異世界転移の錬金生活212 雪ウサギ様仏様
夕方近くになって、どるぎにグレゴリが来た。
自分はいかにも今来たように装いながら、声をかけに行った。
「おお、グレゴリ。久しぶりだな。元気か。」
「ああ、ヨシオ。かただっきんげそこえまお。」
「いやあ、苦労しているよ。それで少し相談があるんだが。」
「かんだうそ。なうろだんへいたでしらくいなれな。」
「早速だが、雪ウサギのことなんだ。」
「ぎさうきゆ。はれたそっくのあ、かのたしだをしゃいせぎたま。」
「いやいや、違う。そうじゃないよ。」
グレゴリの鼻息が荒くなってきたので、抑えた。
コイツはどうも白の賢者様に特別な感情があるようだ。
過去に何かひどい経験をしている可能性がある。
おっさんはこういう場合あまり深く聞かないように気をつける。
この手の感情をほじくるとロクなことがない。
「雪ウサギの捕獲を考えているんだ。あの冷気は活用したい。」
「てだっうよつか。だんるてえがんかをにな。」
「巣箱の中で飼いならせば、物を冷やす装置になると思うんだ。」
「なかば。いなじゃつやなうよるせらないか。」
「そうだな。知ってるよ。」
ここでグレゴリは、自分には教育が必要だ、と思ったのだろう。
事細かに、雪ウサギの生態について自分に説明しだした。
自分は、結果オーライだったな、と思い、全部聞き出す態勢になった。
結果として非常にありがたい展開になった。
雪ウサギはやはり氷の魔法を使い、何発も連続で打てる。
未確認だが、氷の魔石を身の内に取り込んでいる。
この氷の魔石は、非常に高値で金持ちや貴族の間で取引されているらしい。
氷の魔石は保管すら困難な、厄介な代物だといわれている。
雪ウサギの死体を見た者はいないため、偶然拾えるような代物でもない。
雪ウサギは自分の身は凍り付かないが、なぜかは不明。
冒険者で討伐できたものをグレゴリは知らない。
この中で非常に自分にとって有用なのは、氷の魔石である。
どうも保管が難しいらしいが、存在はしているようだ。
雪ウサギの体を離れると、とたんに力が弱まるようだ。
最後は空気中に溶ける様に消えてしまうそうである。
新鮮なうちに何らかの処置をする、という感じだろうか。
巣箱という発想は捨てるにしても、氷の魔石を安定させることができればいい。
雪ウサギの体がそれに役立つのかもしれない。
なぜか雪ウサギの体は、凍り付きを絶縁できるようだから。
雪ウサギの体を冷蔵庫に見立てる。
こういう機械のような発想は現地の人にはムリだろう。
自分だって考えていてちょっと気持ち悪い。
何とかして、氷の魔石を雪ウサギから切り離す。
氷の魔石を失った雪ウサギを討伐する。
内臓等を取り出し袋状にした雪ウサギの死体に、氷の魔石を即戻す。
雪ウサギの死体をなんとか新鮮な状態に保つ。
これで冷蔵庫の完成ということになる。
いずれにしても、雪ウサギを討伐できなきゃ意味のない発想だ。
グレゴリには、雪ウサギに対する怒りの感情があるようだ。
このあたりを使ってうまく誘導したら、冷蔵庫が作れる。
まあ、友達を利用するようでいささか気が咎めるが。
おっさんには立ち向かえそうにない以上、そうするしかない。
結構必死に、グレゴリに雪ウサギ討伐作戦を伝えてみた。
物を保存する冷蔵庫として便利に使える可能性があることも話した。
むしろ、今までのこともあるからこそ意趣返しだ、という言い方をした。
よっぽど腹に据えかねていたのか、グレゴリは凄惨な笑顔を浮かべていた。
ただ、最初のステップが一番難関であり肝でもある。
何とかして、氷の魔石を雪ウサギから切り離す。
言うのは簡単だが、実現は難しい典型である。
自分とグレゴリは、ああでもないこうでもないと話を続けた。
ただ、グレゴリは明らかに嬉しそうだった。
見通しができて見えてきた感覚が、彼を勇気づけているのだろう。
グレゴリは日ごろ、怪我をしたら終わりだ、などといっている。
自分は逆にとんでもない見落としはないか、非常に不安だった。
そして、数日後、グレゴリと自分は意気揚々と旅立った。
実はロートル町と秋拠点は橋拠点を挟んで近い位置にある。
冬洞窟拠点まで、サクサクと進んだ。
自分はいよいよ不安になり、頼むから無理するな、と彼に言い聞かせた。
特に氷の魔石を奪うまでは、万全の白の賢者様なのだ。
とても人類には歯が立ちそうにない代物だ。
いまだに、自分の作った巣箱の魔法の氷は取れないのだ。
ただ、やってみると意外と簡単に決着がついて自分が驚いた。
自分の作った魔法の氷つきの巣箱を再度洞窟内に並べた。
じっと待っていると、白の賢者様が現れて、巣箱を検分した。
結構長時間自分の巣箱を見ている。
あげくに中に入っていくではないか。
そのうちに焦れたグレゴリが飛び出して、雪ウサギから氷の魔石を抉り出した。
そこからの流れはすでに述べた通りである。
首尾よく、雪ウサギ袋(冷蔵機能付き)が完成してしまった。
このあたりから、薄々気づいてくる感じがあった。
ひょっとして、前回既に、この巣箱は気に入られていた。
全部凍っていたのは、むしろ気に入った証であった。
しつこく氷の魔力パワーが絡んでいたのは所有権の主張だった。
すでにこの雪ウサギは自分にティムされていた。
だからこそ、グレゴリにもろくに抵抗せず殺された。
結果として、雪ウサギ袋(冷蔵機能付き)という便利アイテムに化けた。
あれ、これは自らを焚火にくべて賢者に食べ物を与えようとした哀れなウサギ(仏様)ではないか。
うーむ、そうか。白の賢者様じゃなくて、白の仏様だったわけか。
うまいこといっている場合ではない。




