異世界転移の錬金生活116 海に到着
さて、海が近づいてくる。
潮の香りがそれをはっきり自分に教えてくれる。
考えてみれば、よくもまあこんなおっさんが、である。
結構な距離を心を折らずに歩き通してきたものだ。
いい加減にご褒美が欲しいところだ。
具体的には海辺の町が欲しい。
無理なら、自分で塩や海魚を採っていくだけだが。
ちょっと気持ちが暗くなってしまったが、状況は明るい。
特に新拠点ヨシオを得たことだ。
周辺がきっちり管理された村、町しかない状況だったら。
こういう好き勝手はできなかったわけだ。
所有権を主張する争いが起こると、当然言葉の問題がある自分は絶対勝てない。
そういう問題を抱えないで済んだのは、ラッキーだった。
領主やら代官やらの貴族様とのトラブルが、よく描かれるではないか。
大体結局強引に力づくで押し通し、魔法や武力で脅し上げるしかなくなる。
土台ルーツが異なる異民族と、穏当に分かり合うのはしんどいのだ。
言葉の問題がないとしても、である。
まあ、話を戻すと、結局海辺の町を欲するのは、わがままの類だ。
まとまった文明のある人の町が見たいのだ。
この世界の人の営みを見て、できれば一緒に溶け込んでいきたい。
今のところ、これについてはかなわない夢のようだが。
さてさて、海に到着できそうだ。
もう相当潮風が強くなってきている。
まずは、この海に初のわな設置だろうか。
それとも改めて大き目の網をこさえて定置網漁でもするか。
まあ、じっくり構えよう。
周辺で貝類を集めるだけでも相当楽しそうだ。
あとは塩だ。
塩田開発は必須だろう。
問題は自分にこのノウハウがないことだ。
乾燥させる、重労働だ、というぐらいの認識しかない。
正直、自分に今一番足りないものは布地だ。
濾す、水分を絞る、荷物をまとめる、服を着替える。
どう見ても、途中の工程や自分の身の回りすべてに、布地が必要である。
そして、これが意外と森の中では調達が難しい。
いや、綿花等原料は生えているかもしれない。
もしくはクモやカイコ等の特定の虫から採れるのかもしれない。
しかし、その後どうするかノウハウが全くない。
こういう人は珍しくないと思う。
あれから布地を開発した人を自分は称賛尊敬する。
どんな海の生物がいるかわからない。
ふと思った。
釣りあげた後、扱いに困る怪魚がいたり、空を飛ぶような魚もいるかもしれない。
へたすれば海に棲むドラゴンの類が迫ってくる。
自分のつたないこの手の怪物の知識でも、海はやばいかもしれない。
想像できないサイズ感の生物がいる可能性が高い。
うーみーだー。
到着した。とうとう来てしまった。
念のため周囲を大きく見回して、町の影を探す。
ない、本当にない。
港といっていい場所に出ているが、周囲には何もない。
人の痕跡も全然見当たらない。
ここは無人島の類だったりしてな。
それにしちゃこの島大きすぎる気がするけど。
でかい泥川が流れているし。
絶望しそうな気持ちを立て直そう。
どこかに人の痕跡ぐらい探せるさ。
大丈夫だ、すでに一つ見つけたじゃないか。
その周囲に人里ぐらいあるよ。
そんなことより、海を見よう。
おお、なんと美しい。
沖縄の海かってぐらい、すごい色彩だ。
生物の痕跡はあまりない。
貝類を探そうか。
だいぶ掘らないと見つけられないのか。
それより、わな設置か。
海にはどんな生物がいるんだろう。
岩場を探して、そこにわなを仕掛けよう。
厄介なヤツがかかったら、そのとき考えよう。
毒の心配もしないとな。
その後、わなをしかけてしばらく港をうろついた。
塩田に関して考えたが、いい案がない。
当然海水はしょっぱいことは確認した。
単純にこれを壺に詰めて煮詰めれば、塩が採れる。
しかし、このやり方では手間ばかりかかる。
効率をよくするのが、塩田のはずだ。
砂浜を結界でくくり、ひたすら海水をかけ続けてみるか。
いつかは砂上で塩が結晶化するんじゃないか。
結晶化した塩まみれの土をひたすら回収する。
塩まみれの土を今度は土と塩に分離しないとならない。
ひたすら厳しい肉体労働になりそうだ。
こういう労働をコツコツやるには、おっさんは年寄りすぎる。
世間知が邪魔して、この手の話は人に投げたくなる。
しかし、他の人などいないから、困ったもんだ。
ごく小規模に、何日かかけてゆっくりやるしかない。
これで塩が採れたらうれしいだろうな。
いっちょはりきってやってみるか。
調味料の類はこれだけでなく、他にも必要だ。
でも、これさえあれば、だいぶ違う。
とりあえず、海水をすくう柄杓の類がいるな。