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異世界転移の錬金生活210 死んだらどうする

 さて、おっさんは考えた。

例の白の賢者様のことである。

雪ウサギは、現実の脅威なのだ。

失敗すると凍傷で死ぬんだ、結構簡単に。


 それなのに、自分は結構面白くとらえていた。

緊張感や危機感が足りていなかった。

今まで生死の境をさまよい九死に一生を得る経験を何度もしてきた。

最近もトンボに殺されかけたのだ。

それなのに必死さを忘れていた。


 笑っている場合ではない。

落ち着こう、浮ついている場合ではない。

いろんな町を最近発見し、人との関わりイベントが多い。

いい思いをすることも相対的に増えている。

甘い、甘すぎる感覚だ。


 自分はもっと必死に前に進んでいたじゃないか。

毒かもわからん野草を食べて、ギリギリのところで生を拾ったよな。

土砂ぶりの雨の中、冷える体に鞭打って木切れで屋根を組んだよな。

活性炭によってやっと雨水を真水にして水分を取った。

それまでほぼ飲まず食わずだったぞ。


 普通死んでるな、という経験をして、それでも生きている。

この間、運よくトンボのような脅威に出会わなかった。

忘れるな。運がいいだけだ。

おっさんのリアルラックは意外とバカにできない。

だからこそ、緊張感や危機感を捨てたら死ぬぞ、間違いなく。


 よくある話だ。

人がよく事故をやるのは、意外と自宅近くの駐車場内だったりする。

明らかに危険な場所じゃない。

人を殺しているナンバーワン動物はあの蚊である。

日常に潜んだ危険にやられるケースのほうが多いのだ。

いかにも危険そうな場所、危険な生物にはそもそも近づかない。


 雪ウサギを何とか捕獲して冷蔵庫化したい。

この気持ちは変わらない。

だからこそ、危険を冒している気分をしっかり持とう。

カリカリに凍りつく巣箱を見て、こんなことを思った。


 そうなのだ。

さすが魔法だ、なんともないぜ、なのである。

巣箱がいつまで待っても、元の状態に戻らない。

火に近づけても知らん顔である。

巣箱が燃えそうになってもである。


 謎の魔力パワーが氷を生み出しそれで巣箱を覆っている。

ずっとパリパリいっているのである。

こんなものを人間が浴びたら、簡単に死んでしまう。

いってみればナパーム弾の氷バージョンである。

水が凍って氷になっているという感じではない。


 この手の謎の魔力パワーというのは、おっさんにはきつい。

常識が邪魔して、とっさの判断を絶対誤りそうである。

まさか、そこから出ないだろう。

まさか、この局面でその展開はないだろう。

まさか、死んでもそんなものに頼るのか。

この手の判断が、結果として甘い、となりそうだ。


 自分は修行が足りない。

出直してまいります。

白の賢者様には、こう一言申し上げたいものである。

白の賢者様が賢い戦い方をするかどうか以前の問題である。


 少なくとも、このナパーム状の氷爆弾を受けても外側に漏らさない巣箱がいる。

そうでないと、危なくて冷蔵庫としては使い物にならない。

絶縁物質とでもいう物が絶対必須である。

そしてこれがあれば、巣箱としても完成形に近いとはいえるだろう。

前世の冷蔵庫の製品設計よりも厳しい条件じゃないか。


 このあたりで、おっさんはギブアップである。

根気が続かず申し訳なく思う。

さらに情報収集に努めて、何らかの糸口ができれば、と思う。

闇雲に巣箱を作り続けても、まったく意味はなさそうだ。


 というわけで、いったん新拠点ヨシオに戻ってきた。

親しくなった冒険者は、こちらの町では若いミカエル君たちだけである。

あとは、専門家でもない病院のような施設のおっさんだけだ。

情報収集先としては、いかにも中途半端である。


 泥川向こうの町へ行き、グレゴリのようなベテラン冒険者の意見を聞きたい。

ちゃんと聞いたことはないため、意外と大事なことが漏れている可能性はある。

相手は大事な情報じゃないと思っていても、巣箱を作る自分には大事とかね。

その辺は気心の知れたヤツのほうが、情報収集しやすいのだ。


 あと、例のトンボの話もちゃんと今だからこそ聞いておきたい。

今度出会ってしまったときには、何らかの対処がしたいからだ。

ある野草を燻せば、トンボは寄ってこない、とかね。

なにか、対処法があるのではないかと思うのだ。


 あとは単純に行き詰った今だからこそ、例の娼館に行って憂さを晴らしたい。

気持ちが立て直せれば、光明が見えるかも知れない。

情報収集先としても、実は優秀である。

冒険者の大半がここの客だから、この手の変な話は特に聞いている可能性が高いのである。


 そういうことで、旅立ちの準備を始めた。

こちらの町には適当に挨拶をし、荷物を背負って、例の台車を駆使して旅立った。

この道行はもはや慣れた道であり、それほど危険性もない。

日ごとの屋根つき簡易宿泊所もあるので、雨にも気楽なものである。

ただ、実際降られるとつらいため、傘ほしいなとは思うけどね。


 まあ、そういっていて油断して例のトンボ騒動が起こったわけだが。

今更ながら、ここの所の自分の行動を顧みると、死ななくて本当に良かった。

新拠点ヨシオに対する自宅感、安心感が、悪く作用したとしか思えない。

改めて気をつけようと思った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 溶けないなら凍った巣箱をでかい箱に入れれば簡易冷蔵庫の完成なのでは…?
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