異世界転移の錬金生活206 キノコ狩り
安全にキノコ狩りがしたい。
よく考えてみれば、自分は外にベースがある冒険者。
新拠点ヨシオの周辺でも、いくらでもキノコの生息域がある。
どうも、うまそうな茶系のいかん毒キノコだらけだが。
キノコに詳しい冒険者に教わりつつ、キノコ狩りを安全に行いたい。
自分が見て見ぬふりをしてきたいかん色のキノコがむしろこの世界では当たりだ。
正直八百屋のキノココーナーは、自分基準では悪夢のような光景なのだが。
しかし、食えるキノコのふりをしている毒キノコもあるはずである。
この辺の詳しい情報を何とか現地の冒険者に学びたいのだ。
そういうわけで、今日はどるぎに来ている。
同行者はグレゴリでもいいが、今回は新しいことを試してみたい。
どるぎへの冒険依頼を出すのだ。
ある程度の金品を提供すれば可能だと聞いている。
やっとちょっとは読めるようになった現地文字を書く。
依頼内容は、一人のみ。キノコ採集に詳しい者。何日か拘束。食事は支給。
細かいニュアンスや正しい文法やらには不安がある。
相当ぶっきらぼうで、要点のみの依頼書になった。
この後に準備してきた提供予定の金品を記入した。
最後はヨシオと署名した。
依頼書を貼り付けて、しばらく状況を見守る。
見ていく人もいるが、たいていはあまり関心を示さない。
結構な時間そうしていたが、どうもパッとしない。
そのうちにグレゴリが現れた。
「だんな。かのたしだをいらい。かしゅいさのこのき。」
「ああ、グレゴリ。できたら受けてくれないか。」
「はてしとしゃんけうぼ、だいらいいなくすがきえり。」
「利益はキノコじゃダメなのか。いくらいる。」
「らなるれくんぶんはをこのき、まあ、なかいい。」
「ああ、それでいいよ。決まりだ。」
自分は依頼書に、キノコは半分わたす。と追記して、彼に渡した。
彼は、そのまま受付のところに持っていき受理された。
金品は、この段階で受付に納入しておく決まりだそうだ。
もちろん、即納入してこれも受理された。
結局、それから二日間、グレゴリと二人でキノコ狩りをやった。
さすがのベテラン冒険者である。
毒キノコの見分け方だけは、相当しっかりレクチャーしてくれた。
逆に言えば、それ以外は大体無害だ、ということのようだ。
特にいわゆる幻覚をもたらすキノコは、事細かく特徴を話していた。
考えたくないことだが、これを依頼してくる金持ちや貴族様もいるそうだ。
何に必要なのかは詮索しないほうがよい、といっていた。
以前考えていた麻薬、モルヒネ原料の鎮痛剤系のポーションの話のようである。
ここでもグレゴリはそういった他人様の不幸にはさほど関心もなさそうだ。
ひどいと思うか、しょうがないと思うかは、人によるだろう。
まあ、普通の冒険者にこういう話は荷が勝ちすぎるのだ。
身に余るレベルの正義感は、ある意味寿命を縮める結果になる。
自分はむしろ緊張感と危機感をもって、この話を受け止めることにした。
少なくともこれからは、安易に鎮痛剤系のポーションの話は考えない。
錬金術師として、もう無理にそんなことに関わらなくても生きていける。
この幻覚系のキノコも同じことだ。考えないようにしよう。
そう自分に誓った。
そういうわけで、二日間のキノコ狩りはなかなかの成果を上げた。
これからは一人で大丈夫だな、とグレゴリに言われたため、うなずいた。
半分のキノコ狩りの成果を渡した後、どるぎに戻った。
グレゴリの成果を報告して、金品を支給したあと別れた。
これで、新拠点ヨシオ周辺でもキノコ狩りが決行できる。
あとで八百屋にキノコの需要があるのか聞いてみよう。
野菜や果物は定期的に卸しているため、顔見知りだ。
八百屋に話してみると、歓迎するといって笑っていた。
いわゆる野生のキノコは、丸太で育てた養殖物より高値で買い取るそうだ。
逆に養殖物という話に、自分は飛びついたんだけどね。
まあ、前世と同じで菌糸を丸太に蒔いて育てる手法があるそうだ。
ひそかに試してみようと決意したのは言うまでもない。
そういうわけで、新拠点ヨシオに戻る準備を始めた。
この時の帰還では、例のタルの輸送も必要だった。
結構な苦労をして、といいたいところだが、例の台車もある。
張り切って準備を重ね、大したオチもなく、順調に新拠点へ戻った。
久しぶりに帰った新拠点ヨシオは、少し懐かしい感じだった。
巣箱に溜まったはちみつをまた強奪する。
ミツバチさんは、やっぱり威嚇飛行をして自分を困らせた。
しかし、なんだかもはや予定調和な行為である。
自分が持ち込んだタルやそのほかの調味料にも興味があるようだった。
飛び回ってなんだか歓迎してくれているような気さえした。
自分はミツバチさんに纏わりつかれながら、新しい調味料を使って料理を作った。
そしてタルをなんとなく眺めながら、一人で食事をとった。
なんだか久しぶりに一人を実感している。
ここの所のあわただしい人間としての生活が、懐かしいような気がした。
随分過ごしたここでの生活は、自分にとっての原点なんだと知った。
しかし今ではなかった要素がある。
人の匂いのする様々な物品と現金である。
貴重品の類が、すごい勢いで増えていく。
倉庫もそろそろ整理が必要なレベルにモノが入っている。
たった一人の努力と多くの人間の努力の差が、実感とともに保管されている。
まあ、いい経験をしたと思う。
塩田も一人で管理していたなあ。
人の町では、結構な安値で塩を手に入れることができてへこんだ。
おそらく結構な人海戦術で、安い労働力を使ってこの値段なんだろうと思った。
自分ひとりで作った塩には、正直値段がつけられない。




