異世界転移の錬金生活323 おっさん振り返る
ピクシーちゃんに置いて行かれた。
意思の疎通は確かにできていない。
しかし、おっさんはピクシーちゃんと通じ合っている。
少なくとも、おっさんはそう信じていた。
なぜだろう。
なんで、おっさんは嫌われてしまったんだろう。
グレゴリと二人で行ってしまうなんて。
よく考えてみれば、前々からおっさんには問題があった。
事情があったとはいえ、カグヤさんとばかり話していた。
ピクシーちゃんは朝早くから出かけて、帰ってこないこともあった。
例の子供バージョンに変態した時も、二週間帰らなかった。
それに対して、今思えばおっさんは冷たかった気がする。
既に愛想をつかされていてもムリもない。
いろんな女が家にいるおっさんにはピクシーちゃんを咎める資格がそもそもない。
いや、もちろん誰ともどうともなっていないよ。
しかし、そういうことじゃないとも思う。
おっさんはいよいよ反省が必要だと感じた。
手始めに、普段のピクシーちゃんの動向をおっさんは調べ始めた。
おっさんは普段ピクシーちゃんを放っときすぎているのだ。
知らないことがあまりにも多い。
クマのことだって、相当後になってから知ったと思う。
そういう意味で、一番の理解者はやはりミツバチさんだ。
だいたいピクシーちゃんと編隊飛行している。
いつもはどの辺に行っているのか聞いてみた。
もちろん意思の疎通はできないが。
バカらしいと思っただろ。
でもな、ミツバチさんは察してどこかに自分を連れて行った。
こういう話は信じられないかもしれないが、実はよくある。
動物というのは、虫も含めて意外とわかっているものなのだ。
なにか察して動く能力は、人間なんかより上かもしれない。
おっさんの悲しげなオーラやピクシーちゃんの不在。
この辺りでおそらく察してくれている。
慰めの舞を見せてくれながら、導かれた先に秘密があった。
クマの住処に自分は連れていかれたのだ。
意外と小ぎれいにしてあって、おっさんは驚いた。
なんとなく、ピクシーちゃんの赤ちゃんのいい匂いもする。
新拠点ヨシオの変貌ぶりを見習っている。
女性らしい共感と同調がその空間を包んでいた。
おっさんはそれを見てちょっと泣いてしまった。
いや号泣した。
なんとなくクマが出てきて、痛ましそうに自分を見た。
クマの子供も一緒に出てきた。
かわいい顔をしている。
おかあさんに似てよかったな。
おっさんは理解した。
ピクシーちゃんなりの新拠点をクマの住処に構築した。
なんだか清澄な気がこの場にも漂っていて、さすがドラゴンだと思った。
この新拠点は、砦とか居城とかのイメージかな。
どうだろう。
偉大な女主人というイメージがピクシーちゃんに宿った。
想像した以上に、ピクシーちゃんはえらい方なのではないか。
このあたり一円の森を、文字通り支配し統治してらっしゃるのでは。
よく考えると、この森には敵性生物がほとんどいない。
例のトンボ以来、おっさんは少なくとも襲われたことがない。
これは偶然でも何でもなく、必然だったのではないか。
統治者の意向を反映していただけだったのでは。
ひょっとして、偉くないのはおっさんだけなのではないか。
後は宇宙人様とかドラゴン様とかが、周辺を固めている。
それに仕えるミツバチ様やクマ様も剛の者に育っている。
おっさんは調子に乗っている場合ではないのでは。
そうなると今の立場や状況は、いろんな意味でマズイのでは。
ピクシーちゃんに置いて行かれた程度の話ではないのでは。
どっちかというと、見捨てられたとか、ダメだと思われたとか。
立場はあくまであっちが上で、自分が下だったのでは。
あっ。もろトラウマがおっさんをクリティカルヒット。
痛い、立ち直れなくなりそうに痛い。
心までもっていかれる攻撃だ。
暗黒魔道の痛い精神攻撃が、おっさんをえぐる。
気がつくと、静かに涙を流しながら立ち尽くしていた。
こういうときは、不思議に号泣とはならない。
あとちょっと笑っていて、はたから見るとキモチワルイ感じだ。
本人はもちろん、それどころではない精神状態である。
いやまあ大げさな話はともかく、反省が必要だ。
そう、おっさんはレベルが低いのだから訓練が必要だ。
訓練して経験値を積むしかない。
途中で動けなくなる身体では、もう構ってもらえなくなる。
今だってすでにマズイ状況かもしれない。
しかしである。
頑張るのはもちろんだが、それで本格的に身体が壊れたら何にもならない。
地味に身体をいたわりつつ、必死に鍛える。
このふざけているのか頑張っているのか瀬戸際な感じで行くのだ。
この絶妙なバランス感覚は、おそらく年の功といわれるヤツである。
つまり年の功といわれるものは、サボり方のような話だ。
出来なくなってからのテクニックでしかない。
若い人はこういうものを覚えちゃいけない。
若いころから変化球ピッチャーでは、大成しない。
むしろ早く身体を壊してしまう。




