異世界転移の錬金生活207 潮干狩り
さてさて、本日は何をしようか。
まあ、この時点ですでに決まっているけどね。
さあ、以前もちょっと触れていたけど本格的に始めるぞ。
潮干狩りである。
新拠点ヨシオに着いて、結構日にちが経っている。
まあ、おっさんは動き出しが遅いのよ。
ボォーとする時間が何より大事なのよ、わかるよね。
あとは、それこそその準備に追われていた。
まずはスコップの類を木で作った。
そのあと、掘り返すためのフォークというか熊手を作った。
これは結構苦労した。
木の根っこごと掘り出して、根っこの枝分かれ部分を細かく削りだした。
根っこが砂地を掘り返してくれる感じで行く。
金属の棒を折り曲げて溶接してつなげるというのが、よくある手法だろう。
もちろん自分にはそんなノウハウはない。
町の鍛冶屋で鉄の熊手を買ってくるべきだった。
いざとなれば例の抉って穴をあける鉄工具の出番である。
そして貝類をまとめておくための袋。
これは自分的には伝統的なつる草の細工袋である。
何を目指しているのか、自分は。
さあ、ぱっと見は貝類など全然いない。
オッケー、オッケー、いいだろう。
もう慣れたよ。
大体一筋縄ではいかない。
当たり前だ。
ここは前世の整備された潮干狩り会場ではない。
必要以上に苦労を強いる、異世界の掟があるのだろう。
そもそも前世の潮干狩り会場は、夜に貝を撒いているという噂がある。
そうでもしないと、慣れない素人が楽しめるものじゃないのだ。
昔沼地に対して行ったように、ガシガシ用意した道具類で掘り返した。
すぐにあちこちの砂地がデコボコになった。
自分がこういうことばかりやるから、大地の女神は自分に冷たいのかもしれない。
もおー、私の肌がデコボコだわー、許せないっ。
今ちらっと、例の娼館のボス、玉藻さんの怒った顔を思い浮かべてしまった。
ああ、毒されてるってか。
そりゃあそうでしょ。
まあ、でもこの穴掘りは結構癖になる。
だんだん、穴掘りが目的なのか、貝を見つけるのが目的なのか、わからなくなる。
よく考えてみると、塩田開発の時も似たようなことをした気がする。
あのとき、貝類はやっぱり見なかったな。
おっさんは遅ればせながら少し冷静になり始めた。
考えてみると、こういう獲物が得られるとき、自分はいつもウチを準備してきた。
ソードフィッシュのときはわな、ミツバチさんのときは巣箱という具合に。
どういう理屈が成立しているのか、自分にはわからない。
しかし、そういうルールが今のところ成立しているのは確かだ。
ということは、この場合も貝類のためのウチを準備すべきではないか。
つまり、貝類用のわなを製作して、それを仕掛けて放置してみる。
闇雲に掘っても全然エンカウントしない以上、これに賭けるべきじゃないか。
どんな形のわなが適当なのだろう。
少なくとも前世ではそんな手間を貝類にかけていない。
ちょっと考えて、一つ思いついたのは落とし穴形式のわなだ。
幸い今、砂地が穴だらけなのである。
この穴を紙等で塞いで砂地で上部を埋める。
そうすれば、この落とし穴に貝類がはまってくれる。
あとは穴が崩れたりしないように、つる草の網で補強しよう。
それからは、ちょっとソードフィッシュ捕獲と同じような努力をした。
ただ、以前と違い一週間ぐらいで成果が出て驚いた。
つまり、貝類が捕まっているのを発見したのだ。
ううん。
アサリのような形をした二枚貝のヤツである。
しかしたくさんはいない。
全部の落とし穴をすべてまとめても、味噌汁一杯分ぐらいである。
つまり人様に配れるレベルではない。
自分使いで終わってしまう量であった。
貝類が町で売っていないわけが、なんとなくわかった瞬間である。
さて、あとは試食である。
異世界なのでもちろん油断は禁物である。
ただ、二枚貝の中身は、やっぱり柔らかいアサリのような身である。
変な警戒色もない普通の二枚貝である。
あと、サポート役の異世界の人も今はいないため聞けない。
しっかり海水に漬けて砂抜きをした。
そのあと、しっかりゆでて吸い物にした。
出汁は魚醤とソードフィッシュの干物である。
野草をいれてもよかったけどね。
ああ、あと、周辺の海から海藻の類は回収した。
コンブやワカメ、ノリっぽいものは、すでに町で味見は済んでいる。
色はかなり違うのだが、味だけは間違いない。
町の魚屋にも並んでいることがある。
というより魚屋に並んでいるのを買ってみて、こちらでも採ることに決めた。
それまでは、いまいち食す気にはなれない色だった。
コイツも吸い物の出汁に入っている。
まあ、うまかったよ、もちろん。
自分が元気にこの話をしている時点で、死んでいないってことだ。
この二枚貝はアサリなんかじゃなく毒だった、というオチはさすがにない。
そもそも、わなで捕まえた時点で、人に安全な食品なのだ。
なんとなく、ティマーの勘、的な感覚でそう思う。
いや、錬金術師の勘か。
そういうことにしとこう。




