なあ、地球の人類滅亡したってよ002 ニギハヤヒ
「ただね。このまま閉じると、わからなくなる。」
「だから、なにがだ。」
「いや、だからさ。調査できない。」
俺は頭を抱えた。
そうなのだ。コイツはこういうヤツだった。
決めつけ始めると頑固だ。
しかもこういうときのコイツは、意外と正解だったりする。
調査できないと言い切っている以上、それ以外の結論はない。
きっとなにがしかの説明しづらいことがある。
「どういうことか、説明できるか。」
「滅んだ地球の人類は、もういない。ヨシオ以外。」
「あ。消したのか。消滅か。」
「そもそも、どういう感情で彼らに接してきたか、君は知ってる。」
「ずっとブツブツ腐っていたからな。」
「その彼らが自ら滅んだ。どういう感情になるだろうね。」
「してやったり。」
「否定できないが、一応違うといっておこう。」
そんなニヤついたイキイキした顔で言われても。
つまり、地球には人類は痕跡含め存在しない。
もしくは改めてもう、違う人類の歴史が開始されている。
つまり今までの地球はもうない。
調査は不能ということだ。
「ヨシオに説明を求めるしかない、と。」
「滅亡の要因など、なんとなくでいいじゃないか。」
「そんなぼんやりとした理由など、認められるか。」
「困ったヤツだな、君は。まじめすぎるんだ。」
「困ったヤツだな、お前。いい加減すぎるだろ。」
そういうわけで、あらゆる意味で関心をなくしたアイツはとっとと出ていった。
そこに残されたのは、異世界にぶち込まれたヨシオと俺。
これもなにかの縁である。
これは、なんとか面倒をみてやろうではないか。
また、例によってヨシオはピンチを迎えているようだしな。
「ふうむ。今度は飲料水問題か。」
「川でも設定してやるか。自分で何とかするだろう。」
「周辺をうろつくだけだな。ううむ。」
「よし。…現地の限定フィールドを乾燥に設定。火災発生。」
「火災にあおられ降雨発生。限定フィールド内鎮火確認。」
ヨシオはおろおろしていたが、なんとか危機を脱したようだ。
危険なことがないように、安全第一で行った。
とりあえず、インスピレーションも与えた。
なかなか手のかかるヤツである。
「おお、さすがだね。お優しいことだ。」
「なんだ、見ていたのか。」
「フラフラしていたら同僚に怒られてしまったよ。」
「何やってんだ、お前。」
「調査は進んだかい。なんかわかったかい。」
「なあ、なんでそんな感じなんだ。」
「君のほうが適任だからさ。知りたい人が調べるべきだ。」
くっ。最高にムカつく。
もういい。
こんな世界は、ヨシオごと閉じてなかったことに。
そもそもここは、世界としてはとても不安定である。
まだまだいろいろ間に合っていない。
他の同僚も鋭意努力中だろう。
そんな中張本人がフラフラしていたら目立つ。
「調査は俺がやってもいい。だがな。」
「おおっ。ありがとう。やっぱり君はいいヤツだ。」
「詫び状の件は、どうなった。」
「すまないね。何とかそれもお願いするよ。」
「いい加減にしろ。」
「実は次の人類の世界も手が離せないんだ。そういうことでひとつ。」
「おい、またそれも届けなしか。」
「届けなんて後追いでいけるんだ。問題ない。」
「その後追いは、いつも俺がやっているんだが。」
ちくしょう。コイツはいつもこうだ。
周りに迷惑をかけまくっているのに、その自覚もない。
ヨシオも俺も立派なコイツの被害者だ。
ヨシオは明らかに、地球人類の中で重要な扱いも受けてきていない。
そんなヤツが、地球人類の滅亡要因を説明させられる。
そんな説明責任を追及されている。
俺はその追及役を押し付けられている。
ひどい、ひどすぎる。
「それはそうと、ヨシオにどんな聞き方をすればいい。」
「なんのこと。」
「このままだと、ヨシオと対話もできない。」
「ああ、言ってなかったね。ヨシオにはそんな高級な能力はない。」
「はあ。どうすんだ、それじゃ。」
「ヨシオがなにか手がかりを口にするまで、根気よく待つ。」
「それまでに死んだら。」
「死んだら地球人類の滅亡要因が不明で終わる。」
その後、いろいろあった。
ヨシオは少しづつ成長しているように俺には思えた。
ヨシオは、地球の文化をなんとか生かして生活していた。
他の同僚に頼んで、文明の痕跡・村(スモール)を設置したりした。
その時にはまだ、他の人類という重要なファクターが準備できなかったのだ。
その前にある程度の動植物を充実させる必要があったためだ。
人類はある程度成熟した環境じゃないと繁栄できない。
その後めでたくヨシオは他の人類との邂逅を果たした。
我が事のようにうれしかったのは言うまでもない。
いまだ、ヨシオは地球人類の滅亡要因を口にしない。
分かっていないのではないか、という恐れがある。
知らぬは本人ばかりなりけり、である。




