あくまでアクマは良魔にこだわる125 自分の姿
自分はどうも自分の姿が好きだ。
よく考えなくても、おそらく皆そうだろう。
だからこそ、このところの展開にはちょっとついていけない。
自分は世間的には死んだことになっている。
しかしそうではない。
とうとう自分は三十五歳になった。
ホノカと二人で今は世をしのぶ状態になってしまった。
とまどう自分を残して、世間はいよいよ騒がしい状態だ。
結果としてそれが自分にとってもいい方向に働いた。
トバフシミの戦いが開始される。
エド幕府がいよいよ倒れる。
海舟さんとサイ郷さんにより、エドが無血開城されたらしい。
ボシン戦争が始まる。
アイズ藩が新政府軍に徹底的につぶされた。
どうも年端もゆかない子供も含めて、むごいことになったらしい。
どうもホノカが結構助けたらしいけどな。
それから戦線は北の大地に移った。
五リョーカクの戦いである。
海舟さんとも仲が良かったエノ本武揚さんが総大将らしい。
新撰組の生き残り、ヒジ方歳三も参戦して戦死したそうだ。
まあ、端的にいえばこんな状況で一人や二人、いなくなっても増えていても、意外と気にはされない。
そもそも北の大地は、開拓が必要なほど未整備の状態だ。
それをいいことに結構二人好きに動いた。
その中で、何人か気になる人に出会っている。
まず、ニシ山志澄さんである。
イタ垣退助のトサ迅衝隊として、トバフシミの戦い、ボシン戦争に転戦している。
おもしろいことに新撰組組長の近ドー勇の率いるコーヨー鎮撫隊と激突している。
その過程で戦死なさっている。
正確には、亡くなるところにホノカが出くわし、そこでミツバチのウズメさんの旦那と知った。
人間名でいうと、ヒラ井加尾さんである。
知らなかったのだが、ちょうど自分がホノカと結婚したころ、加尾さんも彼を入り婿にヒラ井家を継いでいた。
つまり正確には彼はヒラ井志澄さんという。
自分はそこでホノカにこういわれた。
おっさんが死を免れたことで、近しい人が代わりに亡くなったと思う。
せっかくだし、ミツバチのウズメに申し訳ないから、この人になろう。
それからはひどかった。
どこかに連れていかれ、自分の顔、背格好が例の亡くなった人と同じになった。
そのまま自分はトサに里帰りし、加尾さんの家に帰った。
ミツバチのウズメさんは喜んでくれたが、すぐにこう訊いてきた。
「良魔でしょ。匂いでわかる。」
必死で説明をするハメになった。
彼が戦死したことを聞き、彼女はしばらく泣いていた。
でも、自分が一緒にいるのですぐに慣れてしまったようだ。
また、かわいそうなことをしている自覚がある。
あとは、ノ村宣之さんである。
この人は元ミト藩士で、トリのウズラさんであるお徳さんと結婚した。
この人もどこかの戦場で死んじまったのを自分が見た。
これをホノカに相談したのがいけなかった。
どこかに連れていかれ、自分の顔、背格好が亡くなった人と同じになった。
トサに警官として赴任するといい、彼女をトサに連れ出した。
トリのウズラさんは喜んでくれたが、しばらくたった後こう訊いてきた。
「良魔でしょ。話し方が同じだよ。」
必死で説明をするハメになった。
彼が戦死したことを聞き、彼女はしばらく泣いていた。
でも、自分が一緒にいるのは問題があると思っているようだ。
前に求婚を断られているしね。
まあ、ばれる、ばれる。
しょうがないので、ニシ山とノ村を混ぜて、ニシ村と名乗ることにした。
名前は松兵衛という呉服の行商人だ。
カナ川で改めて、ホノカと祝言をあげた。
ホノカは、おツルと名乗り始めた。
ちなみに、君江さんという妹がいたが、この子はスガ野覚兵衛の妻になった。
まあスガ野は海メン隊のモロ関係者であり、今でも何くれと気をつかってくれる。
ホノカにも気づかいを忘れないナイスガイである。
自分には一向に気づかないヤツだが。
今の顔と背格好かい、ニシ山志澄さんだよ。
居心地がいいのは、結局トサの幼なじみの家とヒラ井の姓なんだよ。
時々、お徳さんも遊びに来るしね。
ホノカはやっぱりココにはなじめないようだけど。
ホノカの拠点はカナ川で、時々飛んで迎えに来る。
カナ川の拠点で二人で遊んでいると、唐突に扉が開く。
どこでかぎつけてくるのか、佐那子さんが立っている。
絡新婦のミユキさんである。
この子は今でも身持ちが固く、自分の帰りを待ち続けている。
アミを張っていて自分の居場所をキャッチして、唐突に訪ねてくる。
しかししばらく連続でやられると、自分もそのうち慣れてしまった。
ヤバイ、ヤンデレ、というワードが浮かんだ。
意外としかし、ホノカもイヤがってはいない。
イヤそうなのと困ってそうな感じなのは、むしろトリのウズラさんの方である。
理由はこわくて聞けていない。
こういう二重生活というのか、各拠点にオンナありというのか。
何が起こっているのか自分でも消化しきれていないが、おもしろい状況である。
それはともかく、自分は今、自由民権運動にどっぷり関わっている。
冒頭にちょっと話したきりだが、イタ垣退助と足並みをそろえている。
代議士なんぞというものには、実は一向興味はない。
政治家よりも自分は行商人でもやってコソコソ稼ぐニシ村松兵衛がお似合いだ。




