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異世界転移の錬金生活225 冷静になった

 今は、旅の途上である。

新拠点ヨシオを出発し、台車を駆使しながら北上している。

沼地を使うのが、非常にスマートである。

移動距離が稼げるし、台車を揺らして壊れモノに余計な負担をかけずにすむ。


 壊れモノはいつも以上にしっかり大き目の葉っぱで緩衝している。

それを木箱で保管し、それを台車に括って固定している。

正直、どこの大家の作品だよって扱い方である。

木箱に箱書きでもするべきじゃないのか。


 前世でも素人の作品をここまで丁寧に梱包しない気がする。

でもね、今世ではおそらく大家の作品だし、貴重品なのよコレ。

自分を大家と言い切ってしまうのはどうかと思うけど。

しかし、陶器自体を今まで見たことがないこの世界では、この作品は事件なのよ。


 それを確信したのはワカ町の商人の反応だった。

釉の具合がよくわからないみたいだった。

どうやったのか、何をやってこの光沢を出したのか。

こういう話が当たり前に商人から出る。

金持ちや貴族様だけが陶器を使っている、という感じじゃない。


 ロートル町で贅沢品を扱う商人の反応次第では、これが確信に変わる。

そうなると、売買以前の問題で、売らない選択がある。

むしろそこからは普段使いしてやって、人知れず壊してしまうのがこの世界のためかもしれない。

自分にしか作れない作品なんて、無能なおっさんには怖すぎる。

文明レベルがおっさんのせいで勝手に上がってしまうのはまずい。


 実はガラスコップをあえて作成したのも、ガラス職人がいて道具もあるからだ。

贅沢品を扱う商人に例のブツを見せたとき、反応がワカ町の商人と同じだったら。

商談を切り替えて、このガラスコップを実際は売る。

それ以降はどんな質問がこようが、陶器ではなくガラスコップだと言い張る。

あれは間違って持ってきたもので売り物ではない、といってごまかしとおす。


 とにかく売り物ではないと強調して、それ以後はガラス製品の話をする感じだ。

無茶な利益を確保することしか考えていないヤツにこの作品は渡せない。

恨まれて作り方を教えないと殺す的な話になる恐れはある。

無能なおっさんは立ち回りが下手だから、そうなったら死ぬだろうな。

その時はこの陶器は壊してしまった後だろう。


 いやな話にならないといいな。

こちらはあくまでも、自分の成果物を適正な価格で売りたいだけだ。

そのための南方系のハーブを適正な価格で買いたいだけだ。

金持ちや貴族様におもねりたいわけではない。

むしろそういう層には関わらず、地味に錬金生活したいだけである。

だから派手に自分の成果をアピールする気は毛頭ない。

文明のレベルを勝手に上げるようなことには毛頭関わりたくない。


 いろいろ見直しのための旅に出てよかったと思っている。

ロートル町にいた空気のまま商談に突入していたら、冷静ではいられなかった。

そもそもガラスコップで躱す作戦が採れない。

南方系のハーブを確保したくて商談するわけだから、それ以外の要素はいらない。

料理をふるまえば印象は良くなるのかもしれないが、意味があるのかわからない。

陶器とガラスコップで印象をよくできれば、それで終わりの話だろう。

陶器の話でもめるようなら、そもそも商談どころではない。


 やっぱりいい具合に気持ちが落ち着き、何が来ても平気な気分にはなった。

あとは、グレゴリとともに、雪ウサギ袋(冷蔵機能付き)を確保しに行くだけだ。

こちらはそんなに厳しい局面はない。

例の巣箱で雪ウサギの抵抗はないし、それ以降は適切な処置をするだけだ。

グレゴリが断るなんてことは、さすがにないと思っている。


 陶器やガラスコップには余計な負担をかけることなく、ロートル町に到着する。

宿を確保したあと、ロートル町のどるぎにいって、グレゴリを待つ。

夕方付近にグレゴリに会うことができた。


 久しぶりのあいさつを交わした後、早速雪ウサギ袋(冷蔵機能付き)の確保を一緒にやりに行こうと頼んだ。

この依頼は当然どるぎを経由させるわけにはいかない。

報酬はいくらいるか聞いたら、ほどよい金額を提示してきた。


 その翌日、待ち合わせをしてその場で払った。

そのあと、二人で連れ立って冬洞窟へ向かった。

その間も、ワカ町のことやミカエル君のことを話しながら楽しく過ごした。

ミカエル君の母親は美人だった、といったら、気の毒そうな顔をされた。

なんだよ、お前も似たようなもんだろうが。

グレゴリの護衛で進んでいるので、そういう意味でも安心である。


 グレゴリは最近娼館の食事がまずいといっていた。

自分が納入していない間も食事は出ていたようだ。

何より、グレゴリがそれを利用していたことに驚いた。

そのうえ、自分の納入した料理を食っていたとは思わなかった。

結構な値が張る料理だったはずである。


 その後も実に順調な展開は続いた。

雪ウサギはすぐに確保でき、雪ウサギ袋(冷蔵機能付き)が二つできた。

自分は、当然グレゴリにこれを一つ渡した。

これでグレゴリは二つこの袋を持っていることになる。

片方は売るなりなんなりするだろう。

口出しするつもりもない。


 そうしたら、グレゴリがこれを俺は売っていいかと聞いてきた。

どるぎにわからないようにうまくやれよ、と自分は言った。

わかった、とグレゴリはいって笑った。


 その後は引き返して何事もなく、ロートル町についた。

途中でウズラさんに久しぶりに出会って、巣箱から卵をもらえた。

グレゴリは誰か親しい知り合いに、例のブツを売りに行った。

自分はそのまま、久しぶりに娼館にしけ込むことにした。

念のためいっておくが、イヤらしい動機ではない。

グレゴリにいわれたことがどうにも気になったからだ。

最近は娼館の料理がまずくなった。


 最近の料理納入の状況が詳しく知りたくなったからだ。

もう新しい業者と付き合っていて自分はいらない。

こういう展開が一番困る。

娼館経由の商談で、南方系のハーブを商人から確保したいからだ。

それも料理納入のためなのだ。

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