異世界転移の錬金生活215 ピクシードラゴン登場
前回白い繭の主をゲットしたあとの話である。
おっさんはビビりである。
何とかこの正体不明の存在と折り合おうとした。
しかし、何しろこわい。
カイコのような幼虫が、小鳥を頭から跡も残さず飲み込んじまうイメージ。
クワのような葉っぱを食うとは思えない、ずらりと生えた鋭い牙。
それなのに食われると分かっていて、白い繭のために枯草を集め続けた小鳥。
あかんイメージが抜けず、イヤな予感は消えない。
何しろ人に見せて感想を聞き、どうするか相談したい。
なんとなく自分と同じおっさんのグレゴリは対象外だ。
おそらく冒険者としての経験が多いグレゴリは、自分以上にビビる気がする。
すぐ捨てろと主張して、前回の雪ウサギのような騒ぎになる可能性がある。
よってこの場合は、若者の美しい頑張り感とバカパワーが重要だ。
頑張ればなんだか大丈夫だし、自分たちはなんだか冒険や危険が楽しい。
友情パワーと正義の心でどんなことでも乗り越えられる。
大事だがおっさんには眩しい、こんなヤツらが今こそ必要なのだ。
言っておくが、断じてバカにしているわけではない。
適材適所という言葉を、おっさんなりに説明しているだけである。
問題ははっきりしている。
今、こういう若者はそばにいない。
ロートル町にいる自分にとって、ミカエル君たちのいるワカ町は結構遠い。
かといって白い繭の主にとって、巣箱の移動は大丈夫なことなのか。
今サナギ化している主にとって、動かされて振動するのはよくないかもしれない。
それが刺激になって、ふ化が早まったり、未熟児になったり。
状況がはっきりしない現状で、不確定要素が増えるのはいかにもマズイ。
これは、ワカ町からミカエル君たちを呼ぼう。
冒険者としての依頼で、護衛でもしながらロートル町に来てもらおう。
ロートル町からワカ町へ、冒険依頼を郵送する手段を考えればよい。
どるぎに行って聞いてみよう。
結果としてすぐに受理されたが、一つ念押しされた。
一回こういう依頼をしたら、取り下げはできない、と。
当たり前だ。
郵送しているわけなので、やっぱりいらん、というのは通らない。
行き違いになって悲惨なことになるのは、ミカエル君たちである。
即金でお願いするのも、こういうわけなのだ。
自分はミカエル君たちが来るのを待ちながら、例の繭の主への監視を続けた。
しかし、変化はないように思える。
ときどきサイズをモノ差しで測ったりしているため、間違いない。
だんだん大きくなっている、というようなことはない。
このモノ差しは、木を削って自分で作った。
例の投げヤリを複数本作成した時に原型を作っていた。
慣れ親しんだミリとセンチで目盛りを削り、染料を使って色付けした。
季節によって微妙な伸び縮みはあるかもしれないが、誤差の範囲だろう。
ミカエル君たちが来る前に、ふ化が始まる可能性はある。
そうなったら、ふ化したものをどうするか、ミカエル君たちに考えさせよう。
とにかく相談できる先があることが、この場合重要である。
どるぎに直接聞いてもいいのだが。
結果として、ふ化が始まる前に、ミカエル君たちは到着した。
即、どるぎで待ち合わせをしたその足で、例の巣箱前に連れて行った。
ちょっと休憩させてくださいよ、などといっていたが、無視した。
巣箱を見せ、白い繭の主を見せたら、即黙った。
「白い繭状になってから、もう一か月は経っている。」
「へえ。たしまみてめじは。こりゃ、よすでいごす。」
「どういう意味だ。こりゃなんなんだ。」
「がすでりとぶとをらそ、すでつやなしゅくと。」
「特殊って。普通のヤツじゃないのか。」
「でんてじるいてくっつをゆま、しょでいなじゃうつふ。」
「もったいぶらずに名前を教えてくれ。」
「よすでんごらどしーくぴ。」
赤っぽいきれいな小鳥が最初いた、という話をした。
その小鳥がこの枯草を準備した、といった。
そうしたらあきれたような表情で、ミカエル君は言った。
それはピクシードラゴンの幼体です。
目が合いましたか、どうですか。
自分は覚えていなかったため、首を振った。
それから、みんなでどうしたらいいか話し合った。
いいなあ。この若者っぽい感じ。
無責任な発言やバカなことも平気で言い合う。
鳥なんて育てたことねえよ俺、とかいっている。
結局みんなで内緒にして、しばらく見守ろう、となった。
ああ、懐かれた捨て犬を拾って、コソコソみんなで育てていく感じだ。
みんなの表情はあくまで明るい。
恐ろしいことが進行しているなんて、これっぽっちも考えない。
若者ならではのしょうもない感じが、実にいい。
グレゴリでなく若者たちを選んだ判断は正しかった、とおっさんは思った。
ミカエル君たちは、ピクシードラゴン見守り当番を決めた。
それ以外のメンバーは今まで通りふるまって、アリバイを作っていた。
かといって、あくまで相手は白い繭である。
変化は乏しく、若者は飽きて来るのも早い。
むしろ、コソコソすること自体を楽しみ始めた。
そしてある日、白い繭の主のふ化が始まった。
この日ばかりは全員集まって当番もくそもなくなった。
中からかわいい小鳥が出てきて、しわしわの羽根がだんだん広がってくる。
羽根の部分だけが、なんだか蝶や蛾の感じなのが異様だった。
あと、前見た小鳥よりも全体の体色が半透明な色味の赤だ。
ちょっと前に見た、内側から赤く光っている最近のガン〇ムっぽい色だ。
そのせいで、生物感よりも機械感が強い感じである。
あと、よく見ると羽根とは別に前足後ろ足がある。




