あくまでアクマは良魔にこだわる118 三ヨシ慎蔵
自分はどうも三ヨシ慎蔵さんが好きだ。
なにしろともにテラ田屋遭難を生き抜いた仲だ。
それ以上にこの人はとても義理がたい。
出会いからしてこんな感じである。
昨日チョウ州より中シマ四郎、ノ間百合熊、フク原三蔵の他、要路の人ヤマ田宇右衛門とかいう人がきた。
いまだ話し合いもできていない所だが、今日中に完了となるようにいわれたか。
チョウ州よりカツラ小五郎からも長々しい手紙がきて、半日も早く上キョウをうながされた。
しかしこの度の上キョウは、私一人の外に当時船の乗組員一人位を、なるべく誰かキョウにお出しいただけば、はなはだ都合がよい。
一、チョウ州の方へは、サツマのクロ田清隆という人がみえたため、この方とともにカツラ氏は先日上キョウと聞いた。
カツラ氏に諸隊の者で人物とされる人を七、八名も同行させるようにいってきた。
一、自分の船は正月二日三日頃にお出しするべきか、いまだはっきりしない。
右のような成り行きであるので、そのお心積りでいてください。
去年十二月二十九日、チョウ府藩士、印ドー肇さん宛ての手紙である。
この中の「船の乗組員一人位を、なるべく誰か」の時に紹介された御仁である。
即正月元日に行動してくれ、出発まで時があったがそのまま待っていてくれた。
その後印ドーさんやカツラさんには、一緒に難儀したテラ田屋遭難の報告もした。
しかし自分たちはナガサキへ帰るので、また乗り換える船はできず、水夫らに泣く泣くいとまを出した。
しかし泣く泣く立ち去る者もあり、いつまでも死を共にしようという者もいた。
うちから外に出ていった者は二、三人だけだ。
おおかたの人数は、死まで何の地までも同行するといってくれて、また困ってしまいながら国につれ帰った。
幕府の方からは大いに目をつけられ、またナガサキでも自分たちは一戦争と思っているが、幕府の役人ら金を出したりして、私の水夫を引き抜こうという勢いだ。
しかし、なかなか頼もしい者ばかりで、出て行く者はない。
今あなたの藩の海軍を開きたいならば、この人数をうつしたらと思っている。
今朝イヨオオズ藩より屋敷に掛け合いがきて、水夫二、三人、蒸気方三人ばかりも、しばらく拝借したいとなった。
自分の人数を屋敷よりゴ代友厚の頼みで差し出した。
カツラ氏にナガサキの近時の様子を調べて記した手紙を送った。
これは極内々でご覧になられるならば、極めて確かなる便りで、チョウ州にまでお送りください。
七月二十八日、三ヨシ慎蔵さん宛ての手紙である。
まあ、ほんとにカメ頭社中は船もなく、困窮している状態だ。
出稼ぎ労働をメンバーにお願いするしか仕事もない。
困った、困った。
今は鎖攘の説が一変して倒幕の議が相次ぎ起こる。
幕府の専横は日に日にはなはだしいため、おそらくは救うことはできない。
大政奉還の策を速やかに春嶽公に告げ、君が一身にこれに当たられるべきだ。
フクイ藩士、下ヤマ尚さんに八月あって、乗り出して低音でこう話したら、えらい感銘を受けていた。
即座に春嶽公にこれを献策し、どうも不調に終わったようだがな。
そもそもこの策は、自分一人の策ではない。
他でもない三ヨシさんから聞いて、自分も感銘を受けた策だ。
去る七月二十七日及び八月一日、コクラ藩の合戦がついに落城したと聞いた。
さてご内談うけたまわることのように、ご妙策を行われることと思っている。
その時幕府の海軍がカン門海峡を封鎖する恐れがあったが、これもない。
とても海峡の封鎖はしないだろうが、先の用心をしておくべきだ。
こう思い早々下セキへ出かけたが、もう敵がいないので何とも拍子抜けだった。
将軍もいよいよ亡くなられ、後は一バシまたキ州が跡目に望まれる。
一向まとまった論がないようで、いずれにしても幕府中は大いに乱れるようだ。
またかねて高名なる幕府の人物、アボー守カツ麟太郎さんもまたキョウに出た。
是非チョウ州征伐は止めにすべきと論を致してアイズあたりと大論し、日々過ごしているようだが、なんとも解決しないようだ。
幕府はこの頃イング国の助けを受けて全く身動きが取れないことが多くなった。
これは小マツ帯刀さんの見積りだ。
かねてフランス国の公使は、幕府の周旋ばかりしていたけれども、エドに来ているフランス国の公使は近日国に帰るようだ。
この頃はサツマより日本の情実をフランス国の方へ話して、かのフランス国にてサツマ両人が周旋している。
これはサイ郷さんの話だ。
この頃サツマが、兵は動かしながらイクサを未だしないのは大いに理由がある。
まず難しいことではなく、幕府が倒れるのは近くに迫っているように思われる。
最近新しく聞くことはまずは右の話ばかりだ。
この便でモリ玄道にお願いした事は、実に小事件ながら実にむごそうなことだから、モリ及び伊トー助太夫共より申し上げるので、よろしくお聞き取り願いたい。
つまり下セキへ来ているナガサキの商人、小ソネ英四郎さんの事だ。
八月十六日、三ヨシ慎蔵さん宛ての手紙である。
この「ご妙策を行われる」というのの中身がコレなのだ。
大政奉還の策なんて大それたことは、内々の手紙であっても書けない。
もって回ったいい方になっているのは、重大事であるが故である。
倒幕なんぞという武力でどうにかする策は、外国勢力に付け込まれる。
将軍が朝廷に穏当な形でまつりごとをお還しする、これが今は妙策である。
今や敵味方に完全に別れてしまった、幕府の軍艦奉行カツさんとの関係もある。
自分は個人的には恩義のある相手とは戦いたくない。
サツマやチョウ州に関わることが多い自分は、そうでなくても外国勢力の思惑が聞こえてくる。
黒船の運送業なんてものを真剣にやりたければ、知らないわけにもいかない。
攘夷というのはいよいよ遠ざかりつつあり、最近トサ勤王党を思い出す。
イヤ、だからこそ素直に開国に応じてやる筋合いも、またないといえる。
あとな、資金がない。
個人の結社でしかないカメ頭社中では、雄藩のいうことを無視できない。
雄藩のように資金を集める仕組み自体がない。
黒船自体がなかなかの金食い虫でもあり、そもそも厳しい条件なのだ。
すぐ沈没してすべてを失うというおまけがつくとは当時わかってなかったけどね。
ちなみに中オカ慎太郎はどうしているかって。
アイツは個人で各地を回り、有名志士として演説して金子を稼いでいる。
実家に仕送りしたり結構ハブリがいいような噂を聞いた気がする。
有名であれば、実はこういう稼ぎ方があるのである。
自分はどうかって。
自分だけでやるなら、これがスマートなんだよな正直。
一応自分も有名なうちに入るからね。
カメ頭社中で多くの人を抱えている自分にはムリなだけで。
このうちには当然名もなき志士が多くいるわけだしね。




