異世界転移の錬金生活313 新拠点ヨシオへ
月にいて寛いでたら、あっという間に地球の人類滅んでた。
カグヤさんの感覚としては、こんな感じかもな。
天然系の彼女にとっては、驚天動地の事態だっただろう。
おっさんも同じようなもので、気持ちは大変よくわかる。
人柄を知ると、竹取物語というのは政治的プロパガンダを含んだウソだな。
こんな人が、次々と人を陥れるような贈り物を要求するはずがない。
むしろただで、とんでもない高価なものを配って歩きそうなタイプだ。
食べ物の種を渡したといっていたが、これは後で問題になったんじゃないか。
日本ではイナリ信仰がそれなりの規模を誇っている。
どうもよっぽど気づかずに大判振る舞いした可能性が高い。
チャンスをつかんで急に大金持ちになったヤツが多かったんじゃないか。
しかもあの謎の自己紹介つきで。
彼女が配った高価な種の対価が、例の人を陥れるような贈り物の要求だった。
必死で詐欺や欺瞞でごまかして利益を得ようとした人が破滅した。
こういう話はありえるが、これは彼女のせいではない。
あと、いっていなかったかもしれないが、彼女は美人だ。
ボォーとした雰囲気でえらい人感はあんまりない。
竹を採って道具を作ったり、漆の加工に取り組みたいと話した。
彼女はニコニコ笑っていた。
やっぱり今世の竹取の翁なんですね。
よかった、よかった。
漆の木は見つけましたか。
漆の加工技術はどの程度ありますか。
竹の細工はどの程度できますか。
あ、そのつる草の加工品はよくできていますよ。
ああ、わかった。
この子オタクだ。
得意なことや好きなことだけ、めっちゃしゃべる子だ。
本当に植物関係の知識はすごいのだろう。
薬草でポーション作っていたり、つる草や木切れでわなや巣箱を作っていたり。
自分と不思議に共通項があるのが、ちょっとうれしい。
彼女の導きのまま、竹を採ったり漆の木を探したりした。
グレゴリの刃は、竹にも有効であった。
漆の木はこの辺には見当たらないらしい。
彼女はちょっとがっかりしていた。
新拠点ヨシオに連れて行こう。
宇宙人たちの話を総合すると、新拠点ヨシオは清澄な気に満ちているようだ。
ピクシーちゃんの作用なのか、土地がもともと持つ力なのか。
龍脈が通っているとか、泥川が実は聖なる河だとか。
このオタクな彼女が喜びそうな要素がある。
ちなみにピクシーちゃんは、あんまり反応していない。
ずっと自分の肩に止まったまま動かない。
ピヨピヨ鳴いたりもしない。
あれ、この反応はウズラさん以来かもしれない。
多分、気に入らない状態なのは確かだろう。
そして天然系のカグヤさんは、そういうこと全部に気づいてない。
下手すると、気になることと好きなことしか目に入ってない。
おっさんはひょっとして、ややこしい事態に巻き込まれていないか。
ピクシーちゃんは親鳥を取られそうで怒っているのかな。
できたら仲良くしてほしい。
ひょっとすると、初めて気が合いそうな女性に出会っているのかもしれない。
でも、新しいおかあさんだよ、などというのは娘にはトラウマだよな。
いかんいかん、また先走った妄想をしてしまった。
いずれにせよ、この後二日かけてロートル町にたどりついた。
グレゴリにはくれぐれもよろしく頼む、とカグヤさんを託された。
新拠点ヨシオの話をしたら、やっぱり行きたがって聞かないからだ。
ピクシーちゃんはやっぱり挨拶もしない。こわい。
カグヤさんはやっぱりその辺の草木が元気になる特異体質らしかった。
そのうえ、こういうオタクでもあるから最強である。
毒草の類や薬草の類も、見ただけで判別できるし、育て方も詳しい。
今まで回避してきた小麦やコメの栽培にも取り組めそうである。
農業のプロ、おイナリさんはダテじゃない。
自分は必死こいて料理をやっては例の娼館に納入している。
実はカグヤさんは料理も得意分野なんだそうだ。
おいしいものは正義ですよ、とニッコリしていた。
自分の作った料理を味見しては、あの味が足りない、あの調味料が多い少ない、とアドバイスをくれるようになった。
やっぱり娼館のボス、タマモ様は、美しい土下座をしてカグヤさんを迎えた。
自分がいう前に、月行きの天浮舟は手配済みです、連絡をくださいといっていた。
そのあと、店の奥の暗闇にタマモ様に引き込まれた。
失礼なことを考えたら殺す、と素でいわれた。
確かにいろいろ心配になるキャラである。
逆にいえば非常におおらかで器の大きい女性である。
月に置いておきたくなる周囲の気持ちはなんとなくわかる。
おっさんはえらい神様を接待している気持ちで、新拠点ヨシオまで案内した。
しかし、想像以上に楽しかった。
自分の作ったものやこれから作りたいものに、これ以上ないアドバイスをくれる。
農業は自分にはムリだという感覚がどこかあった。
しかし彼女の話を聞いているうちに、自分にもやれることがある。
そんな気持ちになるのが不思議だ。
カグヤさんは例の月のモノに悩まされずに、新拠点にたどりついた。
考えたらツクヨミなんだから月のモノに悩まないのは当然かもしれない。
いかん、こういうことを考えるから、タマモ様に殺されるのだ。
ピクシーちゃんは、すぐミツバチさんのところに行った。
カグヤさんは、残りのグレゴリーズに出迎えられている。
それだけでも来てよかった、とカグヤさんは笑っていた。
やはりこの場は清澄な気であふれている、不思議なものです。
我々にとっては必要な場です。どういう作用なのかは謎です。
龍脈の類はありませんし、泥川は聖なる気を発していません。




