異世界転移の錬金生活211 トンボ除け
さあ、おっさんはやっとのことで泥川向こうの町にたどり着いた。
そろそろ、両町に関して必要なことがある。
区別しやすいような名づけである。
なおかつ、人前で万一言ってしまっても恥ずかしくないヤツである。
結果として前世語確定ということだ。
内心は今のところ、ミカエルの町、グレゴリの町といっている。
理由はいうまでもない。
ただ、これをぽろっと本人の前で漏らすと恥ずかしい。
それで、こちらの町、泥川向こうの町という言い方になった。
しかし、この言い方だと視点が勝手に固定されて違和感がある。
まあ、町の名前を現地の人に確認しろ、という話なんだが。
聞いたらあまり意味のある町名ではない。
発音も日本人であるおっさんには実にしづらい。
聞いた瞬間に、自分は使わないと決めてしまった。
今、ひらめいた発想を正直に話す。
ミカエル君は若者だ、グレゴリは自分同様のロートルだ。
ワカ町、ロートル町でいくか。
英語だよな。まあ、どうでもいい。
現地の人に意味が分からなければよいのだ。
そういうわけでロートル町に到着した。
どるぎにいって、グレゴリを探そう。
今は昼間であるため、出かけていないかもしれない。
いなければ例の娼館で情報収集してもいい。
とりあえず、トンボの対処法がすぐ必要だ。
ああ、道具屋のおやじに聞いてみるという手がある。
説明が難しそうだが、意外と売れ線の商品という可能性もある。
トンボに手を焼いているヤツは冒険者に多そうだからだ。
道具屋には経営に微妙に協力しているため、聞きやすい。
まあ、教えてくれ的な展開になったら困るんだが。
そうそう、雪ウサギの巣箱問題もある。
これも、散々協力させられる可能性が高いな。
あ、ちょっと心配になってきやがった。
ノウハウを提供してもらえることばかり考えてきた。
しかしノウハウを考えろ、よこせ、的な展開だってあるのだ。
むしろ道具屋のおやじとの関係は、そっちばかりだぞ。
道具屋に近づくにつれ不安が大きくなり、意味なく店先でうろついた。
そして、それを見逃してくれるおやじではなかった。
「おお、なだりぶしさひ。かたてしにきんげ。」
「うっ、おやじ。実は大変だったんだ。」
「だんな、だんな。ないるわがろいおかくらえ。」
「トンボに刺されて、死にかかったんだ。偶然近所の冒険者に救われた。」
「かぼんと。ならかいるわがちた、ありゃ。」
おやじは同情するような目つきになった。
そして何かを探しに行ったので、ちょっとほっとした。
よかった、この辺のノウハウはさすがにあるようだぞ。
今からこの辺のノウハウを突き詰めるために協力しろ、とか言われたらいやだ。
もう、トンボに無駄に近づいたりしないと決めたのだ。
「こりゃ、だうそやくきにぼんと。いなこてよっとうかつてしぶい。」
「ああ、これか。見たことある気がするな。」
「らなるけかみくよしも、れくてきてしくかうしゅ。」
「分かった。卸せるほどの量になるかわからんが、探してみるよ。」
偏見で済まんが、これは防虫菊っぽい植物だ。
蚊取り線香を思い出して、懐かしい気分になった。
あ、いかん。
自分が考え込んだのをおやじが察知したようだ。
「もでとこいい、かのたいついもお。れくてえしお。」
「いや、なにも。本当だ。信じてくれ。」
「がいいらなれそ。らたいついもお、よろえしお。」
あぶない、あぶない。
自分は、代金を払って道具屋を離れた。
蚊取り線香についてのノウハウを提供してもいいが、今の現地の技術力で何とかなるのかわからない。
こういう場合、まず自分で試してみて、やれそうなら提供するのがよい。
しばらく歩いてどるぎのそばに来た。
ここで、雪ウサギの巣箱を相談していないことに気づいた。
ただ、これについては現地の人は考えてもいない話だろう。
変に話すと、さっきのような食いつかれ方をするだけだ。
もっと整理をしよう。
例の巣箱にまず必要なのは、絶縁する物質だ。
冷気を閉じ込め外部に漏らさない仕組みだ。
分かりやすく言うと、ゴムのような素材だ。
ゴムのような素材だけでなく、その素材を好きな形に固着するノウハウもいる。
まあ、型のようなものに流し込む仕組みを考えようか。
ちなみに、このゴムのような素材が手に入れば、前言ったパチンコもいける。
非常に夢が広がるわけである。
この段階で、道具屋のおやじに教えてやって共に成果を喜び合いたい。
天然のゴムの木のようなものは、こんな寒冷地では生えていない。
あとは、スライム的な魔物に期待したい。
ただ、この手の魔物こそ、各種魔法の使い手である可能性が高い。
ゴ〇ンジャーのような各種色味のスライムに襲われたくない。
しかもおそらく単細胞系生物特有の情もくそもない戦い方だろうし。
実は異様に素早く動くとかだったらと思うと、ゾッとする。
いやだなー。
例のナパーム弾の何とかバージョンは、軽くトラウマ気味である。
おっさんのような平凡な人間には対処が難しい。
アンチスペル的な魔法を駆使したいが、人類には許されていない。
シールド系の魔法もである。
おっさんにできるのは、物理的なつる草結界のみである。




