異世界転移の錬金生活324 おっさん反省する
おっさんは今絶賛訓練中である。
ただ、だましだましやっているので、なかなか難しい。
クマの住処近くでなんとなくやっている。
そのため、クマの子供と顔なじみになった。
クマの子供も二匹とも絶賛訓練中である。
というか、かわいく二匹でじゃれ合っている。
おっさんはそれに気を取られて、訓練がおろそかになっている。
サボり癖がついているのを、コレのせいにしているだけだが。
よく見ていると微妙に性格が違う。
ちょっかいをかけるヤツはいつも同じだし、賢くいなしているのも同じヤツだ。
わけられたご馳走も、たいてい同じヤツがいい思いをしている。
押し出しの弱いヤツに同情してしまうし、なんとかしてやりたい。
もちろん大きなお世話である。
下手すると、おっさんはクマの子供にすら体力で負けそうだ。
おっさんが三兄弟だったら、一番割を食っているはずである。
まあ、ダメな人の話はいい。
ただ、どうだろうな。
長生きしそうなのはガシガシ押し出しの強いヤツでなく賢くいなしているヤツだ。
多分押し出しの強いヤツは、勢いでミスも多くなる。
死なない程度のミスならいいが、殺される類のポカをやる危険は高い。
人間の住居に侵入して肉の味を覚えちまうヤツが、よく人間に殺されている。
慎重で賢い。
危ないことはしない。
リスクを分散できる。
一見押し出しの弱いダメなヤツだが、多分長生きはできる。
長生きできれば、徳川家康のように最後にチャンスをものにできる。
地味なヤツが時間をかけてコツコツ積み上げたものには、結局誰もかなわない。
まあ理想をいえばこういうことになる。
大抵の地味な人が目指しているところが、これではないかと思う。
ただ、ダメな人は大抵根気もない。
時間をかけてコツコツ積み上げる、これができない。
ダメだとなったらやめる決断が速い。
よくいえば即断即決の人、悪くいえば根気のない人。
一見潔くて恰好がいいのだが、実は何もちゃんとやれないダメ人間。
忍耐と決断のバランスを間違うと、こういう人が出来上がる。
つまり結局押し出しの強いヤツが、有利なことに変わりはない。
ミスが命取りになるパターンは、人間世界ではめったに起きない。
何しろ人間世界には人権とやらがあって、いきなり殺されないからだ。
まあ、よっぽどのことがあれば、裁判等で争えばよい。
いきなり殺されるケースなんて、武力行使や戦争行為ぐらいではないか。
かといって、実際は結構な人たちがそれでも殺されている。
忙しさに、労働条件に、借金に、病気に、面白くない毎日に。
刑事事件に巻き込まれて。
最後には、なんだかわからないうちに自分を残して全滅した。
人権ってなんだったんだ、という寂寥感がある。
生存できる権利が、生まれながらに与えられているんじゃないのか。
自分も含め誰も生き残れない結末は、そんなものを全力で否定している。
国の憲法で保障されようが、実際は何の意味もなかった。
おっさんは泣いていた。
訓練そっちのけで泣いていた。
悲しみは、何に対しての悲しみなのかわからなかった。
生きることは、この悲しみを癒すことなのかもしれなかった。
ああ、もういい。
やめたやめた。
おっさんはやっぱり根気がなかった。
単純に体力がついている気がしない。
ピクシーちゃんにはこういうことを求められてはいない気がする。
そうだな、努力の方向が違ったんだろう。
向いていない努力をしても、たいして成果は出ない。
それよりは、ピクシーちゃんに対する自分の気持ちだ。
娘だ。愛する娘だ。癒しだ。一緒に寝てくれる。
赤ちゃんのようないい匂いだ。
何より一番ずっと一緒にいる相棒で同志だ。
孤独なおっさんには、一番ありがたい存在なのだ。
あったかい、いい子である。
最近は美人になって、ちょっと近づきがたい感じだぞ。
ふわふわした赤毛の髪を最近はかわいく結ったりしている。
例の豪弓にも、ワンポイントのかわいい飾りがついている。
ちょっとおしゃれに敏感なタイプだぞ。
さらっと書いたがおっさんの中で変わったのは美人になったという部分である。
ダメなおっさんは、美人なオトナというだけで距離を置いてしまいがちである。
視界に入ったらお目汚しに違いない、不快なものをお見せしたくない。
こういう心理はある種ちょっとした逆差別に近いが、自分を止められない。
だからピクシーちゃん的には寂しい感じを味わっていたかもしれない。
反省はするが、かといって自分の心理の問題は反射に近いのでどうにもならない。
ピクシーちゃんが昔ドラゴンっぽい顔をしていたなんて今は信じられない。
いや、だって今はクラスで一番ぐらいの美少女だぞ。
いやバカな話はここまでにしよう。
見捨てられたって、おっさんはあきらめたりしない。
だって家族なんだよ。
嫌われていたって、おっさんは好きな気持ちを捨てたりしない。
だってかわいい娘だから。
よし、いいだろう。
結局おっさんが変わらなければ、なにも変わらないのだ。
おっさんはバカで変態だが、大事なことはわかっているつもりだ。
揺るがぬ気持ちが、大事なんだと思う。
愛なんていうのは、気恥ずかしいが変わらない気持ちのことだ。




