異世界転移の錬金生活325 おっさん考える
おっさんは最近えらいことを聞いた。
ククリさんのことだ。
ひょんなことから話題が広がり、ある真相を知る。
これはこういう話である。
ククリというのは、ククリナイフのことではない。
ククリつけるという意味のククリなんだそうだ。
何をククリつけるのかというと、空間だそうだ。
離れていたり重なっていたりするそれらを、ぐっと引き寄せてククリつける。
その時に大変な力がいるそうだ。
彼女が格闘乙女になった理由は、単純に物理的な力がいるから、だそうだ。
そのおかげで、神話でも、黄泉の世界と現世の世界をくくっているそうだ。
イザナキの生の世界とイザナミの死の世界も、ムリヤリくくってつなぐ。
会話なんかが出来たのは、そのためだそうだ。
そのせいで、自分は縁結びだとか白山のご祭神だとかにされた、といっていた。
なんの話をしたかといえば、ピクシーちゃんに会いたい、という話をした。
できるようなことをいったあげくに、こんな話になった。
離れた空間であればあるほど、ククルには物理的な力がいるそうだ。
ただ、こういうことにはタイミングがあるため、ムリヤリククルのは勧めない。
必要な時が来れば、イヤでもククルさ、とあくまで男前な彼女だった。
金属性というのは、空間をどうかする、という感じだったのだな。
金属は粒子がぐっと詰まっているイメージだが、これも空間の操作なんだろうか。
しかも、ムスブというよりククルであるわけで、拘束力があるイメージである。
おっさんも空間転移でここへ来たわけで、ククリさんと縁もあるということかな。
いずれにもせよ、ピクシーちゃんには今は会えない。
どこまで行ってしまったのか、あれから連絡もない。
おっさんは不毛なことを考えることをやめた。
ピクシーちゃんは、向かうべきなにか目当てがあったのだ。
そもそも上空からいろいろ確認できるわけである。
あそこに行こうという目標が彼女の中にあったのではないか。
おっさんがギブアップしても、向かいたい素晴らしい何かが。
そしてグレゴリーズは、そのことを察して応援している。
だとしたら、おっさんはそれがどんなものか楽しみにしておけばよい。
信じて待っていれば、ピクシーちゃんはそこへ連れて行ってくれる。
むしろこうなってくると、一人で付き合っているグレゴリが心配である。
ちゃんと飯が食えているのだろうか。
ちゃんと寝床を準備できているのだろうか。
まあ、冒険者経験の長いグレゴリには大きなお世話だろう。
しかしおっさんは、サクヤさんと一緒になんとなく料理を作った。
娼館へ出前する予定もないが、食えなくて困っているグレゴリに捧げる感じだ。
作った以上は結局、その場にいるみんなで食べつくした。
考えてみると、ピクシーちゃんはここからロートル町まで半日でひとっ飛びだ。
ピクシーちゃんの立てた目標は、結構遠いのではないか。
下を地道に歩いていたら、何か月も帰らないという可能性もあるのか。
最初から例の飛行用拘束具で行っていたら、即解決していたのかもしれない。
まあ、こういうことってあるよね。
過程が大事なのは、結果だけ見ちゃうとムダが多いとバレるからだ。
でも、ムダな時間を過ごしている間も、何かが進行している。
それらのタイミングもあるので、足並みがそろったときに結果こうなる。
辻褄とか伏線回収とかいう関係の話は、大抵そんな程度のことだ。
そうだ、そういうことにしとこう。
おっさんはこうして手持ち無沙汰のまま、無為な時間を過ごした。
最初の一緒に歩いた時間が、今となってはとても貴重だったと思う。
自分の中では、ムダな時間だったとは全く思わない。
そういう意味で、今のこの時間もきっと貴重な時間なのだ。
自分がこうしている間も、着実に先に進んでいるだろう。
ピクシーちゃんとグレゴリの健脚で、スピードも上がっているかもしれない。
待つのはつらいが待つしかない。
戻ってきたときに喜べるような準備をしておこう。
ピクシーちゃんが喜びそうなものは、なんだろうな。
食べているものは不明だ。
居住空間の好みはクマの住処を見てわかった。
いつもの恰好からして、好きなおしゃれはなんとなくわかってきた。
でもな、意思の疎通がいまだにとれていないんだ。
ピヨピヨいう調子やトーンで、なんとなくわかるのみ。
いつも幸せだと感じてくれているんだろうか。
おっさんはここらで真剣に考える必要があるんじゃないか。
クマの住処は、そういう意味で非常に勉強になる。
女性らしい雰囲気が子供のクマの生育にもよさそうである。
子供のクマはとても満ち足りた表情をしている。
この空間はピクシーちゃんの手が確実に入っている。
ここに入り浸って帰ってこないこともあるから、好きな場所だろう。
新拠点ヨシオの今の女性的な雰囲気にも通じる。
鉢植えの代わりに、何かの植物もふんだんに生えている。
昔、巣箱に入れていた何かの小枝や綿のようなものも床に敷かれている。
きれい好きでおしゃれ。
ここにも清澄な気に満ちているのがおっさんにもわかった。
そういえばピクシーちゃん用の巣箱はどうしたかな。
今となっては小さすぎて彼女には合わない。
前回の大きな繭は、森の木の下に直接だったようだ。
おっさんは困りながらも、必死で考えた。
女性が喜んでくれそうなもの、男性にとって実に鬼門だ。
大抵の男性が、見当違いや勘違いで余計な金や労力を使ってきた。
最近はやりのサプライズとやらも、その典型である。
思いもしないプレゼントは、単なる迷惑なブツになる危険性大である。
恋愛において適度なドキドキ感は大事である。
しかし、単なる迷惑や当惑はドキドキではない。
こういう過程を経て、修羅場になるケースは結構ある。




