異世界転移の錬金生活102 泥川発見
森が唐突に終わり、泥水が激しく流れる川がふいに視界に広がる。
見たところ一〇メートル以上の川幅がある。
とても向こう岸まで泳いで渡るのは無理だ。
そもそも、手前側にけっこうな沼地が広がっている。
ぱっと見は入っていけそうだが、油断できない。溺れる。
川岸をどこまでもさかのぼってみるか。
それとも、下ってみるか。
体力的に無理だ。もう疲れた。
やるにしても、じっくり行こう。
人里探しをやるには、こういった水場は重要だと思われる。
まあ、何にしろ、水の確保はできそうだ。
泥水をろ過して、煮沸すれば飲めそうだ。
飲料水、風呂用の水、いろいろできることが増えた気がする。
それには、火種がいる。
とりあえず、少し森側に戻ってみる。
拠点を作ることが優先だ。さっきそう決めたではないか。
かたい土でやや大き目の平地を確保できれば良い。
風水だのなんだの、難しいことは知らない。
先ほど作ったロープの出番である。
適当に、拾い集めた折れた枝を地面にしっかり刺して四隅に固定した。
その枝にからめながら、ロープを結界のように張った。
つる草の束をまとめて枝に結び、それでお祓いのような儀式をした。
できた。何だか知らんができた。
ここへきて初めて、人間っぽい努力の果てに、拠点ができた。
言い知れない感動が自分を包んだ。
地鎮祭というんだったか、土建屋のような儀式に特に思い入れはない。
しかし、こうする理由がわかった気がした。
ロープに囲まれた結界の中で、初めて安らかに睡眠をとった。
ひどい夢を見た。
しかし、朝起きると何も覚えていない。
まあ、いいか。
周囲の結界を見てほっとする。
結界を出て、川岸に近づき、沼地の泥をすくってみる。
泥と水をまず分けよう。
どうやって。
なにかの容器があれば、そこへ入れておく。
半日も置いておけば、泥と水を分けられるだろう。
どこで容器は手配する。
土を掘り返して浄化槽のようなものを水漏れしないように作る。
葉っぱをしきつめて密閉できないか。
難しいか。やってみる価値はある。
分けた後はどうする。
上澄みを煮沸したいが、火種もない。
ここが課題だと思う。
が、意外と気づけば大したことではない気がする。
悩ましいが、とりあえず川をさかのぼってみよう。
水源に近づけば、川幅も狭くなり水もきれいになるであろう。
ずっと歩き続けてしんどいが、やっと見えてきた。
このきっかけをつかんで、停滞した流れを変えたい。
そうとう気持ちが楽になった自分は、ドンドン進んだ。
体感で二時間ぐらい歩き、休んだ。
川幅が狭くなってきた気配はない。
水は泥水から変わっただろうか。
沼地が相変わらず広がっていて、遠くて見えない。
パチッ、パチッ。パチ、パチ、パチ。
妙な音がする。なんだか焦げたにおいがする。
何が起きているんだ。
火だ、火が出ている。
燃えてる、森が燃えている。
逃げろ。
幸い今、自分は水辺にいるではないか。
沼地の側に一時避難だ。
まず、拠点に戻りたいが、戻り切れるか。
こんなところで、炎にまかれて火傷でもしたら悲惨だ。
冷静に状況を分析しよう。
森のかなり奥のほうから火がどんどんこっちに向かってきている。
こりゃあ、危ない。
どうして、火が出たのだろう。
火種が欲しいとは思ったが、火事になれとは思っていない。
考えてみれば、もう五日は少なくとも雨が降っていない。
空気も、そうとう乾燥している気がする。
落ちている折れた枝も結構乾燥が進んでいた。
結果としては作業がしやすく、ありがたかったが。
今は、気候的に乾季だったというオチだろうか。
結局おろおろするだけで何もできない。
沼地の中に入り込んだが、やや沈み込んだだけで問題ない。
靴の周りがぬかるんでいる。
靴の中にも水が入って、そうとう気持ち悪い。
このまま、拠点方面へひた走った。
結局、拠点へ戻って、荷物をひっつかむ。
結界はあえなく撤去ということになった。
簡単そうに書いたが実は撤去は大変だった。
そのまま沼地へ出た。
さすがに、沼地の中にいれば、炎にまかれはしないだろう。
こんなところでは落ち着かないが。
とりあえず、不安定な態勢のままで、靴を脱いだ。
靴下も脱ぎ捨てた。
靴の中はやっぱり大変なことになっていた。
沼地は、はだしのほうがまだしも楽である。




