あくまでアクマは良魔にこだわる121 北の大地
自分はどうも北の大地が好きだ。
海メン隊は自分も含め足場のうまく固まらない者が多いため、こういう土地を自分で開拓するのはロマンだ。
何度もそれをやる機運はあったが、いまだにうまくいってはいない。
いろいろ自分で手を打ってはいる。
左の件は、長々もの語っているので、通常の手紙にしては何分わかりづらい。
文ではないので一書の方がよろしかろうと思うが元より不敬の義お見逃したまえ。
〈第一段〉
先日中三大夫が下セキの方へお帰りの時分だと思う。
その内、同サツマの者よりごくひそかに訊いたのは、隊の者が大夫の身上を大いに論じ勢いだしているようだ。
なおひそかにその理由を聞くと、大夫はもっとも海軍に志を起こされ、陸軍にはお世話になれない、とのことだ。
そのあまりの事は不分明で、自分が思うに、三ヨシさんが陸軍をおさめられた時は隊中一同皆報国の赤心を呼び起こし、大夫の賢なるを感じ入ると思う。
だから今このようなことを聞くのは、定めて小人共が私の頭上にその賢大夫のおらぬのを憂える。
いわゆる、南面してせいすれば北方うらむ、のことだろうか。
〈第二段〉
はからずも三ヨシさんが来て幸いに諸君の何事もなく平安だと伝え聞き喜ぶ。
三大夫及び大兄にも、三、四日中には下セキを出られると聞きお待ちしている。
〈第三段〉
右の一段二段のことをつらつら案ずるところ、かの竹島行きのことは、かねてお聞きいただいている通りだ。
三大夫にもお聞きいただき随分ご合意いただいているので、いずれ近日に再び下セキに出て決定するべきかと思う。
そのあとはまだお目にかからず、お返事を待つところだ。
しかし当今世間の人情は目前のことばかりなので、相談できないことだ。
竹島行きのことなどは必要のないこととして、大夫が遠大の策には従えないか。
そうなるとこのことは行われにくく、残念なことだと察している。
〈第四段〉
自分はエゾに渡ろうとしていた頃より、新国を開くのは積年の思い、一世の思いであるから、なにとぞ一人でもやり続けようと思う。
その中で伊トー助太夫のことは、別に自分の志を憐み、かつ積年の思いもあって、不屈してひそかに志を振っていた。
だから先ごろナガサキでイヨオオズの蒸気船を、三月十五日より四月一日までの間で借入の定約を定めた。
だから、近日その期限も来る。
〈第五段〉
先日お耳に入れた時内々にいわれたのは、三ヨシさんでなければ自ら出て行きたいと、自分は誠に幸せだ。
しかし上段の時勢だから、君らがこの地に足を踏み入れることは、どうも難しいのではないか。
〈第六段〉
今月の始めよりナガサキに出て、イヨオオズの船が来るのを待とうと思っているうちに、自分は先日中風邪にて床で寝ていた。
心にまかせずかれこれするうちに、イヨオオズの船と共にナガサキに巡るようにならんかと思っていた。
〈第七段〉
イヨオオズの船、石炭費用一昼夜に一万五千斤 故に二万斤の見込みだ。
タネ油一昼夜に一ばかり、かの竹島は地図をもって測量すると、九十里ばかりだ。
先ごろ、井ウエ聞多がかの島に渡った者に訊いた百里と、だいたい同じだ。
その島に渡る者の話に、楠木によく似ているあるいは新種の木があり、その他、一里から二里もない平地があるそうだ。
島の流れは十里ばかりだと、自分はそう長崎で聞いたが、何とも似ている話だ。
そのもとは、一所から出ている話ではないかと疑う。
下セキより行って下セキに帰るより、かの島に行ってただ帰れば、三日余計にかかるだろう。
〈第八段〉
元より断然と船を借入した上は、自ずからこういう話は起こるだろうとは思う。
しかし同志の人を募るのに道があるが、三大夫及び君が立つのを止めるの止めないのという話をこの頃早々聞いた。
お止めになれば、また以前より約定した判っている人を募らないといけない。
ただし金の都合ばかりについてだ。
もしご自身がお出にならずともご同志であるので、割り当ての金をお出し下さい。
そうすれば、自分も他に人を募る必要がない。
〈第九段〉
三大夫も思し召し立つことなく君も立つこともお出でもなく、他人を募らない。
自分の身をもってこの行いを成し遂げるには、また金がいる。
今手もとにも少々はあるが必要なことだから四百金十ケ月の期限にて借入した。
ご尽力がかなうならば、生前の大幸だ、よろしく願い入れる。
〈第十段〉
お頼み申し上げたいことは、三大夫及び君のご召し立ちが整わずとも、山に登っては材木を見、木の名をただし、土地を見ては稲及び麦、山にてはクワの木ハゼの木、その地に適しているか否かを見る者、一人海に入り貝類、魚類、海草などを見る者。
(▲お世話するべきかとお頼みしたいことは、このことだ。)
上件自分に一生の思い出とし、良林及び海中の品類のいいものを得られれば、人をうつし万物の時を得ることをよろこび、諸国浪人らに命じてこの地を開かせようと、そのあまる思い千万である。
三月六日、印ドー肇さん宛ての手紙である。
「イヨオオズの蒸気船」というのは、「いろは丸」のことである。
残念なことになったのは、ご存じのとおりである。
あの契約には、こんな遠大な計画が紐づいていたのだ。
あと、おもしろいと思われるのは、シマネ沖合の竹島である。
ドクト、とやらいう不思議なささやきが聞こえるが、気にしてはいけない。
うっ、頭が痛い。
ここを北の大地同様に開拓して、浪人たちの楽園にしよう、なんて考えている。
チョウ州の井ウエ聞多やら、伊トー助太夫やらが登場している。
つまり自分だけの夢というわけでもないのだ。
チョウ府藩士、三ヨシさんや印ドー肇さんにも熱烈に誘っている。
北の大地の開拓だけは、なんとかしたいと常に熱望し続けている。
海賊王っぽい仕事でもあると、ちょっと思う。
おお、そうそう、海賊王っぽい仕事といえばコレだ。
幕府による第二次チョウ州征伐に関しては、将軍の死により立ち消えになった。
この間隙をぬうようにして、チョウ州藩協力の元、カン門海峡を管理し始めた。
この管理というのは、単純に通行料を徴収するというものだ。
もしくは関係の深い船以外は通さない、ということを意味する。
儲かってしょうがない。
こんな思いをしたことはなかったので、かなり調子に乗っている。
まあ、いつまでも続かないとは思うがね。
なんだかワルイことをしている感じはするしな。
海賊王なんだから、ワルイことをしても問題ないのだ。
しかし今見返してみても、この手紙はそうとうアツい感じだな。
夢なんだから当然といえば当然なんだが。
幼稚ながら、ちょっと政治っぽいことに目覚めつつある感じかもしれない。
北の大地の開拓事業なんていうのは、のちに本格的に国家によって開始される。
もちろん、そんなことは当時の自分は知らない。
そういう意味でも、この手紙はおもしろい。




