異世界転移の錬金生活221 ミツバチさんあやうし
昔の自分は実はすごかったんだ、という気づきほど意味のないものもない。
今の自分はなんなんだ、となるだけだからね。
昔の自分はどうもほぼ寝ていない気がする。
寝ていると思っている時間も頭はずっと考えていたのではないか。
ちなみに土器、陶器作りがないぞ、とお思いのあなた。
粘土質の土壌は川沿いにある。
しかし各拠点には今までに作った土器がある。
それを使うべきだ、どう考えても。
それをいいだすと、また木の屋根づくりからな、となる。
自分は縄文人ではないため、また文明を巻き戻すのはきつい。
土のかまどは懐かしいが、懐かしがっておけばよい。
今は文明の石かまどがある。
いずれにせよ、なんだかんだで、新拠点ヨシオにたどり着いた。
いつもの三倍は疲れ切った帰還だった。
ミツバチさんから、はちみつをもらわなければ。
相当たまっていて驚いた。
そんなに帰っていなかったとは。
ミツバチさんはちょっと拗ねているように見えた。
威嚇飛行に出てこない。
そうか。
ピクシーちゃんは万物の長ドラゴン種だ。
単純にエライものが来たーといって怖がっているのかも。
しばらく待っていると、一匹がそろそろ出てきた。
やっぱりピクシーちゃんを見ている。
ピクシーちゃんは自分の肩に乗ってボーとしている。
ピヨピヨとないたら、ビクッとミツバチさんが震えた。
そのうち巣箱から女王まで登場し、ピクシーちゃんははちみつをなめた。
ピヨピヨとないたら、ビクッと女王は震えて目をうつむけた。
そのうち、巣箱から多数のミツバチさんが登場した。
辺りを飛び回って大歓迎の舞を始めた。
あれ、自分の時より大歓迎されてる。
はちみつなど差し上げます、という明白な意思を感じる。
微妙に傷ついている繊細なおっさんだった。
ピクシーちゃんは当たり前に感じているみたいだった。
魔物間の葛藤と上下関係は、どう理解したらいいのだろう。
ティムするのはいいが、こういうことは考えていなかった。
自分もまだまだ分からない、勉強することが多い。
トラブりたくなければ、みだりに多頭飼いをしちゃダメだ。
まあ、今回の話を多頭飼いの話としていいか微妙だが。
いずれにせよ、ミツバチさんとピクシーちゃんの邂逅は終わった。
それ以降は、むしろピクシーちゃんのほうが、彼らの生活圏を侵さないように気を遣っていた。
意外と大人っぽい対応だったが、よく考えると繭からふ化した大人だった。
しかもこの感じ、もしかしなくても女の子じゃないか。
正直ドラゴンの性別は全くわからない。
ただ、この気遣いができる感じがオトナっぽい。
おっさんのようなガキにはできない風合いである。
やべえ、おっさんのいかん部分がドキドキしてきた。
正直おっさんのティムはどうも女子率高めである。
明らかにオスだという個体には今まで出会っていない気がする。
まあ、ソードフィッシュは雌雄同体である可能性が高いけど。
あと、魔物ははっきり雌雄が必要なもの以外は、雌雄同体という可能性もある。
ピクシーちゃんも繭によるふ化で長寿命を維持するのであれば、可能性はある。
変な幻想は捨てよう。
いつも変なこと考えたあげく、ひどい裏切られ方をしてきたじゃないか。
それより実際的なことを頑張ろう。
まずは、そうだな、キノコの養殖からかな。
丸太を準備して、菌糸をかける。
その後は毎日水やりをする。
そうやって定期的にキノコが生える菌糸床ができる。
どれぐらいでできるかわからないが、楽しみに待とう。
やってみると、意外と簡単である。
シイタケ、マツタケ、シメジ、マッシュルーム。
それぞれ二、三本ずつ丸太に菌糸を撒いた。
あとは待つしかないので、他のことをやって時間をつぶした。
ガラスのコップも作ってみた。
実は、ロートル町のガラス職人の家に上がり込んでいた。
手順はそこで覚えた通りやった。
なんだか、意外なほどうまくいった。
むしろ、作り方よりガラス質素材をどう手に入れるかのほうが重要な気がする。
結局最初期に手に入れたあの火事で溶けたヤツ以外見たことがない。
あるところにはあるのだろうが、自分の専門ではない気がする。
鉱物資源の発見系の感覚は、自分にはない気がする。
ちなみにそのうちに順調にキノコは生えてきた。
これをこまめに収穫し、干したりして過ごした。
ううん。意外なほどうまくいって、逆に書くことがない。
ピクシーちゃんは相変わらずどこかに行って獲物を捕まえている。
手がかからないいい子である。
最近は定期的にミツバチさんからはちみつをもらっている。
例の威嚇飛行はなくなって、うれしいような悲しいようなである。
そうそう、例のトンボである。
最近新拠点ヨシオには全然寄り付かない。
なぜならピクシーちゃんがいるからだ。
そのことがわかったのは、前回書いたトンボから逃げ回った顛末である。
必死で逃げて、ピクシーちゃんに出会ったとたん、ヤツが逃げ出したのだ。
しかもその逃げっぷりが尋常ではなかった。
そこで自分はピクシーちゃんの実力の片鱗を見てしまった。




