飛び込む未来は、もう済んだから。」

「…え?」

「真っ先の夢で見た。あなたが飛び込むのは。

だから、もうそんな未来は、夢の中で終わったから。

今の現実に、そんな未来はない。」


「あ…その通りのようだな…」

「あ…あの…。まだ切るな。

まだまだ話したいことがたくさん残ってるから。」

ずっと怯える声で、

それが嘘であるのも知らず、

そんな嘘を口にしてしまう。

「うん。絶対切らない。」

でも、その答えは、

嘘じゃなければ…

嘘じゃなければいいのに…


「もうすぐに…会いにいくから。」

ゼエゼエと掠れていくのど。

「ちょっとだけ…待っててくれ。」

ゲエゲエとできなくなっていく息。


「もう心配しなくてもいいよ。」

私自身に叫び続けている。

「心配なんかしていない。」

私にそう言ってくれる。

「私も、もう橋の上だから。

すぐに、会えるから。」

私自身をそんな言葉で安心させる。

「ずっと待ってたわ。」

水っぽい彼女の声。

私を安心さえてくる。


スマホから視線を逸らすと、

真っ直ぐで私を迎える

あの白色に橋。

その下に映る

都市の星々、都市の銀河。


その白い橋へ足を踏み入れる。

その白い橋の上をまた走る。

彼女を探すまで、

走り続ける。


ーあの川、暖かいかなー

不思議に、いきなり、なんとなく、

彼女がそんなことを聞いている。

なぜか平然としてるその声が、

不思議に、いきなり、なんとなく、

私を大きく揺らしていく。


「いや、冷たすぎるにきまってるんだろう!」

低い声で始まった声は、

だんだん不安定的に上がっていく。


「そっか。」

とても不思議に、

平然とした声。

そのままじゃダメだっと、

微笑みながら教えてくれている。


ぜひ、

私が見た夢が、

未来のことではないように。

ぜひ、

私が夢で見たのは、

違う世界のものになるように。

なにも聞いてくれない神様に、

初めてお願いを届けてみる。


目を瞑って、また開けて。

足を前に、また前に。

壊れそうな体を、

ずっと壊していきつつも、

止まらなく前へ進む。


「いや、いや、いや。」

低い声で現実を否定する。

「ちょっと待って! 待ってて!!」

どんなに大きな声で叫んでも、

変わらないのを知ってるのに。


「私まだなにもしなかったもん。」

微笑みに混ざって聞こえる

『まだ』と言う言葉。

その言葉が、

私の息を苦しめていく。


「早く来てね。

ここ、寒いだから。」

かすかな彼女の微笑み。

見えてくる、幽かな彼方から。


「まだ、待ってるよ。」

彼女が言葉を吐くたびに、

私の足はもっとはやまっていく。

かすかなあの微笑みが、

かすかなあの横顔が、

かすかなあのスマホの姿が、

だんだん明らかになってくる。


橋の欄干に手をかけて、

あの川の彼方を見つめつつ、

明るい微笑みを。


その姿が

もっと、

もっと、

近づいてくる。


だんだん遅くなる

足のスピード。

その姿の真っ直ぐで

だんだん止まっていく。


彼女が一瞬、スマホを頬から下りる。

そのまま、こっちに髪を振り向いてくる。

彼女が私を見つける前に、

私はまだ、走り始める。

力一杯、飛び出す。


彼女が私をみる前に、

彼女が完全に顔をそらす前に、

その姿へ、

飛び込んでしまう。


彼女が前を向いた時には、

私は、彼女の胸に頭を埋めて、

涙で濡らしていた。


なんで、私が泣いてるんだろう。

なんで、私が慰められる形になったんだろう。

なんで、そんなに弱いなの、わたし。


「会いたかった…」

やっと顔を上げつつ、

そんな言葉を涙に濡らして、

言ってしまう。


「あたしも。」

やわらかく私の頭を撫でてくれる彼女。

やっとその姿と向き合うと、

その瞳には涙が宿っている。


「あたしも…会いたかった……。」

感情をたまらなくて、

そのまま涙を流して、

私の胸に埋まってくる。


その顔を埋まってくる。

そのまま泣いてくる。

今度には、私が彼女に手を伸ばす。


「ーだいじょうぶ。もう、会えてから。ー」

みなさま、あけましておめでとうございます!

この小説は新年を迎えて書いてみました。

まだまだ、全然足りない作品ですが、果てまで読んでくれまして、まことにありがとうございます!

もっといい作品を出せるように頑張ります!

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