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【完結済み】アラフォーのおっさんによる異世界転移の錬金生活  作者: 薙尋
あくまでアクマは良魔にこだわる1
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あくまでアクマは良魔にこだわる115 新婚旅行

 自分はどうも新婚旅行が好きだ。

まあ、両手指を負傷し実は結構不自由なので、養生の旅に出ることにした。

折角なので命を救ってくれたお礼も兼ねて、龍女おリョー改めおトモと遊ぶことにした。

名を改めたのは単純にわかりにくいからだ、自分と同じ名だからね。


 トモの由来はなんだってか。

彼女は結構な豪弓使いなんだよ。

とてもじゃないが大の男が引けないような豪弓を使っている。

どこからともなく矢が出てきてそいつを使う。


 トモエ御前とか、誉田ホムダ別とかしってるだろ。

これはみんな鞆のことだ。

手首に巻いて、弓の弦が腕を傷つけるのを防ぐ道具だ。

弓使いの侍大将や武人の誉れが、この道具だ。


 後世では新婚旅行とかいうらしいが、うっ、頭が痛い。

一番の真の目的は、幕府に完全に睨まれているので、身をひそめるためだ。

敵の勢力をふたつ完全に結びつけるサツチョウ同盟は幕府にとって気に入らない。

ちなみにテラ田屋にはそのときの密約資料がしっかりあり幕府に押収されている。


 まあ、いざとなれば自分の強運で何とでもなるけどな。

テラ田屋遭難に関しては、今回ばかりは何度も死を覚悟した。

だからこそ、龍女のこともあり、自分は大丈夫なんだとの確信に近い感覚を得た。

どうにかなるんだ結局、ムリに見えてもなんとかなる。


 そんなことより、ホノカはメチャはしゃいじゃって大変だ。

今も準備に追われているぞ。

子供みたいな見た目なので実にほほえましい構図である。

ヤラしいことは大事だ、というようなことさえいわなきゃ、あの子はいい子だ。


 一月二十三日のあとだ。

キョウの屋敷にいる間、二月末にもなればアラシ山にあそぶ人々、なぐさみにといって桜の花をもって来た。

中にも中路某の老母は実におもしろき人だ。

神道学者は奇人であり、和歌などよくできる。


 この人共は自分の話をおもしろがり、妻を愛して度々つかいをくれる。

この人はかつてショーレン院宮の姦謀を怒り、これをさし殺さんと謀った人だ。

元々禁中で奉公していたので、右のようなことには甚だ使いどころの多い人だ。

公卿方などで知らない者はいない。


 これより三日オオサカに下り、四日に蒸気船に両人共に乗り込んだ。

ナガサキに九日に来て十日にカゴシマに至り、この時キョウ留守居、ヨシ井幸輔コースケさんも同道した。

船中で物語もあり、また温泉でともに遊ぼうといって、ヨシ井さんが誘った。

また二人連れでキリシマ山の方へ行く道でヒナタ山の温泉に泊まり、またシオヒタシ温泉に行った。

ここは、もうオオスミ国にて和気清麻呂ワケキヨマロが庵をむすんだ所だ。


 イヌカイの滝、その瀑布は五十間も落ちて、中程には少しもさわりがない。

実にこの世の外かと思われるほどの珍しい所だ。

ここに十日ほども泊まり遊んで、谷川の流れにて魚を釣り、短筒ピストルを持って鳥を撃つなど、まことにおもしろかった。

これよりまた山深く入って、キリシマの温泉に行った。


 ここよりまた山の上にのぼり、アマノサカホコを見ようと、妻と二人連れではるばる登った。

イセ藩タチバナ南谿ナンケイ氏の西遊記ほどではないが、道はひどく女の足には難しい。

しかしとうとう馬の背越えまでよじ登り、ここで一休みしてはるばると登った。

ついにいただきに登り、かのアマノサカホコを見た。


 やれやれと腰をたたいて、はるばる登った。

このような思いもよらぬおかしい顔つきの天狗の面がある。大いに二人で笑った。

ここに来れば、実に高山なので目の届く範囲は見渡せるのでおもしろい。

けれども何分四月ではまだ寒く、風が吹くものだから、そろそろと下った。

なる程キリシマつつじが一面に生えて、実に作り物のようにきれいだ。


 その山の形。

 イからロの間は、山坂、焼石ばかり。

男子でも登りづらいぐらい、険しいことは例えられない。

焼け土がさらさらで、すこし泣きそうになる。

五丁も登れば、はき物が切れる。


 ロからハの間は、かの馬の背越えだ。

なるほど左右、目の及ばないほど下がかすんでいる。

あまりに危なく、手を引いていく。

この穴は火山のあとで、渡り三町ばかりある。

すり鉢の如く下を見ると、おそろしき景色だ。


 ハからニの間は、大いに心やすく滑っても落ちる所はない。

ここにキリシマつつじが、おびただしくある。


 ニにたどり着く、サカホコはあらがねでこしらえたものだ。

これはたしかに天狗の面で、両方ともにその顔が作りつけてある。

このサカホコは、少し動かしてみればよく動くものだ。

あまりに両方へ鼻が高いのでそのまま二人で両方より抑えてエイヤと引き抜いた。

その時はわずか四、五尺ばかりのもので、すぐまた元通りおさめた。


 キリシマ山より下りキリシマの社に参ったが、これは実に大きな杉の木があり、宮も古めかしく極めて尊かった。

そこで一宿、それよりキリシマの温泉に至り、ヨシ井幸輔コースケさんが待っていた。

ともに帰り、四月十二日にカゴシマに帰った。


 それより六月四日よりサクラジマという船でチョウ州へ使いを頼まれ出船した。

この時妻はナガサキへ月琴の稽古を行いたいといって同船した。

それで、妻をナガサキの知り合いの所に頼んだ。


 自分はチョウ州に行ったが、はからずも参戦を頼まれた。

一戦争したら運よく打ち勝ち、身もつつがなく元気だ。

チョウ州公にもお目にかかりいろいろお話ししラシャの西洋布地などを贈られた。

サツマに帰って、その様子を申し上げて二度ナガサキへ出た時は、八月十五日だ。


 世の中の事は月と雲、実にどうなるものやらしれない、不思議なものだ。

家にいたら、味噌よ薪よ、年の暮れは米の受け取りよ、などばかりだ。

天下の世話は、実に大雑把なもので、命さえ捨てればおもしろいことだ。


 これから春になれば妻をカゴシマに連れ帰って、キョウの戦いが始まると思う。

あちらの方へも、事によっては出かけてみようかとも思っている。

サイ郷隆盛タカモリさんも、その家内も、大いに気持ちのよい人だ。

自分もその内にも安心な事は、こちらへ妻などを頼めば、何も気遣いはない。


 十二月四日、乙女姉さん宛ての手紙である。

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